徐々に狂っていく冒険者
――七日目。
ギルドホール。
もはや見慣れた光景になった人だかりの中心で、
アリサは静かに立っていた。
「……はい」
声は、少しだけ硬い。
「ギルド公認ガチャ」
「一週間検証配信、最終日です」
拍手。
歓声。
だが、どこか空気が違う。
期待よりも――
結果を見届けに来た、という人が多かった
〈最終日か〉
〈最後の最後で出たら伝説〉
〈頼む、Aでもいい〉
アリサは笑う。
「うん、私もそう思う」
「最終日だし……さすがに、何かあるよね」
自分に言い聞かせるように。
◆
「じゃあ……いきます」
七日間。
回した総額は、もう考えない。
トータルでは明らかにマイナスだ。
ガチャが回る。
【排出:Eランク】
「……」
間を置かず、次。
【排出:Dランク】
「……まだ」
さらに。
【排出:Eランク】
笑顔が、固まる。
〈……〉
〈きっついな〉
〈最終日でもダメか〉
「だ、大丈夫!」
「最後まで回すって決めてたから!」
震えを、声で誤魔化す。
最後の一回。
「……お願い」
ガチャが回る。
【排出:Eランク】
「…………」
静寂。
アリサは、
しばらく排出口を見つめたまま動かなかった。
そして――
ゆっくり、息を吸う。
「……以上です」
「一週間検証、終了です」
明るい声。
完璧な締め。
「結果は……まあ、見ての通り!見事な爆死!」
「でも! Aが実在することは証明されてるし!」
「私が引けなかっただけ!」
〈お疲れ!〉
〈よく頑張ったよ!〉
〈十分検証になったので参考にさせてもらいます〉
配信は、拍手の中で終わった。
◆
配信終了後。
アリサは、
ギルドホールの端で、しばらく動けずにいた。
「……私」
「何したかったんだろうな」
Aランクは出なかった。
Bランクも出なかった。
“夢はある”と示したつもりが、
自分が一番――
夢に縋っていた。
その時。
怒鳴り声が、聞こえた。
◆
「――ふざけんな!!」
視線の先。
別のガチャ筐体の前で、
三人の冒険者が揉めていた。
「悪かったって、そんな怒るなよ」
「勝手に使ったって、どういう意味だよ!」
一人が、叫ぶ。
「……パーティー資金」
「お前、勝手に使ったのか!?」
男は、視線を逸らした。
「……A出たら」
「これまでの負債全部戻ると思って」
「思って、じゃねぇ!!」
【排出:Eランク】
筐体の無機質な表示。
「……ほら」
「またEだ」
誰かが、乾いた声で笑った。
「その金は次の遠征資金だぞ…」
「資金きえて、これじゃあ遠征行けねぇんだぞ…」
「……だって」
「初日にA出たやつ、いたじゃんか……」
拳が、飛んだ。
周囲が止めに入る。
怒号。
罵声。
ギルド職員が駆けつけ、
三人は引き離された。
◆
アリサは、
その光景から目を離せなかった。
胸が、冷たくなる。
「……あれ」
「私も、同じだ」
配信。
検証。
理由はいくらでもつけられる。
でも――
引いている理由は、同じ。
「……当たるまで」
「やめられない」
他人の揉め事が、
急に現実味を帯びて迫ってきた。
一歩、間違えれば。
仲間。
信頼。
未来。
全部――
ガチャの前で、簡単に壊れる。
◆
その様子を、
少し離れた場所でシンは見ていた。
アリサの背中。
そして、揉める冒険者たち。
「……そろそろ、だな」
楽しさの段階は、終わった。
今は――
怖さが、伝播し始めている。
「それでも」
「止まらないんだけどな」
ガチャは、今日も回る。
希望と絶望の区別が、
つかなくなった世界で。




