日常に浸透するガチャ
ギルドガチャ開始から、一週間。
初日から盛り上がりをみせ、その熱は冷めることはなく、様々な盛り上がりを見せていた。
ギルドホールの片隅。
人だかりが、いつもより一段と大きい場所があった。
理由は、ひとつ。
「はーい! 今日も来ました~!」
澄んだ声が響く。
淡い黒髪を揺らし、
軽装のローブに身を包んだ少女が、水晶板を掲げて手を振る。
――アリサ。
十八歳。
若くしてCランクまで駆け上がった実力者であり、
同時に、今もっとも勢いのある冒険者配信者。
その恵まれた容姿と珍しい魔法系スキルを使う注目されている冒険者だ。
「ギルド公認ガチャ! 一週間検証配信、五日目!」
「今日も元気に回していきます!」
配信ドローンの向こうから、コメントが流れる。
〈待ってた〉
〈今日こそAランク来い〉
〈アリサなら引ける〉
期待は、彼女一人に集まっていた。
◆
「じゃあまず、10連目!」
「いきなり10万捧げます!」
軽い調子で、金を入れる。
ガチャが回る。
【排出:Eランク回復薬】
【排出:Dランク魔石】
【排出:Eランク素材】
「……うん、いつも通りだね!」
笑顔。
だが、ほんの一瞬、まばたきが遅れた。
10万を失った動揺は隠せない。
〈まだ序盤〉
〈反動来るよ〉
〈アリサは持ってる〉
〈これでまた回して! ¥10000〉
「投げ銭ありがとう!」
「じゃ、次いこっか!」
さらに回す。
【排出:Eランク】
【排出:Eランク】
【排出:Dランク】
「……」
一瞬だけ、声が止まる。
だが、配信中なのですぐに笑顔を作る。
「ほら! 検証的には大事だから!」
「下振れもデータだよ、データ!」
コメントは、優しい。
〈無理しないで〉
〈今日は流れ悪い〉
〈やっぱこんだけ回しても出ないもんだな〉
でも――
止める声は、誰も出さない。
◆
「……じゃあ、今日はここまで――」
そう言いかけて、
アリサは、ガチャ筐体を見た。
確率表。
A、S、EX。
――Aは、確かに実在する。
――初日に、誰かが引いたのは確認済みだ。
「……あと、一回だけ」
その言葉に、
ギャラリーがざわついた。
「ラスト! 本当にラストだからね!」
ラストになけなしのお金で引いて当たりを引く!
これこそ配信者として最高の展開だ。
ガチャが回る。
【排出:Eランク】
「…………」
沈黙。
アリサは、しばらく画面を見つめてから、
小さく笑った。
「……今日は、ダメな日でした!」
明るい声。
完璧な配信者の顔。
「また明日、挑戦するね!」
配信は、そこで切れた。
アリサの目は若干潤んでいた。
◆
配信終了後。
アリサは、
誰もいない壁際で、深く息を吐いた。
「……なんで、出ないの」
小さく、誰にも聞こえない声。
Aは、確かに存在する。
Sも、EXも。
分かっている。
分かっているからこそ――
これまでのハズレを帳消しにするように、
回してしまう。
◆
その夜。
――ギルド非公式掲示板。
1:名無し冒険者
アリサ今日も爆死だったな
2:名無し冒険者
でも見ちゃうんだよな
あれ
美少女がだんだん泣きそうになるの魅入ってしまう
3:名無し冒険者
アリサが引けないなら
俺が引けるわけなくね?
あんなに回してるのにBランクすらでてないし
4:名無し冒険者
逆でしょ
あの有名な配信者のアリサでも引けないってことは
ヤラセじゃないってことだ
6:名無し冒険者
Aは実在
S以上は未確認
だからこそ想像が膨らむ
まじで何が出るんだ?
9:名無し冒険者
アリサ明日も回すって言ってたぞ
検証勢としては助かる
10:名無し冒険者
あれ検証って言ってるけど
もう戻れないだけだよな
明らかに配信で稼いだ額より使ってるだろ
端末を閉じ、
シンは静かに目を伏せた。
「……いい象徴が、できたな」
Aを引いた無名の冒険者。
そして――
引けない人気配信者、アリサ。
希望と絶望。
両方が揃った。
ガチャは、
誰に対しても平等ということが証明された。
これでさらに引きずり込まれる冒険者は増える。




