ギルドガチャ開始!
ギルドホール中央に設置された、異様な物体。
魔法陣を刻んだ金属製の筐体。
正面には水晶板。
横には――確率表と、各ランクの景品一覧。
E~Sまでのランクが並び、
さらにその上には【EX】と記された枠が存在していた。
【ギルド公認ガチャ】
【1回1万円】
その文字を前に、冒険者たちは集まっている。
だが、誰も動かない。
ギルド公認と書かれていようが事前告知もなく、急に現れた物体に戸惑いが隠せない。
「……本当に回していいのか?」
「金だけ取られる詐欺じゃねぇよな?」
「S級が絡んでるって聞いたけど……」
疑い。
警戒。
様子見。
ギルドという場所で、
金を払って“運任せ”に何かを引く。
その発想自体が、まだ馴染まない。
少し離れた場所で、
シンはそれを見ていた。
――当然の反応だ。
最初は、誰も信じない。
誰も引かない。
「……最初は、警戒してそうなるよな」
◆
沈黙を破ったのは、
中堅冒険者の男だった。
装備は並。
階級はDランク、可もなく不可もない冒険者だ。
「……まぁ、1回くらいなら」
周囲の視線を受けながら、前に出る。
「外れでも、笑い話だ」
そう言って、
水晶板に金を入れた。
ガチャが、回る。
魔力が唸り、
内部で何かが入れ替わる音がした。
――いよいよだ。
シンの胸が、
僅かに、きゅっと締まった。
結果が、出る。
◆
【排出:Bランク高位魔剣】
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「……は?」
「おい、待て」
「それ、上位ダンジョンで出るやつじゃねえか!?」
魔法陣から赤黒い刃を持つ魔剣が現れる。
その存在感は今自分が持っている装備とは格が違う。
「う、うお……?」
「マジかよ……?」
男自身が、一番困惑していた。
だが――
「……本物だ」
「魔力反応、間違いねぇ」
誰かがそう呟いた瞬間。
空気が、変わった。
◆
「ちょ、俺も!」
「今の見たか!?」
「確率通りなら……いや、でも……!」
次々と、人が並び始める。
さっきまで疑っていた連中が、
金を握りしめ、列を作る。
「俺も1回だけ!」
「外れてもいい!」
「当たったら一生自慢できるぞ!」
ガチャが回る。
結果が出る。
「くそっ、外れ!」
「Eランクかよ!」
「……でも、さっき当たってたしな……」
そしてまた、回す。
――阿鼻叫喚。
歓声と罵声。
笑いと絶望。
ギルドホールは、
一瞬で異様な熱気に包まれていた。
◆
シンは、その様子を見つめながら、
はっきりと理解してしまった。
「……あぁ」
最初に当たった、あの男。
傍から見れば、ただの幸運。
だが実際は違う。
「……あれは俺だ」
最初は、軽い気持ち。
外れてもいい。
1回だけ。
そして、
“たまたま当たる”。
それがすべての始まりだった。
1度味わった幸運は記憶に強く残り続ける。
その幸運を求めてガチャを引き、外れれば損害を取り戻そうとまたガチャを引く。
「……最悪の成功体験」
その一言が、
胸に重く落ちる。
◆
ガチャを回す冒険者の指先。
結果を見る時の呼吸。
当たった瞬間の叫び。
外れた時の、悔しそうなおたけび。
全部、覚えがある。
全部、過去の自分だ。
「……俺、同じことやってるな」
かつての自分を、
量産している。
だがそれは自分が望んだ事だ。
◆
俺はもう、ガチャの前に立てない。
引きたいとは思わない。
ただ――
「……戻れないんだな」
引く側には。
ここで戻れば、
ギルドガチャを設置した意味がなくなる。
俺はもう、
ガチャに手を出してはいけない。
あれほど好きだったものだ。
だからこそ――
スキルで失ったものが発覚した時点で思い出の中に留めておくべきだった。
◆
「次、俺!」
「もう一回だ!」
「今度こそ……!」
さらにまた、
誰かが回す。
シンは、静かに背を向けた。
俺の引く地獄は、終わった。
今はただ――
新しく過去の自分と同じガチャに取り憑かれた冒険者に幸運を祈るだけだ。




