魔剣ガチャ初日
――魔剣ピックアップ初日。
掲示板に告知が貼り出された瞬間から、
ギルドホールの空気は、明らかに変わっていた。
【期間限定ピックアップ:火属性魔剣】
【対象ランク:B/A】
その文字を見た冒険者たちは、
一瞬で考える。
ここで引くべきなのか、また違う属性の魔剣まで、
待つべきなのか
そして次の瞬間には、考えるのをやめた。
◆
「……火属性、来たな」
列の先頭付近で、
一人の冒険者が唾を飲み込む。
「次の階層、火耐性ないとマジでキツいんだよ」
「ここで出なきゃ、あの階層は無理だ」
言い訳は、十分すぎるほど揃っていた。
「一回……いや、三回だ」
「三回で出なきゃ諦める」
そう言って、
金を入れる。
ガチャが回る。
【排出:Eランク素材】
「……」
もう一回。
【排出:Dランク魔石】
「……くそ」
三回目。
【排出:Eランク】
「……っ!」
歯を食いしばる。
「……いや、もう一回だけ…」
「これでほんとに、ラスト一回だ」
誰に言うでもなく、
自分に言い聞かせながら――
列から離れない。
◆
少し後方。
「来い……来い……!」
若い冒険者が、
祈るように両手を握りしめていた。
駆け出しの冒険者には1万は大金だ。
たいした才能がない自分にとって人生が変わるかもしれない、そんな期待を込める。
ガチャが回る。
【排出:Bランク火属性魔剣】
「……え?」
次の瞬間。
「よっしゃああああ!!」
叫び声が、
ギルドホールに響き渡る。
排出口から現れたのは、
赤熱した刃を持つ魔剣。
刀身に走る火の紋様が、
はっきりと他の武器とは違う性能を主張している。
「Bランクだ!」
「火属性のBランク魔剣ほんとにでたぞ!?」
「……マジか」
「一体いくらになるんだよ、それ……」
本人は、
震える手で魔剣を握りしめていた。
「俺……」
「俺、これで……」
言葉が続かない。
周囲から、
拍手と羨望の視線。
「おめでとう!」
「一万で人生変わったな!」
湧き上がる歓声、どこか半信半疑だった中で起こった、
成功体験。
それを見てしまった者たちは、
それに続くように、もう止まれない。
◆
一方で、当然当たらないものもいる。
「……なんで」
「なんで、私だけ……」
壁際に座り込む女冒険者。
足元には、
Eランク素材が入った袋。
「……十万」
「十万あったのに……」
目は赤く、
声は震えている。
「せめて10万回収できるものでよかったのに……」
「最高ランクの魔剣なんて言ってない……」
仲間が肩に手を置く。
「今日はやめとけ」
「流れが悪いだけだ」
「……でも」
「さっきの人は、Bランク出してた……」
視線は、
まだガチャ筐体に向いている。
「……私も、次なら……」
立ち上がろうとする腕を、
仲間が必死に引き止めた。
ギルドの中でそのようなパーティーは至る所にある。
それだけ魔剣は魅力的だ。
◆
その騒ぎを切り裂くように。
「おい」
「見ろ、あれ」
ざわめきが、
一瞬で静まる。
明らかにこれまでとは違う存在感が現れた。
【排出:Aランク火属性魔剣】
空気が、凍りついた。
全てが違う。
熱量。
魔力。
存在感。
近くにいるだけで、
肌がひりつく。
「……A?」
「Aって……本物か……?」
当てたのは、
中堅パーティーの剣士だった。
「……はは」
「ははは……!」
高笑い。
「見たか!?」
「俺だ! 俺が引いた!!」
剣を掲げる。
「これで魔剣ダンジョンだろうが何だろうが」
「全部焼き尽くしてやる!」
一気に、人が集まる。
「なぁ」
「パーティー、組まねぇか?」
「俺のとこ来いよ」
「その剣があれば、大金狙えるぞ!」
様々なパーティーから勧誘される。
さっきまでそこら辺にいる普通だった男が、
一瞬で中心人物になっていた。
◆
その様子を見ていた者たちは、
同じことを思う。
――次は、俺かもしれない。
Bでもいい。
Aなんて贅沢は言わない。
「一回だけ」
「次でやめる」
「今の流れなら……」
ガチャが回る。
また回る。
さらに回る。
歓喜。
罵声。
泣き声。
魔剣ピックアップ初日は、
朝から夜まで、
一度も静まることはなかった。
誰もが次は自分だとガチャを回し続ける。
◆
だが、一部の冒険者は気づいていた。
魔剣を手にした者は、
調子に乗り。
手にできなかった者は、
追いかけ、破産するまで引く。
もはや単なる遊びではなく、命を金で買い、これまでの常識を消し去るものになっていることを。




