ガチャ廃人の冒険者
世界中にダンジョンが出現してから五十年。
それはもはや異変ではなく世界を支えるインフラになっていた。
ダンジョンから産出される魔石、素材、未知のエネルギー資源。
電力、医療、建築、食糧――あらゆる分野がそれに依存し、人類はダンジョン抜きでは生きられない社会へと変わっていた。
当然、ダンジョンを攻略する冒険者と呼ばれる職業も新たに生まれ、運が良ければ莫大な財産を、時には国家よりも影響力を持つ存在となることができた。
その中でも世界で10人しかいないS級冒険者の1人がシンだ。
ダンジョン内で手に入れることが出来るアイテムを使って会得出来るスキルと呼ばれる特殊能力
現在公表されているのは外れスキルとされる【等価交換】の保持者。
「――は?」
ギルド本部の大型モニターに映る戦闘映像を見て、見ていた冒険者、受付嬢が声を漏らす。
巨大なミノタウロスが、斧を振り上げる。
その瞬間、シンは何かを軽く放り投げた。
次の瞬間。
ミノタウロスの斧が消え、代わりに手のひらサイズの石ころが落ちる。
「斧を……石で……破壊した……?」
理解するより早く、武器を失ったミノタウロスはシンの一撃で沈んだ。
【等価交換】
対象と対象を“価値が等しいと認識できる範囲で”強制的に交換するスキル。
そう、スキルを得た瞬間に強制的に交換してしまうのだ。
これまで何人もこのスキルを得た冒険者がいるがある物はダンジョンからゲットした魔石が魔道具に、ある物は大した物を持ってなかったために持っていた武器が素材に変わるなど非常に運が強いスキルになる。
そのためこのスキルは外れスキルとされていた。
だがそんな中でこのスキルでS級にまで上り詰めた異端の冒険者がシンである。
なにを交換したのかわからないが凄まじい強さでダンジョンを攻略し瞬く間に駆け上がって行った。
石を投げればモンスターは弾け飛び、人には見えない速度で走り、攻撃を受けようがなんのダメージも受けない頑丈さを持っている。
その応用力は異常で、シンはダンジョンを文字通り“解体”しながら進む。
結果――
「今月のダンジョン収益、推定1億……」
「単独攻略でこれは狂ってる……」
「結婚したい……」
誰もが羨む財と力。
人類最強候補の一人。
――ここまで聞けば、完璧な英雄だ。
だが実態は違う。
◆
「……くそまたかよ……」
高級マンション最上階。
防音完備、魔法結界付き、眺望最高。
その一室で、シンは床に転がり、スマホを握りしめていた。
「ピックアップ率0.7%って書いてあるだろ……?
なんで……なんで……!」
画面に映るのは、最新スマホゲーム
十連ガチャ、爆死。
二十連、すり抜け。
三十連、最低保証。
三百連回しても目当てのキャラは出ない。
「……天井がないから回し続けるしか…………」
指が震える。
汗が滲む。
理性はとっくに死んでいる。
シンは、重度の――
ガチャ廃人だった。
「これも全部等価交換なんてクソスキルのせいだ……よりにもよって1番大事なものを……!」
課金額は、すでに七桁。
天井システムがないこのゲームは何度回しても目当てのキャラはでない。
「……もう三体目だぞこの星5……」
確率を理解している。
期待値も知っている。
冷静に考えれば、やめるべきだと分かっている。
それでも、引く。
「次は……来る……
今度こそ……!」
ガチャボタンを押す、その姿は――
ダンジョン最深部で魔王と対峙する時より、よほど真剣だった。
◆
翌日。
「シンさん、おはようございます、本日もダンジョンに潜られるんですか?」
「……あぁ」
ギルドの受付で、シンは目の下にクマを作りながら書類を受け取る。
「……昨日、徹夜だったんですか?」
「……まぁ……」
冒険者仲間は、彼を最強と称える。
だが誰も知らない。
この男が――
ダンジョンよりもガチャに人生を支配されていることを。
そして、まだ誰も気づいていなかった。
シンの【等価交換】というスキルが、交換したのはこの男の命よりも大切にしているガチャ運だと言うことを
他人から見れば取るに足らないもの。
だがシンにとっては、命よりも大切なものだった。
彼はそれを犠牲にし、
圧倒的な力を手に入れたのだ。




