鏡に映る昼光
冒険者(定職がない放浪)の朝は早い。
朝日が昇る前、ノアラは朝に順応していない体を精一杯に起こす。
朝に慣れるコツは色々あるが、まずは朝日を浴びることだろう。光を浴びることで、体内時計が整うとかなんとか。
とにかく、ノアラは朝一番の日光を自分のものにしようとして、カーテンを勢いよくあける。
「───って、もう昼じゃねぇか!!」
カーテンの向こうには、空を悠々と飛ぶ鳥たちに、南中して暑苦しさをも感じさせる太陽がノアラを容赦なくうち照らしていた。
*
予定通りとはいかないけれど、それも仕方ないと割り切る。なにせ、昨日は深い森の中、拾ってきた少年──アシェとケンケンで帰ったのだ。うん、疲労が溜まっててもおかしくない。
最も、ノアラが昼時に目を覚ますのは珍しいことではないのだが。
まず、冷水で鈍化した脳を無理矢理に起こす。結局、コレが一番効く。
「はっ、さっきまでの茶番劇は何だってんだ」
思い返せば、なかなか騒がしい目覚めでなかっただろうか。ノアラは冷水を雑に拭き取りながら苦笑する。
しっかりと、目が覚めたノアラはやっと身支度を始める。初め、肩より伸びた赤髪をひとつにまとめる。低い位置だと、くすぐったいので高めに結ぶのが勘所。
次に、長い足をまるまる包む白いタイツを伝線しないよう、注意深く履く。
「──ッ、ととっ! いやー、毎度ヒヤヒヤさせられるぜ。 女子のファッションって楽じゃねぇな」
ファッションは我慢なんて言うが、この緊張感がノアラのルーチンなのだから、その話も事実なのかも知れない。
白いタイツの上から着る短パンのベルトには小さな小袋が連れられる仕様になっていて、そこに所持金やら軽食を詰めていく。
冒険者らしい、動きやすさを重視した服装だ。
「なんと…こんな所に美少女が!! って、私じゃねぇか!」
鏡の前で、くるりと一回転し自分のご尊顔をまじまじ眺めていると、鏡の端に黒い人影が映る。黒髪に、あどけなさの残る顔立ち。例えるなら、羊のよう。
「お。起きたか、アシェ」
「おはよう、ノアラ。今日もお腹が出てる…その格好は風邪ひく。 …それより、俺の部屋に知らない人がいるんだ」
「腹が出てるってのは語弊があるだろっ!ホラ見ろ、私のスリムボディだ!!」
昨日、直感に任せて考え無しに拾ってきたアシェ。その行動自体に一片の後悔もない。
けれど、新しい世界に触れたアイツには一人の時間が必要だろうと、高い宿代を支出して、二部屋借りたはず。どれも、一人部屋でアシェ以外の人が部屋にいるのはおかしい。
アシェの案内について行き、ノアラは十分警戒を高めて突入。右、左、確認は大事だ。
部屋の各地に目を見張らせてみても、そこには武器を構えたノアラと、後ろに隠れるアシェしかいない。
「逃げたか…。 心配いらないぜ、アシェ。 んで、どこで見たんだ?」
アシェが指で示す。そこに視線を向ければ、その先はノアラの部屋にもあった鏡だ。用心深く見ても、なんの変哲のない鏡。
ついでにいうと、鏡に映る私が可愛い。
「──! コイツだ、ノアラ!」
アシェの声に、緊張感に張り詰めそうな空気。アシェを後ろに下がらせて、ノアラが双剣を突きつける───、
「ん……? 何もねぇけど」
「コレは誰だ? この板から出てこないけど、得体が知れないヤツだ。危ないから、下がっていて」
黒髪を揺らし、そのあどけない顔立ちを訝しげに歪める少年。
一件、どこにでもいる少年のように見えるが、白い瞳は不思議と人工的な印象を覚える。沈殿物が沈んだような重みのあるには、染まりやすい無垢より、得体の知れない神秘性を感じる。
「──これ、鏡に映ったお前だよ…」
ため息混じりに放たれたノアラの声は、起きたばかりにも関わらず疲労の色が見えた。
二章が終わるまでは、毎日投稿続けたいと考えています。




