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死に損ないは続けたい  作者: 樋口 帆陽
3章 【ベリーの森で見つけたもの】
13/13

テーブルにいっぱい


青年の名前を、ルイといった。


ルイに招かれるがままに家に入れば、漂うご飯の香りから、アシェの食欲が唆られる。


「はは、妹は迷惑かけたらしいですね。 少し、待っていてください。 すぐ用意しますね」


ルイは好印象な笑顔を浮かべて、母親と共に台所へと消えていく。どこか手馴れた手つきには、苦労の色が見える。


リャーとルイの家は宿と比べると小さいが、温かみを感じる家だった。アシェからすれば、この家の方が心が安らげる。

明るい過ぎない橙色の照明は安心感を与え、壁に飾られた誕生日を祝う飾り付けから、家族の中の良さがわかる。


そうして、息をついている間に、やがて匂いはリビングまで香り、食卓に夕飯が並べられる。

グラタンに、スープ、サラダと品は色とりどりで、最後に焼きたてのベリーパイが置かれる。


「……んー? あっ! これ、リャーが取ってきたやつ!」


ベリーパイの甘い香りに、眠りに落ちていたリャーが起こされて、寝起きの割には元気にはしゃぐ。


「も〜、リャーも一緒に作ろうと思ってたのに」


そして、頬を膨らませて拗ねる。

5歳らしく、年相応な反応で、アシェは胸の辺りが温かくなる感触を感じる。不思議と、悪い気分ではない。


「「じゃあ──いただきま〜す!!」」


全員の声が重なる。

宿のオムライスも美味しかったが、ここのご飯もそれぞれすごく美味しい。アシェの空になっていた腹が満たされていく。


「本当に二人ともありがとうございました。 ほら、リャーもお礼言って」


「うん! お姉さん、お兄さん。 ありがとう!」


リャーは、ルイに頷き、頬にご飯をためながら溌剌にお礼を言う。ルイは、リャーの口周りを拭きながら、お行儀が悪いと叱るが、それは形ばかりのものに過ぎないように思える。


「アシェくんも、ノアラちゃんも、ありがとうね。 ほら、たくさん食べて? 四人家族なのに、たくさん作りすぎちゃってたから、とっても困ってたのよ?」


そう言って、二人の皿に食材を飾っていくのは、リャーの母だ。穏やかな印象の人だが、ルイの方がしっかりとしているようだ。リャーとの掛け合いを見ていると、そう思う。


「あら〜。 だって、お母さん。子供が泣いてるの見ると、私も泣いちゃうから。 それに、ほら! 叱るのは、ルイの時にたくさんやったから、次はルイにバトンタ〜ッチ」


「ルイを叱るのもお父さんばっかりだったじゃないか」


ルイにハイタッチを迫る母親と、それを思春期に嫌がるルイ。ご飯を次々と頬張るリャーに、それを優しく見守る父親と、この家族の食卓は騒がしい。

アシェも、自然と笑みがこぼれてしまった。


「あ、アシェもこれ食べてみて? これ自信作なんだ」


そう言って、ルイにコロッケをおすすめされる。コロッケを出した時、ルイの指先に切り傷があった。ルイは案外、不器用なのかもしれない。

けれど、食べてみると、たしかに美味しい。ころもがサクッとしていて、箸が進む。


そこで、疑問が挙がる。


「ねぇ、ルイ。 どうして、俺には敬語じゃないの? ノアラには敬語だ」


「あ……いや、アシェは僕より年下かなって…、それになんだか親しみやすいからね。 …ダメ、かな?」


眉を下げて、そう言われてしまえば、アシェは断ることができなくなってしまう。もとより、それを責めるつもりはなく、ただの純粋な疑問だったのだが。


「んなら、私にもタメ語でいいぜ? どうせ、あんまり歳変わんねぇだろうし。 私、18!」


「僕は16だよ。 ノアラは成人しているんだ。お酒出そうか?」


ルイの提案に、ノアラは上機嫌にのる。お酒の響きに惚れ惚れとしている様子だ。ノアラはお酒が好きだなんて、知らなかった。


二人が受け答えしたあと、視線がアシェに向けられる。


「ところで、アシェは何歳なんだ? ルイより年下ぽいな」


ノアラにそう聞かれて、アシェは困ってしまう。自身の正確な年齢を知らないからだ。

ノアラに、「覚えてる範囲でいいから!」と返事を求められて、仕方なくと、自身なさげに答える。


「覚えてる範囲なら……3だ」


アシェはヴェルと一緒だった以前の記憶がない。なので、覚えてる範囲といえば三年だが、周りは訝しむ。


「そんなデケェ3歳がいてたまるか!」

「アシェは不思議な冗談を言うなぁ」

「あらら、3歳って若いわね〜」

「おお! リャーの方が年上だー!!」


周りの反応は多種多様。食卓はまた騒がしくなる。 笑い声が重なる度に、胸が熱く打たれるのを感じる。


「ま、見た感じは13、14か。 無難に、酒は飲ませない方が良さそうだな」


結果、そういう結論に至って、アシェのお酒への第一歩は絶たれた。法律的には、18歳以上しか飲酒が許されていないらしい。ノアラの好きなものを飲んでみたいと思ったが、自称3歳のアシェでは無理だった。


そうして、18を超える成人達はお酒で盛り上がる。

大人たちはこのまま話が続きそうなので、子供たちは寝ることにした。アシェも、ルイの部屋で一緒に寝かせてくれるらしい。


ということで、アシェは今、布団の中だ。部屋の中は暗く、ルイの表情は見えない。


「ねぇ、アシェ。 ……もしかして、家はうるさかったかな? アシェ、元気がなく見えたからさ」


「いや、良い家族だと思ったんだ。 だから、俺がはいっていいのか分からないから……」


本当に、すごいいい家庭だと思った。家族仲は良く、お互いがお互いを思っている。理想像ではなかろうか。

だからこそ、勝手のわからないアシェの介入でこの空間を壊したくなかった。家族とは何たるか、それをアシェは知らない。


アシェの返答を聞いたルイは、くすりと笑う。


「リャーが君と仲良くしたいんだってさ。 君の冗談を鵜呑みにちゃってさ、3歳の君に先輩として色々教えてあげるって言ってたよ?」


リャーのことを語るルイは生き生きしている。聞いているこっちはまで和む。

それから、一息ついてルイが言う。


「リャーと、仲良くしてあげてくれないかい? 君はすごい良い奴だからさ」


「うん。 俺も、仲良くなりたいと思う。リャーとも、ルイとも」


暗くて見えないが、ルイはきっと笑っていた。


薄い布団なのに、胸は自然と温かくて、眠りの縁へと誘う。アシェはその誘いにまんまとのった。

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