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死に損ないは続けたい  作者: 樋口 帆陽
3章 【ベリーの森で見つけたもの】
12/13

ベリー片手に夕飯時


ノアラの双剣の下の、死体───

それはピクリとも動かない。絶命だ。


ノアラは、驚愕に立ちすくむ。


「……ねぇ、お姉さん達が、この半獣を倒してくれたの?」


剣に貫かれて動かない半獣。その目前で、弱弱しく座りこむ幼子だった。


「すごいな、ノアラ。 投げた剣で半獣を貫くなんて」


「うぇ!? あ、ああ〜。 まぁ?それも想定内ってか? そう、全ては私の豪運の結果だな!」


アシェの素直な賞賛に、ノアラは困惑から徐々に普段の調子を取り戻して言って、最後には胸を張って自分の豪運を主張した。

そこには、確かな安堵が感じ取れた。


ノアラが、照れ隠しのように咳払いをする。


「ゴホン、ゴホン。 それで、お前はなんでこんな所に?半獣も出る森で1人なんて、自殺願望にも等しいぞ」


ノアラが厳しく向ける声は、アシェでなく少女だ。幼い少女が森の中で一人など、確かに大変。

ノアラがたまたま剣を投げなければ……。そんなことを考えれば、アシェの体が冷えるのを感じた。


「ええっとね、リャーはベリーを取りに来たの。 今日はお兄ちゃんの誕生日だから」


リャーと、名乗る幼子は、懸命に拙い言葉でこちらに伝える。利口でいい子だ。


だが、どれだけ賢くあろうと結局のところは子供である。

拙い説明は、しだいに嗚咽まじりになっていき、『お兄ちゃん』という単語を発したところで、泣き出してしまった。


森の中で、叫び声が響く。

半獣から悲惨な姿よりも、幼子の泣き声がアシェの心をひどく打った。


ノアラがしゃがみ、リャーと視線を揃える。

リャーの頭に片手を乗せ、そして言う。


「兄貴の誕生日か…… うん、頑張ったな。 けど、泣いてる時間はねぇよ? 早く兄貴にそのベリー届けねぇとだろ?」


相変わらずノアラの口調は荒い。それでも、声色が、眼差しが、ノアラに柔らかく優しい印象を与える。

言い終えた後に、ノアラが笑えば、つられてリャーも笑ってしまった。涙は引っ込んでいて、ノアラの言葉に頷いている。


「……うん、リャーはベリーのパイを作ってあげるの! 早くしなきゃ、夕ご飯までに間に合わないもんね!」


涙を服の裾で拭いて、元気に立ち上がる。

先程まで泣いていたのが嘘みたいだ。いや、目元が赤くなっていて、泣いたのはバレバレだ。


「大丈夫? 痛い?」


りゃーの体に深い傷はないが、かすり傷が沢山ある。痛いかをいけば、リャーは笑って答えた。


「ううん、リャーお兄ちゃんにベリーを届けるんだから平気だよ!」


健気な幼子の姿に、ノアラは目を潤ませる。アシェも、すごく驚いた。五歳はすごい……。



三人で森を抜ける。ノアラの直感がゆくままに進んでいけば、あっという間に森を抜けてしまった。


「──リャー!!」


青年がこちらに駆け寄ってくる。周りにいる女性と、男性もそこ声に反応して来る。


初め、アシェがわけも分からずに困惑していると、リャーがその人達に反応する。


「──お兄ちゃん!!」


青年の言葉に、リャーは平原を駆け出して、そのまま青年に飛びつく。それをきちんと受け止めて、青年はリャーを抱きしめた。

周りにいた人もそのに入って、みんなでリャーの帰りを喜んでいる。


けれど、突然その空気が変わる。他の誰でもない、少年によって。


「……リア! ひとりで森に入るなって、言っただろ!こんな時間まで、ひとりで何してたんだ!」


当然声を荒らげる青年に、アシェの体が固まる。リアと、そう呼んだ先にはリャーがいる。アシェは困惑する。

だが、そんなアシェの困惑も周りからすれば関係ない。


「…ご、ごめんな、さい。 リャーね、ベリーをたくさん取ってきたの。 お兄ちゃんの誕生日だから」


ノアラの言葉で止んだ涙が、再び溢れ出す。

アシェはもどかしい気持ちに襲われる。リャーが泣いているのを止めてあげたいけど、アシェには力がなかった。

そんなアシェと違い、青年はその力があった。


少年が心を落ち着かせるように息をつき、その後に笑顔を作る。とても、優しくてこちらまで心が安らぐようだ。


「ばかだよ、危ないって何度も言ったのにさ…… けど、ありがとうね、リャー」


馬鹿と言った罵声の中には、親愛が込められている。リャーはもっと泣いて、泣いて。けど、その涙はほかとは違うと思った。

結局、リャーは泣き疲れて眠ってしまう。


「あの、もしかしてリャー…いえ、リアをここまで連れてきてくれたんですかね?」


「リア?」


泣き疲れたリャーを抱えながらの青年の質問に、アシェは疑問のままに質問で返してしまう。それに、青年は不機嫌になることなく笑う。


「ああ、すいません。 リャーっていうのは、愛称みたいなもんで、リャーが自分の名前を発音できなくてリャーになってるんですよ。 それが家族の中で定着しちゃって」


少年が照れくさそうに答えた。

つまり、本名はリア。それを幼子が発音できずに、形態を変えてリャーになった訳だ。


「こいつ、森の中で半獣に追われてたんだぜ? それでも、ベリーは離さずにさ」


青年の質問には、ノアラが答えた。

青年の顔色が変わる。半獣という言葉に反応してだろう。


「リャー……。 そうですか、ありがとございます。 あの、もし良かったら夕飯ご一緒しませんか? たくさん作ってあるんです 」


青年はアシェより少し背丈が高い。16くらいの年齢に見える。

そんな外見年齢に対して、本人の精神はすごく成熟しているよう。アシェたちに、大人の対応で夕食に誘う。


アシェの腹の虫が鳴く。


「それなら、遠慮なくお邪魔させてもらうか! 丁度、相棒の腹も貯蔵を尽きた頃合いらしい」


ノアラがアシェを笑い、青年の提案を受けた。

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