表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に損ないは続けたい  作者: 樋口 帆陽
3章 【ベリーの森で見つけたもの】
11/13

ベリーベリーキュート


「いやぁぁぁ!!」


森の中で、自身の叫び声が木霊する。いつも、小鳥がさえずり花が咲き、美しく感じていたものが、今日はとにかく禍々しい感じるのは、自身の精神状態が原因だろうか。


ただ走った。がむしゃらに走って、行き着いた先に何があるかも分からないのに、ただ走った。

裸足で森を走れば小さな素足から血が出る、それでも止まることは許されない。


すぐ背後に、唸る声がする。それが、酷く幼子を震わせて、恐怖心を心にこれでもかと植え付ける。


「っはぁ、はぁ。 どーして、こんなところな半獣がっ……おにぃちゃぁんっ!…」


思考していれば、無意識のうちに弱音が口から溢れ出ていく。


──半獣、とは

それは、恐ろしいものだと兄から教わった。魔法の源の霊魂に取り憑かれた獣が半獣になるんだって。魔力を持つようになる分、凶暴になって危ないんだって。


後悔が押し寄せてくる。それは、幼い体を後押ししてくれない。むしろ、目から涙が出てきて、足取りを重くする。


「どーして、約束やぶっちゃったんだろ」


不満とともに涙を零せば、視界がぼやけて森を走る障害となる。

もう走るのも辛くなってきた。足は痛いし、呼吸は大変だし、普通に疲れたし、お気に入りの洋服は泥で汚れてしまう。それでも、止まることは許されなかった。


こんなつもりではなかった。

ただ、笑顔が見れるとそう思っていた。



ヒラヒラのお洋服に、兄が作ってくれた小さなカバン。順番に身につけて、家の扉を開ける。


今年で5歳となる幼子──リャーがこっそりと家から抜け出す。本当ならば、ここで兄に「行ってきますー」と、挨拶しなければならないのだが、今日は秘密裏なミッションなので無し。


「お兄ちゃんに、サプライズだもん! ベリーを沢山とってきて、それでパイを作るの!」


今日はめでたいことに、リャーの兄──ルイの誕生日だ。リャーはそれを盛大に祝いたいと思った。

兄の好物のベリーを沢山拾ってきて、それで一緒にベリーのパイを作るのだ。

想像で、リャーの顎にヨダレが垂れる。普段なら兄が拭いてくれるが、今日はリャーひとりなので自分で服の裾を使ってふく。


短い足を精一杯に走らせて、野原にいけばベリーが沢山ある。

そう思って野原へ向かったのに───、


「──ない! ベリーがちょっとしかないよ」


この野原は誰のものでも無いし、この時期はベリーが旬なので、みんなが食べたくて持って行ってしまったのかも。

自分のものではないから、怒る筋合いもないのだが、どうして今日なのだとリャーは理不尽に地団駄をふむ。


「……どーしよ。 お兄ちゃんにベリーをあげたいのに」


気分がすごく落ち込む。こういう時、お兄ちゃんがいたならば一緒に遊んでもらって、すぐに元気になるのに。


リャーは、その思考を捨て去るべく柔らかい頬を叩く。

つい、家が恋しくなってしまったが、今日だけは耐えなければいけない。兄にベリーを振る舞うのだ。絶対。


「─────」


リャーは、野原のおくに伸びる森を眺める。

森はあまり人が来ないので、ベリーがまだ残っているかもしれない。


『可愛いリャー。 森は危ないから、ひとりで言っちゃダメだよ』


「……お兄ちゃん」


兄との約束だった。きちんと指切りもしたし、破ったらリャーの可愛いほっぺたをいっぱい引っ張っるって、兄が言っていた。


兄の顔が浮かんでくる。兄の笑顔だ。リャーが1番好きな顔で、母も父もみんなその顔が好き。

ベリーを食べてる時に、兄は笑う。リャーと話してて、兄は笑う。リャーが笑えば、また兄が笑う。


「ぜったい、ぜったいに! ベリー食べさせてあげるからね!」


そんな兄の笑顔を思い浮かべながら、リャーは森に入っていく。

恐れる気持ちはあった。けれど、兄の笑顔を思い浮かべらば不思議と勇気が出てきて、一歩を踏み出すことができた。


そんな勇気溢れるリャーを歓迎するように、森はさやさやと葉を揺らす。

それに背中を押されるまま森の深い所へと進んでいく。


数分もしないうちに、森の木々に実赤い丸を見つける。ベリーだ。とびきり赤くて、兄が大好きなやつ。


「うわわ、沢山だぁ〜」


奥へ、奥へ進む事に、カバンのベリーはひとつ、ふたつ、みっつ……と、数を増やしていく。これだと、とてつもなく大きなパイができると思い、それを食べる笑顔の兄を想い、一粒とる事に胸が温かくなる。


またひとつ、真っ赤なベリーを見つけた。

ベリーの木が、リャーに居場所を教えるようにして揺れる。


「──ぅえ」


その木から伸びる、黒い影。

リャーが知る、どれでも無い。母のでも、父のでも、大好きな兄のでもない。


グルルと、ソレが唸る。瞳が赤く光って、その瞳にリャーを映し出す。

ソレは、リャーがパイを食べる時みたく、リャーを美味しそうだとヨダレを垂らす。幼いながらに、ソレは危険だと分かった。


「……ぁ、は、半獣…?」


答え合わせをするかのように口に出せば、半獣は肯定するかのように唸る。リャーから、掠れた息が溢れる。


リャーがゆっくりと後退するのと同時に、半獣も一歩、また一歩とリャーに向かうために足を早くする。

思考ではなく、生存本能がそこから逃げ出したいと訴える。恐怖に頭が真っ白なリャーは、その本能に従うしかない。


「ぃや、いや! やだやだ、おにぃちゃんっ!!」


強い拒絶と、兄へ縋る幼心は、半獣に届くことはない。もし、届いたとしても半獣が聞き入れることもないだろう。


『半獣は甘い香りに釣られるから、遭遇した時は甘い香りのするものを、そこに置いて逃げるんだ』


兄の言葉だ。この言葉を思い出すことができたならば、リャーはすぐにベリーを手放して逃げただろうか。

だが、今のリャーにはそんな余裕はない。

もしも、食べられてしまったらどうなるのだろうか。そんな黒い想像に塗りたくられてしまった頭では、ただ恐怖心を煽るだけで、解決の糸口を見つけださせてくれない。


足は痛む、服は汚れる。それでも、リャーは兄に作ってもらったカバンと、その中身を守るように抱えて走る。

リャーの幼い足は短く、機動力の高い半獣と走り比べれば、天秤は迷うことなく半獣に向く。


すぐ背後で、荒い声が聞こえる。半獣はリャーとの距離をみるみると近づけていく。


天に、きらりと刃が光った。

見とれているうちに、リャーは半獣へ追いつかれてしまう。


「───ぅが」


叫び声も出なかった。

ただ、天に光った刃が体を貫いた。



「ノアラ、もしかして迷子なの?」


「ちげぇよ!! 本当に、本当!ここなんだよ!」


今より数分前。村へ向かう道の中、突然にノアラが言った。


「ここの森通った方が、近道にならねぇ?」


その言葉に、いち早く休息を着きたいがあまり、ノアラもアシェもそやな不確定な考えを信じて、森に入っていってしまったのだ。


──と、なって時刻はどのくらいすぎただろうか。


疲れた体にムチを打って、森の中を彷徨う。森は沢山の木々が生い茂っていて、足場も視界も悪い。


「……なんだよ、その目は。 言っとくけど、嘘じゃねぇよ?本当の本当に、私の勘がここを通れって言ったんだよ!!」


何も考えずにノアラに目を向ければ、必死の弁明にノアラは声を高くする。


「そうは言っても、この状況は迷子だ。 ノアラ、来た道を振り返ってみよう」


状況は一目瞭然。アシェ達二人は、森の中で目的地も方位も分からずに迷子だ。引き返すのが懸命だと、アシェが提案する。

だが、それは拒否される。


「いや、本当だよ! ……見とけよ、すぐに村に着いて見せるぜ」


ノアラが双剣を抜く。

アシェが意図が分からずに首を傾げれば、ノアラは不敵に笑って、剣を地面に立たせる。


「倒れる方向に向かうのか?……それは流石のノアラでも無理があるんじゃ」


そんなアシェの静止を聞かずに、ノアラが剣から手を離す。当然、支えを無くした剣は地面に倒れると──誰もがそう思っていた。


「おおっと、手が滑った」


剣はノアラの手から離れる。その勢いのままに、剣は不自然に空へ舞う。

その場合、アシェ達はどこに向かうのだろう。

そう、頭を悩ませていると、叫びにならない苦痛の声がアシェの思考を遮った。


「───ぅが」


アシェとノアラが視線を合わせる。ノアラの視線は、答えを求めるようだ。


「まさか、剣が誰かに刺さったんじゃ…」


アシェの邪推に、ノアラがひどく顔を青ざめさせる。血の気が引く思いはアシェも一緒だ。

二人は、足場の悪い森をどうにか駆けて、審議を確かめるべくノアラの剣の行方を探す。


木々が影を作る森の中、剣がキラリと光った。


「ノアラ、これ……」

「え。 嘘、だよな?」


そこには、ノアラの双剣の一対。それと、その下で血を流す死体があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ