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死に損ないは続けたい  作者: 樋口 帆陽
一章【白い箱庭】
1/12

痛いと隣

痛み──

俺の世界は常に、そんな思考に支配されていた。

世界なんて言っても、俺の中だけで完結される小さな世界だ。俺と、男。それに痛み。そんなたった三要素だけで構成されている。

何もかも忘れて空っぽな脳には、知識が入りやすい。そんな空き箱に入れられた三要素は、遠慮なんて一切なく俺の中に入ってきて、あやふやな存在の俺を支配しようと痛みが主張する。


「ほう……潰しても、か」


痛みは沢山だ。肉体的な痛みだけでも、それぞれどこか違っていて、どれも確かに痛い。

今日のは特段痛い。


痛みってのは、徐々に蝕んでいく。肉体的にしても、精神的なものにしてもだ。

初めは、小さな不快感から始まる。それがだんだんと鬱陶しいものになっていき、気づけば耐えられない程の苦痛へと変貌する。

その不快感すらも、言葉ひとつで表せるものでなくて、不安な衝動に駆られるものであったり、苛立ちを育むものであったりと千差万別だ。不快感という、数ある感情のいちカテゴリーでもこう何個もあるものだ。生物はどんなに沢山いるのだろう。


そうして、まだ知らぬ世界へ想いを馳せる。

可能性は誰にとっても希望だ。そんな希望に、縋る瞬間だけが痛みから解放される至福の一時。だが、皮肉にもその『可能性』に希望を見た結果に、俺はこうも苦しめられているのだ。


「…面白い。ならば、これはどうだ?」


好奇心に満ちたその目が見るのは、赤い肉の断面だ。そんなに見ていて面白いものなのか。俺には微塵も理解できない。


「ッ、う"あ"あああああああぁ」


叫ぶ。溢れるままに、本能のままに。

それでも、痛みというのは平気な顔してこちらを苦しめる。無情に、無条件に。痛みは人を選ばない。


血が滝のように溢れる。実際に見たことは無い。それでも、滝はこのように勢いの強いものなのだと知らされていた。

でもやがて、赤い滝は勢いを失い、緩やかにダラダラと体を流れていく。それでも、傷口の痛みは身体を蝕むように、這うようにして広がっていく。汚染だ。俺の身体は、憎い痛みにじわじわと汚染されている。


精神的な痛みにには終わりが無い。身体を侵される気持ち悪さの終末はどこにあるか分からない。

それでも、肉体的な痛みには解決法がある。


その一、治ること。

人体というのは不思議で、あんなに俺を苦しめた痛みでさえ、傷が言えればサヨナラだ。どこに行ったのかは分からない。もしかしたら、俺の中に隠れているのかもしれない。それは気持ち悪い。

その二、終わること。

痛みってのは、生存するためにあるらしい。痛みが、生存を危うくされていると教えてくれる、と。だから、死なないためになくてはならないのだ。

つまり、痛みの終わりは、生存の終わり。


重い機械音。重厚な金属がこちらに迫り来る。

初めは、不快感。こちらのパーソナルスペースなど知らんと言わんばかりに、寄ってくるのだから不安になるものだ。

次に、痛み。骨が高い音と共に軋み、折れる。激しい圧迫感に襲われて、それと同時に色んなものが出ていく。内蔵、目玉、血液と圧迫感から逃れようと、あるべき場所から外れ逃げてく。


痛み、痛み、痛み、痛み、痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


折れた骨も、飛び出た臓器もひとつになる。平たく潰されて、ひとつの醜い肉塊だ。


そして、痛みの終わりがくる。


「──死んだのか?」


興味深そうに、楽しそうにする男の声。声は出ないから、代わりに心の中で男の声に同意する。

やっと、終わらない痛みから、解放される。


────俺は、死んだ。






ご覧いただきありがとうございます。

こんにちは。樋口 帆陽です。

初投稿させて頂きました。時間を見つけて、続きを投稿させていただくつもりです。

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