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政の継承~戦国リーダーズ~  作者: 葵 悠政
第四章『沈黙の輪郭』

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第五十七幕 『交錯する記憶』

第五十七幕 『交錯する記憶』


扉が開き、信長はゆっくりと部屋へ入った。 窓の外には止んだばかりの雨が残した光景が広がり、雲間から射し込む日差しが濡れた街を照らしていた。


「この雨の中、居場所を特定するのに苦労するかと思ったが——」 信長は軽く肩をすくめる。 「あの趣味の悪いリムジンを見つけることができて、すぐに辿り着けたよ。」


義元はワイングラスを持ち上げ、落ち着いた様子で微笑む。

「アポ無しで飛び込んでくるとは、尾張の議員は段取りというものを知らないと見える。」


信長は一瞬口元を歪めたが、すぐに軽く頭を下げる。

「田舎者ゆえ、ご無礼をお許し下さい。」


わずかに間を置き、信長は視線を義元へと戻し、口調を強める。

「しかし……雨が降っているからと警備を緩めると、こういうことが起こるんですよ。」


義元はワイングラスを揺らしながら、余裕のある笑みを浮かべる。

「わざわざ来てもらわぬでも、清洲の事務所で待っていれば良かったものを。」


信長は肩を軽くすくめ、窓の外の晴れ間をちらりと眺める。

「その時ではすでに私は、このような立場でお話しなど出来なかったでしょう。」


「……それで、信長殿。わざわざこの場に来たのは何か話があるのだろう?」

信長は少し間を置き、窓の外へと視線を向ける。 晴れ間の光が、水たまりに反射して揺れていた。 そして、ゆっくりと義元へと顔を戻す。


「守山事件を知っているでしょう?」


義元は表情を崩さぬまま、グラスをテーブルへ戻した。 そして、少し目を伏せながら言葉を紡ぐ。


「……あぁ、清康(きよやす)さんか。あの事件は、とても残念だった。」


信長は頷きながら、ソファに腰を落ち着ける。

「松平清康は俺の親父と同期で、政治家としても人間的にも良きライバルだったと聞かされたことがある。」


義元はゆっくりと微笑み、懐かしむように遠くを見つめる。


「そうだな……。私が政治家に成り立ての頃、政治のいろはを様々教えてもらったものだ。政の仕組み、市場の力、交渉の妙……。」


信長は無言のまま義元の言葉を聞いていた。


「その後は、お前の父、信秀も加わり、我々は互いに研鑽を積み重ねた。あの頃は良い時代だった——。」


義元はグラスを軽く揺らしながら静かに息を吐いた。


義元は微笑みながらも、グラスを揺らす手の動きがわずかに止まった。

「……清康の影響力は確かに強かったな。三河を完全に掌握した後、その勢いのまま遠江にも手を伸ばし始めた。あのままいけば、遠江の知事も兼任する可能性は十分にあった。」


信長はソファに深く座り直しながら続ける。

「だが、当時最年少で知事になったあんたにとって、それは次第に看過できない脅威となっていった。三河だけなら今川の後ろ盾で抑え込めたが、遠江にまで手を伸ばされれば、政の均衡が変わってしまう。」


義元は静かに頷きながら、過去を思い返すように目を細めた。

「……あの時、私はまだ自分の立場を盤石にすることに必死だった。清康さんはすでに三河をまとめ上げ、政の場では私よりも一歩先を行っていた。その歩みは、若輩の私には眩しく映った。」


信長は口元に笑みを浮かべる。


「そして、守山事件が起こった。あれは偶然だったのか、それとも——。」


義元は一瞬だけ視線を信長へ向けたが、言葉にはせず、再びワイングラスを傾けた。


こうして、二人の対話は、より深い過去へと踏み込んでいく。


今回は、信長と義元のあいだに眠っていた“記憶”が静かに浮かび上がる回でした。

雨上がりの光の中で語られる清康の名や、若い頃の政治の空気。

二人の距離が近づくようで、どこか遠くなるような、不思議な温度がありました。


義元の余裕と、信長の静かな探り。

その裏にある過去の影が、少しずつ形を見せ始めています。


次の幕も、ゆるりと読んでもらえたら嬉しいです。

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