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政の継承~戦国リーダーズ~  作者: 葵 悠政
第三章『掌の中へ』

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第四十九幕『風の行方』

第四十九幕 『風の行方』


尾張議会選挙・開票日

尾張全域で行われた議会選挙は、かつてない激戦となった。

民衆は端末を手に、候補者の言葉を見比べ、寺院や広場では静かな議論が交わされていた。


信行は新たに末森派を結成し、再選と勢力拡大を狙った。 岩倉派の織田信賢も同様に支持者を集めたが、結果は圧倒的なものとなる。


勝幡派が全25議席のうち18議席を獲得し、議席の過半数を抑えることに成功。 信長の出馬は民意を強く引き寄せ、寺院・商人・若手議員層まで広く浸透した。


一方で、岩倉派は壊滅的な敗北を喫し、代表の信賢も落選。 末森派も議席を伸ばすことはできず、信行自身も議員の座を失った。


清洲政庁・階段前

議会を去る者が一人、また一人と歩みを進める中、山内盛豊(やまうちもりとよ)は静かに政庁の階段を下りていた。


その時、背後から声がかかる。


「待ってくれ、盛豊さん。」

立ち止まり、静かに振り向く。


信長がその姿をじっと見つめながら、低く口を開いた。

「あなたが義統知事に助言をしてくださった議員であったと知った。」


山内は一瞬驚いたように目を細め、やがて微笑を浮かべる。

「……よく気づかれましたな。」


信長は一瞬、言葉を選ぶように息を整えた。

「あなたは岩倉派に属していながらも、義統さんに助言してくださらなければ、私は信友の策に嵌り、命すら危うかった。 今こうして議員として立てているのは、あなたの一言のおかげだ。 その恩義、忘れることはない。」


軽く肩をすくめながら、山内は静かに言った。

「なに、私は曲がったことが嫌いなだけだ。例えそれが敵対する勢力の人物であっても……。 それに、新しい尾張を見てみたくなったのかもしれない。」


微かに笑みを浮かべ、信長は静かに頷いた。

「……ありがとう、盛豊さん。」


それ以上の言葉は交わされず、山内盛豊は静かに歩みを進める。

信長は彼の背中を見送りながら、一瞬、過去の自分を思い返した。

そして、今自分が立つこの場の意味を改めて感じていた。



清洲政庁・裏庭

議会選挙が終了し、信行は敗北を喫した。 もはや議員としての立場はなく、政治の舞台から去ることが決まっていた。


庭の静寂の中、信行はゆったりと腰を下ろし、遠くの空を眺めていた。

柔らかな風が木々を揺らし、静かに葉が舞う。


そこへ、林秀貞が静かに歩み寄る。

「信行さん……。」


微笑みながら、信行は林を見た。

「どうした?別れの挨拶に来たのか?」


林は少し言葉に詰まりながら、ゆっくりと隣に座る。

「……はい。ですが、やはり……寂しく思います。」


軽く笑いながら、庭の石を指先で弾いた。

「まったく、お前だけは最後まで付いてきてくれると思っていたんだがな。」


わずかに苦笑しながら、林は目を伏せる。

「……私も、迷いました。あの密会で、柴田さんと共に“やめた方がいい”と心の中では思っていたのに……結局、言葉にできなかったことが、ずっと心に残っていました。

ですが、信長さんの懐の深さに触れて、ようやく決められたんです。

尾張の未来のために議会を動かすことが、今の私にできる務めだと。」


短く息を吐きながら、信行は空を見上げる。

「兄さんの未来か……俺はもうそこにはいない。」


少し寂しげな表情を浮かべた林は、静かに言った。

「信行さんと共に戦った日々は、決して忘れません。」


軽く肩をすくめながら、信行は穏やかに言う。

「政治の世界は残酷だ。結局、どこまで行っても、時がくれば変わる。」


静かに信行を見つめ、林は最後の言葉を口にする。

「これからはどうされるのですか?」


立ち上がり、信行は庭の外へと歩き出す。

「何も。俺はただ、影に消えるだけだ。」


じっとその背中を見つめながら、林はゆっくりと立ち上がる。

「……さようなら、信行さん。」


信行は振り返ることなく、静かに庭を後にした。 それは、かつて共に戦った二人の最後の別れだった。 しかし、庭に残る風は、どこか柔らかく、静かだった。



尾張議会・本会議室

選挙結果を受け、議会は再び動き出した。

勝幡派の圧勝により、議会の主導権は信長の手に渡った。

その中で、斯波義銀に対する不信任案が再び提出される。

議会は静かに、しかし確実に、知事の失職へと動き始めていた。


尾張は、風の行方を見定めながら、次なる秩序の構築へと踏み出していた。

その風は、静かに、しかし確かに、新たな争い気配を孕み始めていた。


選挙という大きな節目を越えて、

それぞれの人が、それぞれの場所で答えを受け取る回になりました。


勝つ者、去る者、そして静かに役目を終える者。

そのどれもが派手ではないのに、

胸の奥にじんわり残るものがあった気がします。


盛豊と信長の短い会話は、

立場を超えた“人としての温度”がふっと滲む瞬間で、

静かな余韻がとても好きな場面でした。


信行と林の別れも、

言葉にしきれない距離感や、

長く一緒にいた者同士の静かな情が漂っていて、

風の中にそっと置かれたような場面になったと思います。


風は結果だけでなく、

人の背中を押したり、

時にはそっと離していったりもする。

そんなことを感じさせる幕でした。


尾張は次の段階へ動き始めています。

ここからどんな風が吹くのか、

また静かに見守っていただければ嬉しいです。

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