第四十五幕 『裂かれた座』
第四十五幕『裂かれた座』
清洲政庁・勝幡派本部 会合室
尾張議会が始まる数時間前。
勝幡派の主要議員たちが集まり、事前の調整が静かに進められていた。
資料を手にした面々は、次の議会戦略について淡々と意見を交わしていたが――その空気を切り裂く報告が持ち込まれる。
柴田勝家が低く息を吐き、慎重な口調で告げた。
「本日をもって、織田信行副代表は勝幡派から除名となる。」
室内の空気が一瞬で張り詰める。
信行は微かに驚きの色を見せながら、勝家を鋭く見つめた。
「……何だと?」
恒興が書類を机に置き、冷静に言い放つ。
「理由は明白だ。度重なる策動、政局の混乱、そして今川との連携強化。
勝幡派の方針と著しく乖離している。」
佐久間信盛が静かに言葉を添える。
「信行さん……残念です。」
信行は拳を握りしめ、声を張った。
「馬鹿な!私は尾張のために動いているのだぞ!」
村井貞勝は表情を崩さず、静かに言った。
「その“尾張”が、今まさに揺れているのです。」
信長は机を指で軽く叩き、短く告げた。
「信行、お前は勝幡派から除名だ。
……今後は無所属の議員として議会に臨め。」
信行は息を飲みながら立ち上がる。
だが、その場で反論することは許されなかった。
会合室の扉が静かに閉じられ、信行は勝幡派の一員としての立場を失った。
尾張議会・本会議室
同じ日。
勝幡派の執行部が再編された直後、本会議場にも重苦しい空気が漂っていた。
斯波義銀への不信任決議案が提出され、議員たちは緊張した面持ちで着席している。
議長席では、信賢が冷静に進行を始めた。
「斯波知事に対する不信任決議案が提出されています。
これより採決に移ります。」
議場内にざわめきが広がる。
信行は机を指で軽く叩きながら、低く呟いた。
「数の上では否決されるはずだ……。」
しかし、決議結果が読み上げられると、予想外の展開が待っていた。
信賢は慎重に票数を確認しながら、声を少し低くする。
「……不信任決議案、可決。」
その瞬間、議場全体が騒然となる。
岩倉派の議員たちは顔を見合わせ、信行はわずかに動揺を見せた。
信賢は目を見開き、結果に驚く。
「これは……造反か?」
勝幡派の議員たちは静かに座りながら、不信任案の可決を受け止めていた。
ゆっくりと立ち上がった義銀は、短く息を吐いた。
「……本日をもって、尾張議会を解散します。」
議場内のざわめきが一層強くなる。
斯波義銀は再起をかけ、議会選挙へと踏み出す決断を下した。
尾張の政局は、静かに、しかし確実に、裂かれ始めていた。
決定の声は静かだった。
怒号も衝突もないまま、座はひとつの線を境に割れていく。
除名と不信任。
二つの判断が同じ日に重なり、
尾張の均衡は音もなく崩れ始めた。
裂け目はまだ細い。
だが、その細さこそが、深い影を孕んでいた。




