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政の継承~戦国リーダーズ~  作者: 葵 悠政
第三章『掌の中へ』

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第四十二幕 『乱れの兆し』

第四十二幕『乱れの兆し』


那古野・寺院門前。


朝の講義が終わったばかりの境内には、記者、商人、若い聴衆が入り混じり、ざわめきが残っていた。

地元紙の記者がカメラを構えながら、講師の僧侶と談笑している。

「文化欄じゃ収まらないな。これは、政治欄でもいけるぞ。」

「尾張の空気が変わってきた証拠だな。」

講師は笑みを浮かべながら頷く。

「理の教えは、民の心に染みるものですから。」


その横では、鳴海の商人が新しい寄進の話をしていた。

「大高の新店舗、駿河の資本が入ってる。寺の石灯籠も、うちが出した分は駿河経由だよ。」

その場に、又左が現れた。

信長の指示で、寺院周辺の空気を探るための調査だった。

彼は静かに境内を歩きながら、記者と僧侶の会話に耳を傾ける。


すると、僧侶がふと口にした。

「尾張は、もう古い。

理の国の秩序が、これからの道を示す。」


記者が笑いながら応じる。

「筆より財布の方が強い時代だよ。信長さんも、そろそろ気づくべきだ。」


又左は足を止め、ゆっくりと振り返った。

「……今、なんと?」


記者が肩をすくめる。

「いや、冗談だよ。冗談。」


僧侶は顔をしかめながら言い返す。

「冗談ではない。尾張の議会は停滞している。

理の教えが広がれば、民も議員も変わる。」


又左は一歩踏み出し、僧侶の前に立った。

「教えを語るのは自由だ。

だが、尾張を侮辱する言葉は、見過ごせない。」


商人が割って入る。

「おいおい、何だよ急に。調査員がケンカ売るのか?」


記者も加勢する。

「これだから勝幡派は……」


言葉の応酬が激しくなり、境内の空気が一気に張り詰める。


又左は拳を握りかけたが、寸前で踏みとどまった。

だが、商人の一人が肩を押した瞬間、乱闘寸前の騒ぎに発展した。


騒ぎはすぐに清洲本部へ伝わった。

信長は報告を受けると、静かに言った。

「……即日、謹慎処分だ。又左には休ませろ。」


勝家が驚いたように言う。

「ですが、挑発されたのは向こうです。」


信長は町の地図を見つめながら、低く呟いた。

「空気が変わったな……。

今は、拳より筆を研ぐ時だ。」


寺の門前では、騒ぎの余韻がまだ残っていた。

だが、誰もそれを止めようとはしなかった。

尾張は、静かに、しかし確実に、揺れ始めていた。


小さな口論にすぎないはずの出来事が、

尾張の空気にひびを入れ始めていた。

言葉が揺らぎを生み、静けさの底で均衡がわずかに乱れる。


兆しは小さい。

だが、その小ささこそが不気味だった。

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