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政の継承~戦国リーダーズ~  作者: 葵 悠政
第三章『掌の中へ』

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第三十八幕『清洲の静寂』

第三十八幕『清洲の静寂』


会議室の扉が、静かに音を立てて開いた。


午後の光が廊下の窓から差し込み、床に淡い影を落とす。

吉良義安と水野信元が、並んで入室する。


義安の足取りはわずかに揺れ、水野は一歩ごとに空気を測るようだった。

佐久間が席を示す。「どうぞ、おかけください。」


椅子に腰を下ろすと、義安は指先を組み、視線を落とした。

その手はわずかに震えていた。


水野は背筋を伸ばし、信長の机に目を向ける。

その瞳には、読み慣れた議会の空気を探る冷静さと、わずかな焦りが混じっていた。


信長はコーヒーを口に運びながら、書類に目を通していた。

その動きは静かで、しかし一つひとつが意味を持っていた。


彼の沈黙が、場の温度をじわじわと下げていく。

「三河の現状について聞かせてもらおう。

駿河文教党の影響は、どこまで及んでいる?」


義安は低く息を吐き、言葉を選ぶように口を開いた。

その声は、喉の奥で何度も形を変えた末にようやく出てきたものだった。

「……三河は、すでに文教党の支配下にあります。

私は造反し、追われました。

今は……戻る場所がありません。」


その言葉に、部屋の空気がわずかに沈んだ。

義安の目は机の縁を見つめたまま、動かない。


その視線の先に、かつての故郷があるようだった。


水野が、静かに言葉を継いだ。

その声は、議会で何度も鍛えられた響きを持っていたが、今は少しだけ揺れていた。


今川(いまがわ)義元(よしもと)の力は確かに増しています。

ですが、私は尾張議会の議員です。

文教党に籍を置いていたこともありますが、それは尾張の利益を守るための選択でした。」

私は、尾張の議員として、尾張の未来を見据えて動いています。」


勝家が眉をひそめる。

その視線には、過去の鞍替えへの警戒が滲んでいた。

「要するに、親勝幡派と文教党を行き来して、保身を図っている……そういうことか。」


水野は肩をすくめ、苦笑した。

だがその笑みは、どこか痛みを含んでいた。

「生き残るためには、柔軟であるべきでしょう?」


林秀貞が資料をめくりながら、冷静に言葉を挟む。

その手の動きは機械的だが、目は水野の表情を見逃していなかった。


「とはいえ、三河に文教党の影響が根付いた今、

水野殿がどこまで動けるかは、議会内でも疑問視されています。」


恒興はコーヒーを片手に持ち、静かに視線を落とした。

彼の沈黙は、言葉より重かった。

「問題は、二人が何を望んでいるかだ。

我々に、何を求めている?」


義安が深く息を吸い、視線を上げる。

その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


だがその奥には、切り捨てられることへの恐れも、確かにあった。

「……救援を。」


信長はコーヒーを置き、指を組んだ。

その動きに、場の空気がわずかに揺れた。


彼の目は、義安ではなく水野を見ていた。


水野が慎重に言葉を継ぐ。

その声は、議会の場では決して見せない、個人としての願いを含んでいた。


「尾張が三河に介入できるなら、私は協力します。

尾張と三河を繋ぐ役割を、私に担わせていただきたい。」


信長は短く息を吐き、微かに笑った。

その笑みは、試すようなものだった。


「協力とは、具体的に何を指す?」

水野は一瞬ためらい、小さく息を吐いた。

その沈黙の中に、彼の過去と未来が交差していた。


「私の立場を保証し、尾張の意志を三河に届ける橋渡しを――」

信長は静かに水野を見つめ、低く言葉を落とす。


「……三河の未来は、簡単には決まらない。」

その言葉が、執務室の空気をさらに重くした。


窓の外で風が枝を揺らし、午後の光がわずかに傾いた。

誰もが、次の言葉を待っていた。

だが、それはまだ訪れなかった。


第三十八幕では、吉良義安と水野信元が清洲に姿を現し、三河の現状と駿河文教党の影響を語りました。 義安は故郷を失い救援を求め、水野は尾張と三河を繋ぐ役割を担いたいと訴えます。 しかし、過去の鞍替えへの警戒や議会の沈黙が重くのしかかり、信長の言葉は「三河の未来は簡単には決まらない」と静かに場を締めました。


救援の声と橋渡しの願い――その狭間で、尾張は次の一手を選ばねばならない。 静寂の中に漂う緊張は、やがて大きな決断へと繋がっていきます。

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