第三十三幕『冬の面会室』
第三十三幕『冬の面会室』
拘置所の面会室は、冷たい静けさに包まれていた。 壁の時計が、一定のリズムで時を刻む。 信長は椅子に腰を下ろし、目の前のアクリル板越しに信友を見つめていた。
信友は、少し痩せたように見えた。 だが、目の奥にはまだ火が残っていた。
「……来るとは思っていなかったよ。」 信友が口を開いた。 声は静かだったが、どこか挑むような響きがあった。
信長は表情を変えず、短く答えた。 「話をつけに来ただけだ。」
信友は微かに笑った。 「勝幡派は、再統一するそうだな。信行を副代表にか」
「お前の企みは、失敗した。」
信長の言葉に、信友は目を細めた。 「……失敗?」
「解任請求は否決された。信行も、勝家も、林も、今は沈黙している。」 信長は机に指を置き、ゆっくりと滑らせた。
「お前は信行をけしかけ勝幡派の代表の座を取りに動かした。たしかお前は俺が父の後を継いだ時も信行を推していたな。その後崩れた清洲派を再結集させ、議会の勢力図を再編するつもりだった。自身の裁判を有利に進めるため…。万が一有罪になった場合でも陰で尾張議会を動かせるように…」
信友はしばらく黙っていた。 面会室の空気が、少しだけ重くなる。
「……政界には、二度と戻れないと?」
「そうだ。」
信長は目を逸らさずに言った。 「お前が選んだ道だ。誰かのせいにもできない。」
信友は目を伏せ、指先で机の端をなぞった。 「……あの時、もう少し違う選択ができていたら、何か変わっていただろうか?」
信長は答えなかった。 ただ、静かに立ち上がった。
「これが最後の面会になるだろう。」 信長はそう言い残し、面会室を後にした。
信友は、去っていく背中を見つめていた。 その目に、悔しさも、怒りもなかった。 ただ、静かな冬の光が差し込む中で、何かが終わったことだけが、確かにそこにあった。
第三十三幕では、拘置所の面会室で信長と信友が最後の対話を交わしました。 かつて尾張の政局を揺るがした信友も、今や静かな冬の光の中で幕を下ろします。 「再結集」を果たした勝幡派に対し、信友の企みは終わりを告げ、物語は新たな局面へと進んでいきます。
この静かな幕切れが、次の展開にどのような影を落とすのか――ぜひ見届けてください。 もし楽しんでいただけましたら、⭐評価やブックマークで応援していただけると励みになります。
※投稿設定の不備により、一話分の投稿が飛んでしまいました。
読み進めてくださっている皆さまには、ご迷惑をおかけしました。
以後は気をつけてまいります。




