表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政の継承~戦国リーダーズ~  作者: 葵 悠政
『清洲の構造』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/38

第三十幕 『知事室の窓辺』

第三十幕『知事室の窓辺』


冬の午後、尾張知事室。 大きな窓の外では淡い雪が舞い、白い粒が静かに街を覆っていく。義銀はその光景をしばし見つめ、深く息を整えた。


「……私は、複雑な気持ちです。」


向かいに座る岩倉派の織田信賢(のぶかた)が、冷静な面持ちで眉をわずかに動かす。

「どういう意味でしょうか。」


義銀は机上の書類の端を指でなぞり、静かに言葉を紡いだ。

「私がこの知事の職に就くことができたのは、勝幡派の支えがあってこそです。そのことを決して忘れたことはありません。 しかし今、その勝幡派は大きく揺らぎ、分裂の危機にあります。信長さんと信行さん――兄弟の間で、これほどの対立が生じるとは、想像しておりませんでした。」


信賢は腕を組み、短く頷いた。 義銀は微かに息を吐く。

「恩があるからこそ、この混乱をただ傍観するしかないのは、何とも言えぬ心持ちです。」


信賢は湯飲みに軽く触れ、視線を合わせる。

「……お気持ちはよく分かります。私も似たような経験をしてきました。」


「……あなたのお父君のことですね。」


淡い微笑を浮かべ、信賢は頷いた。

「ええ。私はかつて、父である信安をクーデターによって失脚させました。そして、その後、岩倉派を率いる立場となり、父から知事代の職を引き継いだのです。」


義銀は興味深そうに目を細めた。

「ご自身の父君を追い出してまで、その座に就くというのは……並々ならぬ決意が必要だったでしょうね。」


「ええ。後悔はございません。ただ、時折、その決断について考えることはあります。」


義銀は窓の外に視線を戻し、舞い続ける雪を追った。

「……こうして並んで座り、政局を見つめるのも、何とも不思議なものですね。」


「確かに。そして今、信長さんと信行さんが、同じ道を辿ろうとしています。」


義銀は机の書類を軽く指で叩きながらつぶやく。 「旧清洲派の再結集の動きも見えます。もし成功すれば、議会の最大派閥が生まれる。 この混乱がどう収束するのか……今はただ、見守ることしかできませんね。」


知事室の静けさの中、雪は絶え間なく舞い続け、 政治の渦が音もなく形を変えつつある。


その頃、清洲では――                                                              

信長の指示が矢継ぎ早に飛び、動き出した者は誰ひとり立ち止まらなかった。 躊躇していた勝幡派の党員たちも、その声と眼差しに突き動かされるように席を立つ。 わずかな逡巡も、信長の前では意味を失っていた。

「情報が来るのを待つのではない。引き寄せるのだ。」

信長は地図の上に駒を置きながら、まるで自分の手で局面を編み直すように動き続ける。

その姿は、雪に閉ざされかけた街の中で、ただ一人、春を呼び込む風のようだった。


第三十幕、ご覧いただきありがとうございました。 今回は、義銀と信賢の対話を通じて、“恩を受けた者”と“恩を越えた者”の視点が交差する場面を描きました。


「私は、複雑な気持ちです」 その言葉に滲むのは、支えへの感謝と、傍観しかできない葛藤。


一方、信長は雪の中で動き続け、政の構造を自らの手で編み直そうとしています。 その姿は、静けさの中にある“風の兆し”のようでもありました。


次幕では、揺れる尾張の構造が、どのように形を変えていくのか。 引き続き、静かな時間にお付き合いいただければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ