第二十七幕 『酒と秘密と兄弟と』
第二十七幕『酒と秘密と兄弟と』
佐久間が徳利を掲げる。
「信長さん、今日は祝いですよ。少しぐらい盃を重ねてくださいよ」
勢いよく信長の盃に酒を注ごうとするが、信長は軽く手を振った。
「いや、俺は少しで十分だ」
「え?そんなこと言わずに、せっかくだし飲みましょうよ!今日は新しい門出ですし!」佐久間はさらにすすめる。
その横で、信行が苦笑しながら口を開いた。
「兄さん、隠しても無駄ですよ」
信長が警戒するように視線を向ける。
「……何を言うつもりだ?」
信行は盃を持ち上げ、楽しげに言った。
「実は兄さん、酒が苦手なんです。少し飲んだだけで、寝てしまうんですよ」
一瞬の静寂が広間に走り、驚いた表情が浮かぶ。
勝家が盃を置き、じっと信長を見つめる。
「なんだと……?」
貞勝は書類を片手に、意外そうにつぶやいた。
「それは……意外ですね」
恒興が肩をすくめ、帰蝶と視線を交わす。
「あ〜あ、バレちゃったか」
「いつかバレると思ってたけど、案外早かったわね」帰蝶は微笑みながら信行を見た。
「この前なんて、ほんの一口だけで即寝入り。しかもそのまま朝まで起きなくて、委員会に遅刻しそうになったんです」信行は得意げに語る。
佐久間が大笑いしながら肩を叩く。
「それは面白い!信長さん、そんな一面があったなんて!」
信長は軽くため息をつき、信行をじっと睨む。
「……お前な」
利家がいたずらっぽく徳利を掲げる。
「じゃあ、今夜はどうなるか試してみようか?」
信長は鋭い目つきで利家を見やり、静かに盃を置いた。
「やめろ……。まぁ、そういうことだ」
場が笑いに包まれ、宴はさらに盛り上がる。
杯を交わしながら、勝幡派の面々は談笑を続けた。
第二十七幕、ご覧いただきありがとうございました。 今回は、信長の“酒に弱い”という秘密が明かされ、兄弟のやり取りを通じて、勝幡派の空気が少し柔らかくなる場面を描きました。
「負けたと思った瞬間が始まりだった」――その戦の余韻の中で、今夜は少しだけ笑いが許された時間。
信長の盃が置かれ、場が笑いに包まれることで、政の構造に“人の温度”が差し込まれます。
次幕では、笑いの後に残る静けさが、尾張の筆をどう動かすのか。 引き続き、静かな時間にお付き合いいただければ嬉しいです。




