第二十二幕 『扉を開く家格』
第二十二幕『扉を開く家格』
勝幡派陣営。丹羽長秀の執務室。
扇風機が静かに回る中、義銀が頭を下げて部屋に入る。
丹羽は五郎左衛門と呼ばれる名を持ち、長年の実務と人望で「陣営の舵取り役」として認識されていた。
「……ご挨拶が遅れました。斯波義銀、父・義統の意志を継ぎ、尾張の政に――」
丹羽が静かに手を上げる。
「あなたが来るとは思っていたよ」
義銀の言葉は止まり、丹羽に視線を向ける。
「お父様の死は、政の場に隙を残した。埋めるには、言葉ではなく覚悟が要る。一緒に頑張りましょう」
義銀は短く息を整え、頷き資料を差し出す。
知事選出馬に向けた準備書類だったが、丹羽の視線はある一点で止まる。
「……官位がないのか」
「はい。六位以上の位階が必要ですが、今の僕にはまだありません」
丹羽は沈黙し、巻物をひとつ開いた。
「斯波家は、中央で総理を補佐していた家格だ。名で道を開けることもある。
勝幡派と中央の繋ぎを使えば、知事選までに叙任を通せる可能性はあるぞ」
義銀の眼が少し見開かれる。
「叙任を……間に合わせることが、可能なんですか」
「可能かどうかを問うな。やるかどうかを決めよう」
—
その頃、清洲派事務局では信友が越前から届いた書状に目を通していた。
斯波家の越前筋――格式の高い一門から候補を立てようとしている動きが、水面下で進んでいた。
坂井大膳が巻物の名を読み上げる。
「斯波昌高。格式は申し分なし。中央の推薦もあるようです」
信友が目を細める。
「名前が動けば、民の意識も変わる。……義銀の家名を民のものにする前に、昌高の格式で場を押さえる。
……取らせてもらうぞ。すべて」
第二十二幕、ご覧いただきありがとうございました。 今回は、義銀が“家格”という扉の前に立ち、政の場に踏み出す覚悟を問われる場面を描きました。
「可能かどうかを問うな。やるかどうかを決めよう」 丹羽五郎左衛門の言葉は、名ではなく意志で進む者に向けられた静かな問いでもあります。
一方、清洲派では“格式”を先に動かす策が進み始めています。 名が動けば、場も揺れる――その構造の中で、義銀の志がどこまで届くのか。
次幕では、家格と民意の交差点が、さらに静かに動き出します。 引き続き、静かな時間にお付き合いいただければ嬉しいです。




