第十四幕 『静けさの中の決意』
第十四幕『静けさの中の決意』
議事棟・非公式小会議室(午前)
部屋の窓から、灰色の空が見えていた。
議事棟の一角にある小会議室――通常は使われない部屋だったが、その日の午前、信長はその場所に呼び出された。
ドアを開けると、斯波義統がすでに席についていた。
書類はなかった。ただ、手帳がひとつ机に置かれている。
信長が静かに言う。
「ご用件は……何でしょうか」
義統は目線を逸らさず、手帳をひらいた。
「昨夜、織田信友君と坂井大膳君が会談していた。
その内容を、信頼できる者から伝え聞いた。
――君を議会から排除する策が動いている。
スキャンダルによって、支持を崩す計画だそうだ」
室内が一瞬、空気を失ったように静まる。
信長は言葉を返さず、ただ義統を見ていた。
「君は、制度に風を起こした。
それが届いたからこそ、議会は揺れ始めた。
信友君は、その揺れを“脅威”として受け止めている」
信長が言う。
「尾張を整えようとしているだけです。
誰かにとっては不都合でも、誰かには届くはずだと信じて」
義統は少しだけ目を伏せ、低く呟くように言った。
「理想が制度に触れたとき、必ず軋みが生まれる。
それが政治の性質だ。
だからこそ、その理想を正しく届ける“形”を持ってほしい」
信長は手帳を手に取る。
ページの隅に、折り返された箇所があった。
その余白に、小さな文字が記されていた。
【整えるとは、騒がずに通すこと】
信長がゆっくりと頷く。
「……ありがとうございます。
この件、表では動かしません。
でも、その代わり、制度の内側で動かします」
義統は席を立ち、扉へ向かう直前、ふと言葉を残した。
「尾張を“守る”か、“変える”か。
その間に立つ者として、私は風の向きを見続けるつもりです」
—
信長がひとり残された部屋の中で、机の上にその手帳を戻した。
風は吹いていた。だが、その風の通り道は、音を立てずに整えられていく。
読了ありがとうございます。 声を荒げず、形を整えることで届くものがある―― 信長と義統、それぞれの立場からの“静かな決意”が交差した回となりました。
それにしても平手の手帳にはどんな事が書かれているのでしょうか。 また覗いていただけたら嬉しいです。




