第十幕 『揺れる座標軸』
第十幕『揺れる座標軸』
信友の部屋。
資料を閉じる音が、まるで静かな怒りのように響いた。
「義統……あそこであんな発言をするとはな」
信友は眉間を押さえながら言う。
彼の参謀が応じる。
「尾張の空気が変わるかもしれません。信長議員の存在を、知事自身が“起点”として認めるような流れです」
信友は沈黙する。
ウィスキーグラスの氷が、ひとつ鳴った。
—
勝幡派控室。
信長は資料の束を机に広げていた。
恒興がカフェで持ち帰ったアイスコーヒーを渡す。
「清洲派、ちょっと慌ててるみたいだぞ。
信友、部屋から出てきてないってさ」
信長はうなずく。
「斯波さんが“民のために必要だ”って言った。
あれは、議会じゃなくて俺に向けた言葉だった気がする。……責任、こっちに回ってきたな」
平手の手帳が、机の端にある。
そのページの角に、付箋が挟まっている。
【整えるとは、届くように形を直すこと】
信長はペンを取り、改訂案に“生活向上指標”の条文を挿入する。
—
議員控室・若手の動き
別の控室では、若手議員がざわついていた。
「知事の発言……清洲派との距離、少し変わった気がしない?」
「尾張ってさ、動かないことが美徳だったけど……
最近、ちょっとだけ風、吹いてるよな」
—
信長、提出前夜
夜、信長は再構案の最後のページを閉じる。
風鈴は鳴らない。代わりに、資料の紙がひらりと揺れる。
「前に進む。それだけじゃだめだ。
ちゃんと、届く形にして、残すこと」
折り紙がペン立ての影にある。
信長は、それをそっと机の中心に置き直す。
読了ありがとうございます。 少しずつ、尾張の空気が揺れ始めています。 その揺れの中心に、信長が“届く形”を探し始めました。
次回も、静かな変化の続きを描きます。 また覗いていただけたら嬉しいです。




