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第一幕 『はじまりの朝』

はじめまして。

ご閲覧ありがとうございます。

本作は戦国時代の要素を取り入れた現代の政治群像劇です。

小難しい政治の話を戦国武将たちの物語を通じて分かりやすく描いています。

気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

毎週月曜と木曜日に更新予定ですので、是非ご期待ください。

感想やご意見などもお待ちしております。

「政の継承~戦国リーダーズ~」

尾張の夜明け

かつて、この国は一つの理想のもとに動いていた。広大な土地に秩序が敷かれ、人々はその枠組みに従い暮らしていた。しかし、その理想が揺らぎ始めると、地方ごとの力が強まり、それぞれが知恵と力を用いて新たな未来を切り開く時代が訪れた。

尾張の地も混乱の波から逃れることはできなかった。これまで地域の発展を導いてきたのは、一人の男だった。彼の名は織田信秀(おだのぶひで)。その活力に満ちた統率力によって尾張はまとめ上げられ、発展の基盤が築かれた。その存在は象徴であり、安心の拠り所となっていた。

だが、その時代が終わりを迎えた今、新たな選択が迫られている。跡を継ぐ若者は、奇抜な振る舞いと異端な思想で周囲を驚かせ、期待と不安が入り混じる声が広がった。

彼はただ過去の地盤を守るために現れたわけではなかった。混乱の時代の中、新しい秩序を生み出し、この地をさらに進化させる強い意志を抱いていた。

「親父が蒔いた種はここまでだ。俺はここに新しい実を結ばせる。そして、それがこの尾張の未来になる。」

その言葉の裏には、大いなる挑戦が待ち受けていることを、本人自身もよく理解していた。


第一幕 『はじまりの朝』

薄曇りの朝だった。

控室の窓から見える街はまだ眠っているようで、交差点の信号だけが規則正しく光っていた。

湿気を含んだ夏の空気が、スーツの袖口にまとわりつく。

信長は椅子に座ったまま、手元の紙をじっと睨んでいた。

何度も読み返した挨拶文――平手政秀ひらてまさひでが組み立てた、型通りの初登壇の言葉。

きちんと、丁寧に、礼節を欠かさず。

けれどそれは、自分の“声”ではない気がした。

「……平じぃ(ひらじぃ)、これ堅すぎだろ。“地域社会と住民の幸福のために”って……俺っぽくねぇ。」

平手は眉ひとつ動かさず、資料を机に整えながら静かに言った。

「“俺っぽさ”だけでは票は取れません。若、民意は整った言葉に安心を覚えるのです。」

「でも俺の言葉じゃなかったら、ただ読んでるだけで終わっちまう」

控室のソファで足を投げ出していた恒興(つねおき)が、伸びをしながら口を挟んだ。

「まあまあ……平じぃの言うことも一理あるって。議会デビューってのは型も大事らしいぜ、信長」

「つね、そんな顔して言うなよ。型ってより、型にハマれって感じがムズムズすんだよ」

「それでもデカい花火を打ち上げるなら、まず安全装置から覚えろって平じぃが言ってたろ」

「言いましたねぇ。……恒興も、議場で変なこと言いませんように」

「言わないよ。俺は“信長の同期”って肩書きで得してんだから」

信長が肩をすくめて、小さく笑った。

その目元に、不安と興奮が同居している。

机の隅に目をやると、折りたたまれた小さな紙片が挟まっていた。

昨日、いちが学校帰りに無造作に置いていったものだった。

「兄ちゃん、がんばってね」――子どもの字で、いびつな線がまっすぐでいようとしていた。

信長はそれを指先で一度なぞり、何も言わずにポケットにしまった。

控室にふと沈黙が落ちたそのとき、平手が眼鏡を上げながらちらりと時計を見やる。

「お二人とも、まもなく時間です」

信長がようやく立ち上がり、スーツのボタンを留める。

ネクタイは少しだけ曲がっていたが、恒興がそれを無言で直す。

まるで兄弟のような、癖のような仕草だった。

「……いってらっしゃい、若」

控室の扉を開くと、廊下の奥に議場がある。

硬質なフローリングの上を、足音だけが先に走り出す。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。次回もよろしくお願いします。


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