表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙の行方  作者: 春木
第一章 氷河の惑星
6/42

5話 大団長

 昇月がその扉の前に立つと、扉は自動的に開かれる。

 扉の中には、昇月と同じく白髪の男が、大量の汗をタオルで拭っていた。


「やあ、待ってたよ。昇月……。そして、行方行秋くん……」


 行方は、未だ自己紹介どころか、昇月から紹介すらされていないのに名前を呼ばれたことで、身を強張らせる。

 しかし、行方の警戒に気付いたその男は、朗らかに笑い掛ける。


「はは、そんな警戒しないでくれ。ニコと昇月の音声はこちらに届いているんだ。だから名を知っているだけだよ」


 そう言うと、昇月のように握手を求めた。


「ニコを救ってくれてありがとう。僕が大星母の大団長、白蓮(はくれん)だ。よろしく頼むよ」

「改めて、行方行秋です。よろしくお願いします……」


 胡散臭いと思わせる笑顔に警戒を崩さず、行方はそっと握り返す。


「それと、君の中にいる神族……アテネさんも、よろしくね……」


 行方がグッと力を込めた瞬間、見計らったかのように手を離すと、何事もなかったかのように再び汗を拭った。


「戦闘部隊はもう招集してある。ルキナさんの手術、無事に終わるといいんだけどね」

「今回、龍星群から派遣されているのは、『真眼の紅』だとグレンデ国王より聞きました」

「そうだね。王城内に現れたのは紅。そして、ニコと行方くんの前に現れたのは、『不死の蒼』。中々に面倒な奴らが来ているものだね。まあ、龍星群に面倒でない者は居ないのだけど」


 白蓮はふんわり笑うと、タオルを乱雑に投げ捨てる。部屋の中を徘徊しているお掃除ロボットらしき白い腕のようなものを生やした機械は、見事にタオルをキャッチし、どこかへと持って行った。


「さあ、ルキナさんの体内からエネルギー結晶を摘出するのに大体六時間と言ったところだろう。先に会議を済ませたら時間を取るよ。行方くん、大星母中枢に興味があるんだよね?」

「は、はい……」


 行方は薄々感じていた。この男には何もできない。戦っても何もさせてもらえない。蒼と同様、コイツも()()()()()()()()()()()()()のだ――――と。


   *


 暫くして、大きな会議室へ昇月に案内されると、既に武装した集団が数名集められていた。


「彼らは大星母が誇る戦闘部隊の()()たちだ。別の惑星に行っている者もいるから、今集められるだけの人材にはなるが、どの人も大団長に認められた強者たちだ」


 たしかに風格はある……が、行方には、彼ら一人一人が自分の対峙した蒼と渡り合える素養があるとは感じられなかった。

 暫くすると、先程の大団長、白蓮と共に、赤い長髪の女性が入室する。行方は、昇月に案内され、机が並ぶ一番手前の席に座らされていた。


「そちらが行方くんね。さっきニコから話は聞いたわ。ニコを助けてくれてありがとう。調査隊長として心からの感謝を……」


 そう言うと、赤髪の女性は丁寧に頭を下げた。

 すると、昇月は耳元で囁く。


「彼女は俺たち調査隊の隊長、ミトさんだ」


 行方も、礼儀として取り合えずのお辞儀を返すと、ミトはニコリと微笑んだ。


「それでは早速だが、惑星ネージュに現れた龍星群二名。不死の蒼と真眼の紅が来ていると情報が上がっている。この二人が来ているということは、他にも潜んでいる可能性が高い。今回は少し大人数で出動しようと考えている」


 白蓮の説明に、ガタイのいい男が口を開く。


「まーた厄介な奴らが来たもんだな、大団長。だが、惑星ネージュは数年前に大星母と交易を結び、エネルギー結晶を作ったばかりだろ? 龍星群の連中が何故そこまでの戦力を投入してまで、一つのエネルギー結晶に拘ってるのかが判らねぇ」

「たしかに、問題はそこだね。彼らがエネルギー結晶の奪取に乗り出すとしたら、国家や惑星一つを相手取ることになる。しかし、彼ら龍星群は一人で惑星一つを滅亡させるなんて訳ないことだ。今までも単独での行動が基本。それが今回は、二人係どころか、伏兵も考えられる。そこで私が考えた結論は、今回の作戦自体は紅が遂行し、相手に何もできなくさせる為、都市国家ゲレンデを壊滅させ、不死の能力を持つ蒼が()()()()()()を行うのではないかと考えている」


 白蓮の考察に全員が黙り込んだ。

 龍星群一人と戦闘になることすら厄介なことなのに、雪原を利用されるとなると、雪原の中で生き残れる人員しか蒼の相手はできないことになる。

 すると、一番奥に座る細身の男が手を挙げた。


「おや、君が自分から発言をするなんて初めてじゃないかい? 五番隊隊長、エンゲルくん……」

「僕が隊長に就任してから……戦闘なんて初めてで……それに、相手は龍星群だし、本当は怖いんですけど……」


 五番隊隊長、エンゲルと呼ばれた男は、一度も白蓮の顔は見ず、見るからに怯えた表情で震えながら話す。

 しかし、白蓮はニコリと嬉しそうにエンゲルの話を割いた。


「君の能力であれば、雪原での戦闘も優位に運べる。自分から申し出てくれたこと、凄く嬉しく思うよ」


 しかし。

 白蓮も、恐らくはその場の全員が判っていることが、エンゲルの「でも」の続きだった。


「僕一人の戦闘力では……不死の蒼の足元にも及びません……。数分、足止めできれば良い方かと……」

「そうだね。まあでも、君の力不足ではない。ここにいる隊長たち皆、一人で龍星群と戦うなんて厳しいことだろう。『部隊』と言っても、雪原に君の部隊は連れて行けないし、あと二人の隊長レベルの戦力は欲しいところだ。そこで……」


 次の白蓮の言葉に、最初から白蓮はこの作戦を考えていたのだろうことを口にした。


「僕とエンゲルくんで不死の蒼と戦おう。真眼の紅は……君が居れば大丈夫だよね……?」


 白蓮が目で差した先にいるのは、どの戦闘部隊の隊長でもない、昇月だった。

 昇月は声もなく、鋭い目付きで応答した。


「それじゃあ解散! エンゲルくんは戦闘の準備に取り掛かってね!」


 朗らかにそう言うと、全員静かに立ち去った。


   *


 宇宙の暗闇と星々が見える窓が立ち並ぶ廊下、周囲に人気がないことを察知しながら、行方は昇月を引き止める。


「どうした、行秋。この後、大団長と話すのだろう?」

「大団長、白蓮の言っていることはおかしい」

「どこがだ? 必要な相手に必要な人員を向けた。何もおかしいことなどないだろう」


 自分には関係ないこと――――そう思いながらも、小さな鼓動を感じながら、行方は口を開いた。


「白蓮の作戦は、()()()()()()()()()()()()()だ」


 龍星群は、一人でさえ惑星規模を滅ぼす戦闘力がある。蒼との戦闘を雪原で行う想定をしているのも、相手の行動を読んだ上で、その作戦を遂行させた上での対応になる。


「大丈夫だ。エネルギー結晶は現在、大星母にある。つまり、紅は行動を起こせないということだ。現時点で、既に龍星群は目的を果たせない。大星母と交戦になった龍星群に残された選択肢は逃げることだけ。そうした時、雪原戦を考えずに戦闘部隊を送り込んだら、蒼の不死の能力を利用され、我々の戦いが不利になる。大団長はそこを考慮しているんだ」


 昇月の説明も頷ける。ルキナやエネルギー結晶は現在、大星母にある為、大星母に乗り込むなんて大胆なことをしなければ龍星群の目的は果たせない。

 しかし、行方はどこか、引っ掛かりが取れずにいた。

 一先ず、自分の目的を果たそうと、再び大団長の部屋へと向かうと、部屋には先ほど蒼との戦闘に選ばれていた五番隊隊長エンゲルが一緒に待っていた。

キャラクター紹介


主人公:行方行秋ナミカタ ユクアキ/地球人

 様々な異能力が使える主人公。「戦術の神 神族 アテネ」を体内に取り込んでいる為、人知を超えた頭の回転速度を誇る。


◇大星母

白蓮はくれん:大団長

ミト:調査隊長

エンゲル:戦闘部隊 五番隊長

ニコ・ジェミニ・メイ:調査隊員

 「ペコちゃん」という変形生物を相棒にしている女の子。短絡的な性格。

昇月しょうげつ:調査隊員

 白髪の青年。生真面目で正義感が強い。


〇氷河の惑星

ゲレンデ国王

ルキナ・ゲレンデ

 惑星エネルギー結晶が体内に埋め込まれている王女。


龍星群りゅうせいぐん

真眼の紅

不死の蒼

 「不死」の能力を持った剣士。迅速で目では捉え切れない剣撃を放つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ