4話 大星母
行方が王城に入ると、既にルキナから話を聞いていたであろう兵士たちは頭を下げ、ニコとその仲間が待っているという客室へと通された。
「あ、来た! 行秋!」
中には、白髪の男と、相対して座っているのは、一目で判るこの国の国王だろう人物だった。そして、その横にはルキナも座っており、この時点で王女であることが証明された。
行方が客室へ入ると、国王は涙を溢れさせそうになりながら深々とお辞儀をした。
「娘を助けて下さり……ありがとうございます……!!」
「いえ……」
正義感で助けたわけではなかった行方は、少しだけ反応に困りながらも、無表情でニコの方を向く。
「彼が……ニコの仲間か?」
「そう! 紹介するね! 私と同じ調査隊員の昇月! 悪いけどめちゃくちゃ強いから!」
ニコが「強い」と強調するその後ろで、昇月は静かに立ち上がり頭を下げた。
「行方行秋、地球人です。ニコとは地上の……雪原で出会って一緒にここまで来させて頂きました」
「地球人……本当に……。しかし、地球人があの雪原を生き残れるとは思えないが……。いや、それ以前に機械兵器は……」
ボソボソと考え込む昇月に、行方は片手を差し出す。
行方の仕草を全員が覗き込む。
ボゥッ!!
行方の手からは、一瞬、炎が噴き出される。しかし、周囲に怪我がないよう、配慮された大きさの炎を噴射したことに、昇月は気付いた。
「なるほど。今の行動で全て理解した。君には魔法のような力があるんだな。今の炎を操る力も、我々に危害が及ばないよう調節したんだろう。そこまでの能力であるならば、雪原で生き残れたことも、機械兵器を倒せたことも……そして、龍星群を追い払った力も納得が行った」
流暢に行方の行ったことの解説、そして、自身が「理解した」ということを伝えると、昇月は立ち上がり、頭を深々と下げた。
「改めて、ニコを救ってくれてありがとう。ニコから話は聞いている。君が大星母の中枢を担う人物に会いたがっている、と。僕からも説明し、必ず会わせてみせよう」
そう言いながら、昇月は手を差し出す。
行方も、何も言わずに昇月の手を握り返した。
「それじゃあ、今後について話し合いましょう。まず、ルキナさんの体内にエネルギー結晶があること、国王から説明を頂きたい」
暫くの無言が続いたが、国王が震えながら静かに立ち上がると、そのままガタリと土下座をした。
「本当に……申し訳ありません……!! あれだけ私欲に使わないことを大星母の皆様とお約束したのに……私は……惑星のエネルギーを私欲に使ってしまった……!!」
しかし、昇月は察していたかのように、そんな国王の行動に驚きもせずに答えた。
「私たちの方で、エネルギー結晶の異変を捉えたのが半月ほど前……。私欲でなければ人体にエネルギー結晶を入れるなんてことはしないでしょう。真面目なあなただからこそ、どうして私欲に使ったのか……聞きたいのです」
励ましのようにも聞こえる昇月の言い方に、国王は再び涙を溢しながら話を続けた。
「実はルキナは……大星母と私たちのこの惑星が交易を持つ頃、未だ赤ん坊だったのです……」
その言葉に、ニコも昇月も目を見開いた。
「ちょっと待ってください。大星母とこの惑星が交易を結んだのは、僅か四年前のことですよ!? 見たところ……ルキナさんは十代後半の女性に見えるのですが……」
「そうなんです……。ルキナの本当の年齢は、今年で四歳……。しかし、ルキナには遺伝してしまっていたのです……」
国王の説明にピンと来たのか、昇月は鋭い目付きで呟く。
「氷結症……」
「そうです……。この惑星の人類は、長い間、氷結症という悪重病に犯されてきました……。その病で滅亡した国がいくつも存在します……」
「それを……数百年後の現在、ルキナさんが遺伝していた……」
「だから私たち……『国王に娘がいる』ってことは聞いてたけど会ったことはなかったんだ……」
ニコも、辻褄が合ったかのように辛そうな顔で俯いた。
「氷結症は雪原でのみ感染する病。この地下都市に居れば住民に感染することも、この国が滅亡することもありません。ただ私は……この子を見捨てることはできなかった……」
説明には頷ける。エネルギー結晶の力で病を取り除くことはできたが、莫大なエネルギー摂取により身体が急成長を遂げたということ……。
しかし、昇月には他にも気になることがあった。
「あの……奥さん、お妃様の姿が見えないのですが……?」
顔を上げず、涙も拭かず、辛い口調で国王は答える。
「エネルギー結晶を娘に入れたのは、妻なんです……。その時の衝撃で……亡くなりました……」
そうして、全員が黙りこくってしまった。
しかし、沈黙していては事態は先へ進まないと判断した昇月は、未だ泣き止まぬ国王を差し置いて話を続けた。
「それでは、ルキナさんの身体からエネルギー結晶の摘出手術を行うことが最優先になります。一度消えた氷結症が再発することはありませんが……お身体に障害が残るかと……」
決心をしていただろう国王は、涙ながらに答えた。
「判っています……。命さえ残るのなら……お願いします……」
そうして、話はまとまった。
エネルギー結晶が身体に入り続けるということは、今回のように龍星群に狙われる事態にもなり、更に入り続けた身体は莫大なエネルギーに耐え切れず、成長し続け、本来の成長速度よりも遥かに早い速度で寿命を迎えることとなる。
まずは手術の可能な大星母へとルキナを連れて戻り、龍星群にも備えたメンバーを揃えて帰還する手筈となった。
「行秋、ここから大星母に行けるんだよ!」
二人に案内された場所は、王城の地下通路を通り、地下の中に造られた鉄の部屋の中にワープゲートがあった。
「この台座に乗ると……つまりはテレポートができるのか?」
「そう! 座標と座標が通信されている状態で、正確なその場所にテレポートできるの! 凄い技術でしょ!」
「ああ、凄い技術だ。では、何故、ニコは雪原にいたんだ?」
その問いに、ニコは目を泳がせるが、後ろから着いてきていた昇月に小突かれる。
「コイツは前回の惑星調査に選ばれなかったんだ。惑星間の移動はかなり掛かる。調査に掛かる時間も入れると一年から二年は待機することになるんだ。大星母の中で暇だったコイツは、久々の調査に嬉々としすぎて、未だ座標で示してないのに身を乗り出しすぎてワープゲートに転げ落ちたんだ。結果、狙った座標ではない雪原に放り出されたわけだ」
行方は何の反応もなくニコを眺めた。ニコは涙目で恥ずかしがりながら怒鳴る。
「もう!! そこまで聞いたならいっそ笑いなさいよ!!」
「いや、ただ馬鹿だなと思っただけで」
「それが顔に出てるから怒ってるんでしょうが!!」
そのやり取りを聞きながら一人でプスっと笑うルキナに気付いていたのは、恐らく行方だけであっただろう。
*
大星母艦隊内は、よくアニメなどで見る宇宙艦隊……とは程遠く、豪華なホテルのような内装が広がっていた。
「ここが宇宙船の中とは思えないな……」
「そうだろう。大星母は様々な種族が集結し、宇宙でも最大規模の技術力を誇る。動く惑星とも謳われるほどだ」
ルキナはニコに任せ、行方は昇月と共に行動し、件の相談をしに向かっていた。龍星群が現れた以上、話には必ず、大星母中枢の人間が集まる為、行方の説明と、行方の希望、どちらも叶えられるからだ。
「さあ、まずは司令室だ。早急に伝達してもらい、人員の手配をしなければならないからな」
そう言うと、人の大きさとは思えない扉が現れた。
キャラクター紹介
主人公:行方行秋/地球人
様々な異能力が使える主人公。「戦術の神 神族 アテネ」を体内に取り込んでいる為、人知を超えた頭の回転速度を誇る。
◇大星母
ニコ・ジェミニ・メイ
「ペコちゃん」という変形生物を相棒にしている女の子。短絡的な性格。
昇月
白髪の青年。生真面目で正義感が強い。
〇氷河の惑星
ゲレンデ国王
ルキナ・ゲレンデ
惑星エネルギー結晶が体内に埋め込まれている王女。
■龍星群
真眼の紅
不死の蒼
「不死」の能力を持った剣士。迅速で目では捉え切れない剣撃を放つ。