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宇宙の行方  作者: 春木
第四章 長編 下羅狗
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40話 だから、貴様は全てを失うのだ(1)

 大星母の会議室は、重々しい雰囲気に包まれていたが、ずっと暗い表情だったニコだけには、少しだけ笑顔が取り戻されていた。


「なるほど……。ルミナスの地で、行秋と潰滅の暁が入れ替わっていたんですね……。大丈夫なんですか……? その……これから、下羅狗に向かいますけど……」

「下羅狗は宇宙最強と名高い種族だ。逆に、そこら辺に脱走されるより、下羅狗に居させた方が安全だろう。それに……」


 一呼吸おいて、白蓮は全員と向き合うと、ニコリといつもの笑みを浮かべた。


「今回は()()()()()()()()()()()()んだ。一網打尽に出来たらいいなと考えていてね」


 その言葉に、全員は呆然としてしまう。そして、戦闘部隊長、五番隊のエンゲルはその静寂の中で遂に声を漏らす。


「しょ……正気ですか……?」

「正気だよ。その為に今回は大星母と下羅狗から戦闘における精鋭を掻き集めた。一番隊長のネオンテトラくんも、他の任務に行ってくれていたけど、急遽招集をかけた。そして、大星母からはいつでも下羅狗の標的を狙えるレーザービームの待機もさせるつもりだ。抜かりはないさ」


 確かに、白蓮が今述べたことは、対ヒトとの争いであれば虫一匹抜け出せない包囲網だろう。しかし、相手は異次元の能力を扱う神族を葬ってきた犯罪シンジケート。全員の表情は未だに暗雲が浮かばれる。


「たしかに、大星母という組織の主な仕事は調査、維持だ。戦争になれば龍星群の方が圧倒的に勝るだろう。だけどね、今回、下羅狗に招くのは本当の意味での "招待" なんだ」

「は、はぁ…………」


 そして、背後のモニターにポスターを映し出す。


「数百年に一度執り行われる下羅狗の祭典、武闘派の下羅狗の種族が互いを高め合う闘技大会。その大会に、龍星群の皆様を正式に招待した」

「犯罪者たちを惑星に正式に招待って…………! 本気で言っているんですか!? いくら下羅狗の王だからといって、やっていいこととダメなことがあるでしょう!!」


 しかし、そんな不安が入り混じる会議室に、ヘッドホンを付け、眠そうな顔の止水が入室する。


「あ、それについては大丈夫だと思います。宇宙を騒がす犯罪シンジケートとはいえ、宇宙海賊とは違って、彼らの標的は神族に限られます。まあ、神族を葬る為に手段を選ばないという点に関してが懸念点なんですけどね。つまり、()()()()()()()()()()()()()ってワケです。龍星群からすれば、誰からの邪魔も入らず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ができる。派手な騒動は両者とも望まないんです」


 白蓮の狙いはここにある。龍星群からしても有益なことだが、惑星の王からの正式な招待であれば、星間鳳凰らの介入はできなくなる。共に打倒龍星群はできないが、派手に惑星を崩壊させる乱暴な策に出るのを封じることになる。


「しかし……龍星群を一挙に相手にするなんて……」


 未だ煮え切らない面々を前に、白蓮はいつもの笑みを消して歩き出す。


「これは決定事項だ。怖気付く者は参加しなくて良い。私の命令に従わない者は……今回は引っ込んでいなさい」


 そう言うと、一人で会議室から出て行ってしまった。初めて見せる白蓮の味方に対する威圧に全員は静まる。


「あんなにも余裕のない大団長を見るのは初めてだな……」


 そんな殺伐とした空気の中、昇月は静かに口を開いた。


「ここに呼ばれている方は、全員が、一度は下羅狗の闘技大会に参加していますよね?」

「あ、あぁ……。だが、我々が敗けたことは過去一度もないことだ。祭典とはいえ……。いや、祭典だからこそ、下羅狗を盛り上げるべき行事なのではないか……? それに龍星群を招くなど…………」


 そして、昇月もまた、グッと歯を噛み締める。


「実はあの惑星……下羅狗では……未だに繰り返しが続いているんです……」

「繰り返しってのは、大団長が蚩尤にやられてた()()()()()()のことだろ……? 大団長が下羅狗の王になってから、世界の滅亡は一度もされてないはずじゃないのか……?」

「はい。惑星の滅亡自体はしていませんが、大団長が蚩尤を体内に宿していることで、繰り返し自体は止められていません。あの惑星、下羅狗は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」


 粗方の説明で、全員はすっかり口を閉ざした。昇月は、依然として机を呆然と見つめる。


「話を続けます。下羅狗の民は歳を取りませんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()んです。つまり、世界や身体、外的な部分は十五年を繰り返すのに、記憶は永遠と増え続ける。これが、下羅狗が宇宙最強の種族と呼ばれる一つの理由です」


 そこで、ミトの部下で書記を任されている男が手を挙げる。


「その話は僕も大団長から訊いたことがあります……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――と……」

「大体の人にとって、不死というものは何よりをも犠牲にして得たいものなのでしょう。しかし、我々下羅狗にとって不死とは呪いと同じようなもの……。そこで大団長が考えたのが、冥界のない下羅狗に()()()()()()を創ることでした」

「擬似的な冥界……?」

「はい。闘技大会で敗れた者は幽楽園(ゆうらくえん)と呼ばれる、大団長と大星母の研究者によって創られた擬似的な冥界に、魂だけ転送され、()()()()()()()()()()()()()()()のことです」

「闘技大会の裏側にそんな理由があったとは……。その幽楽園に送られた魂はどうなるんだ……?」

「大星母管理の下で、別の惑星に転生されています」


 その言葉で、全員が一つの真実を察した。


「つまり、下羅狗で永遠の十五年を生き続けるか、永劫の身体から解放される代わりに、故郷である下羅狗を捨て、二度と戻れないか……。その二択しかないのか……」

「逆に言えば、その幽楽園にさえ龍星群一派の魂を送ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()なんです」


 同じ下羅狗出身である昇月は、恐らく白蓮が考えているであろう策と、下羅狗の秘密を明かした。その内容は驚愕の真実と言わざるを得ないもので、大星母に所属する者もここまでの詳細を知っている者はほとんどいなかった。

 しかし、ここまでの策があり、事情があっても尚、大星母の精鋭たちの顔が晴れることはない。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。


「下羅狗や大団長の事情は理解した……。不死の奴らもまとめて封印できる可能性も判る……。だが、問題の()()()()()()()()()()()()()が判らない。どうして大団長は、あそこまで自信があるように断言できるんだ……?」

「すみません、それは僕にも……。下羅狗の兵士たちはたしかに強者揃いですが……龍星群に敵うとは……」


 言葉が次々に制される中、ずっと机に突っ伏し、昼寝をしていたであろう涎を啜った楽は手を挙げる。


「んなぁー、俺には宇宙人の強さとかよく判んねぇんだけどさァ。()()()()()()()連れて来れれば勝てるかも知れねぇ確率って絶対上がるよな?」


 その言葉に止水もハッとする。


「そうだ……! 行方は不死の蒼に優勢に戦い、ボスである潰滅の暁とさえ、邪魔が入らなければ同等レベルに奮闘していたと話していた……!」


 止水が行方に聞いた話は、既に潰滅の暁が入れ替わった後の行方だが、他に見ていた者との辻褄を合わせる為に事実しか述べていないはず。


「んじゃあ、俺がハーデスの力借りて、行方さん連れてくるよ! それならこの賭けみたいな戦いでも勝ちに向かえんだろ!」

「潰滅の暁を大団長が相手をして、不死の蒼を行秋が相手に……。真眼の紅は精神攻撃を仕掛けてくるから、ネオンテトラさんが相手にするとして……。下羅狗の地であれば、幻影使いの幻魔の黒は僕が相手できる……。人形師の橙を下羅狗の兵士が相手すれば……」


 見えてきた光明、勝利への確たる理想が構築されていく中で、会議室の面々には自然と明るい表情が浮かんでいく。

 しかし、


()()()()()()()()()


 全ての希望を一言で断絶したのは、調査隊長ミトだった。


「下羅狗には冥界が存在しないのだから、ハーデスの力で冥界に行くということ自体が無理なのよ」

「あ、そうか……。冥界がねぇんじゃ移動できねぇな……」


 そうして、会議室は再びどんよりとした空気が流れる。

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