29話 眼光炯炯
行方、暁、トリガーの三人は、暁の案内で少女たちが棲んでいるという洞窟へと向かった。大星母の三人は、相談通り魑魅の灰を探しに行った。
赤髪の少女、荊棘は普段から警戒心を強く周囲を見ているのか、行方たちの姿が見えた途端、笑顔で駆け寄ってきた。
「あー! お兄ちゃんたち! 戻って来たんだ!」
「やあ、昨日振りだね。と言っても、太陽がないから日が変わったような気はしないのだが」
この惑星では銀河系が構成されていない為、太陽がない。だが、惑星の自転は機能している為、大きく光る星を一周して一日と計算していた。
彼女たちをこれ以上探っても意味はないと判断したのか、暁はストレートに訊ねた。
「すまない。僕たちはこの惑星の神様、ヘカテーという人物を探しているんだが、心当たりはないか?」
荊棘はぽかんと、唖然とした表情を向ける。そして、次の瞬間には目を見張ることになる――――。
「というか……。すぐに正体を現すんだ。さもなくば……姉妹共々、殺す……」
「おい、暁……!!」
ニタリと笑う暁は、その手に拳銃を構え、荊棘の頭蓋に突き付けた。
その瞬間、トリガーもまた、暁に向けて銃口を向けた。
「ふふっ、いいのか? 君が発砲したところで僕の銃を止めることは出来ない。そんなもの、脅しにも何にもならないぞ」
「それでいい。犠牲が少なくとも、お前をここで殺せるのなら……!」
(何が……起きているんだ……?)
「ソイツに銃は向けなくていいのか? ソイツも……僕……なんだぞ?」
「お前を葬った後に着実に殺す」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……! 暁も何やっているんだ……!? そして、何故僕がトリガーに殺されることになるんだ……!?」
行方の動揺も他所に、トリガーは決して暁から目を離さずに告げる。
「違和感は……姿を見た瞬間から感じてはいたんだ……」
苦い顔を浮かべ、「こんなことならば、最初から大星母と協力しておくんだった」と小さく呟き、銃に力を込める。
「コイツは……行方行秋の正体は……。龍星群のボス、潰滅の暁……!!」
「龍星群の……ボス……!? 平行世界の僕が……!?」
「奴の通った跡は全て塵も残らぬただの大地と化す……。その為、奴の姿をしっかり見た者はいないんだ……」
「じゃあ、何故、暁が龍星群のボスだと判ったんだ……?」
「首筋に見えるタトゥーを見た時から、疑わしくは思っていたが、お前があまりにも何も知らない顔をしていた為、並行世界の同一人物ならば、大星母が仲間に思っていることもあり信頼に足るだろうと判断した……。だが、銃を取り出した時に見せたあの龍のタトゥー……。アレは……龍星群の一員を示す……。そして、基本的に破壊的な武器で近接戦を好む面々の中で、唯一ボスだけ、銃を持つと言われているんだ……!!」
笑みを溢しながら、暁は両手を上げ、銃口を少女の頭蓋から外した。
「その通りだ。まさか星間鳳凰が来ているとは思わなかったが、行秋を連れていたからな。そう考えてくれると思っていた。なんだかんだ……優しい連中だからな……」
「銃口を離したな……! 一瞬の隙だ……!!」
パァン!!
トリガーは一瞬の隙を見逃さずに放射。しかし、血を流したのはトリガーの肩だった。
「は……?」
そして、次の瞬間、トリガーの持っていた銃は暁の元まで浮かんで飛んでいった。
暁は行方を見遣る。
「それは……異能力……。ここの住人と同じ、ルミナスに飛ばされたわけじゃなかったんだな……」
「そうだ。行秋、君を騙す為だ。だが、並行世界の行方行秋であることに変わりはない」
「どうして僕がこんなこと……! 僕の人生がどう転んだとしても、他人を自ら傷付けることなど……!!」
しかし、行方の荒げる声を制する。
「二宮を救う為でも……か……?」
「は……?」
「僕は、並行世界の行方行秋。君と同じ、二宮を救う為に宇宙に出たんだ」
「誰かを犠牲にして二宮を救えたところで、二宮が喜ぶわけがないだろ!! そんなことを考えられる知能さえ失くしてしまったのか!!」
暁は、ただ黙って行方を見つめていた。
「本来、並行世界ってものはないものと同じなんだ」
「ないものと……同じ……?」
「簡単な話だ。宇宙にさえ出なければ、神族と渡り合うことがなければ、並行世界に悩まされることはないんだ」
「ど、どういうことだ……?」
何が言いたいのか理解できていない行方に、徐に溜息を溢すと、次は銃口を行方へと向けた。
「つまり、君が死んでも、この次元の誰が死んでも、元の世界に戻ればその人たちは皆生きている。二宮には、何も変わらない、いつもの景色が見せられるんだ」
「だとしても……。それこそ共通の目的を持っている……! 僕たちが争う必要はないだろ……!?」
しかし、訝し気な表情を見せる。
「この宇宙には、並行世界にもたった一人しか存在しない、宇宙を管理する者たちがいる。神族よりも上位の存在だ。ソイツらに二宮の封印を解いてもらう為には……どちらかが犠牲になるしかないんだ……」
そして、歯を食い縛る。
「この世界に行方行秋は二人もいらない。君が大星母と交流を持ってくれたから、僕は今後も大星母内部に取り入れられそうだ。助かったぞ。君の努力は無駄にしない。僕の次元の二宮は……君のお陰で救われるんだ……」
パァン!!
鳴り響く銃声、呆然と見ていることしかできない荊棘、悔しい表情で肩を抑えるトリガー。その中で、行方は弾を避けずに片手で掴んだ。
「僕に銃弾は効かない……!!」
しかし、暁はニタリと笑う。
「知ってるよ。僕なんだから」
次の瞬間、行方の身体に力が入らなくなる。
「自分と同じ境遇なら、君はこう考えるはずだ。『避けても追尾の異能で確実に当ててくる』と。ならば避けるよりも掴んでしまった方がいい。そして威圧するんだ。『僕に銃弾は効かない』とね」
行方の視界は、徐々に暗くなる。
「僕は君よりも長く宇宙にいる。アテネもずっと僕の中にいる。君の頭脳よりも僕の方が遥かに上なんだ。判るだろ?」
視界には何も映らなくなり、声だけが小玉する。
「その弾は、触れるだけで全ての感覚を遮断する力がある。不死の異能を持っていることも同じだろうからね。銃弾が当たっても死なないのなら……身動きを取れなくするだけ……」
暁が近付いたのか、最後の声だけ大きく聞こえた。
「君の敗けだよ、行秋。紅の身体にこの次元の二宮の意識があるそうだね。僕の旅が終わったら、代わりに僕が紅を殺して地球に帰そう。君は静かに……死んでくれ……」
行方が意識を消失しかける間際、
『未だこの地に囚われている邪の者よ……』
どこからともなく、その声は響き渡る。
『その身を委ね、汝の道を示せ……』
そして、失い掛けていた意識は、聞き覚えのある祝詞と共に鮮明に蘇る。
「君は……!」
「キリストの加護の下……祓魔院より見届ける……。汝、苦しみからの……」
目の前に現れたのは、真っ黒な大翼を生やした少年、鬼道楽。
「 解放!! 」
ブォッ――――――!!
その瞬間、行方の身体から全ての呪いが解かれ、弾丸による麻痺も、ニコによる氷結の呪いも解かれた。
「よう、行方さん。助太刀に来たぜ……!!」
そう言うと、数百年前と変わらぬギザ歯の笑みで、行方を見遣った。
「おい、並行世界の行方さんよォ〜……。アンタの道理が正しいンなら、アンタは殺されても文句ねぇってことだよなァ〜!!」
鬼道 楽
前作『異能祓魔院』の主人公。『異能探偵局』にて、行方、二宮の裏で神々と交戦していた "起源の闇" トロールの異能力者。神奈川県異能祓魔院所属。実の兄、鬼道御琴、並びに神族ヘルメス、日本の偉人、卑弥呼と一体化し、神格者として神々をも浄化する力を持つ。




