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駄洒落ノートと小さな兆し

 俺の悩みの種は、店の経営問題だけじゃない。一番厄介なのは、やっぱりこいつだ。【駄洒落召喚ダジャレ・サモン】。相変わらず、ピンチや極度の緊張時に、俺の意思とは無関係に発動し、場を凍りつかせる駄洒落と、予測不能なハプニングを引き起こしてくれる。


 最近、特に頭を悩ませているのは、スキルの「効果」が微妙に変化してきたことだ。以前は、服が破けたり(主にシルフィが被害に…すまん)、物が落ちてきたり、液体がかかったりといった、分かりやすいドタバタ系やセクシー(?)系のハプニングが多かった。だが、最近は、ごく稀にだが、本当に「あれ? 今、ちょっと助かったかも?」と思えるような、不思議な現象が起こるようになってきたのだ。


 例えば、先日、衛生調査に来た役人に、しつこく「この着色料の成分を説明しろ!」と詰め寄られた時。俺はしどろもどろになりながら、「え、えーっと、これは、その…赤い果実の天然色素でして…体にがいは無い…です…あっ!」

 しまった、と思った瞬間、駄洒落が口をついて出た。「外は快晴(がい は かいせい)!…って、意味わかんねえ!」

 脳内判定は『評価:脈絡皆無! だが、妙な爽やかさあり! 微妙!』。そして、特に突風が吹いたわけでもないのに、役人が証拠として持っていた毒々しい赤色の『ねりねり魔法菓子』が、ポロッと手から滑り落ち、近くにあった水溜りにチャポン。あっという間に色が抜け、ただの白い粘土の塊みたいになってしまった。

「なっ!? ば、馬鹿な!?」役人は絶句。結局、その日は「証拠不十分」ということで、お咎めなしになった。これは、奇跡か?


 また別の日には、買い占めのせいで砂糖が手に入らず困っていた時、市場で「ああ、砂糖さとうがないと、どうにもならんな…」と呟いてしまったら、「さあ、どう(さとう)ぞ!」という元気な声と共に、たまたま通りかかった、普段は取引のない行商人が、なぜか俺にだけ格安で良質な砂糖を分けてくれたり。これも、単なる偶然とは思えないタイミングだった。


 これらの現象が、本当にスキルの効果なのか、単なる幸運なのかは分からない。駄洒落の内容と結果の関連性も、こじつけと言われればそれまでだ。だが、これらの「小さな奇跡」は、俺に僅かな希望を与えてくれた。もしかしたら、この役立たずと思っていたスキルも、使い方…いや、駄洒落の質によっては、本当に状況を好転させる力があるのかもしれない、と。


 そこで俺は、密かに「駄洒落ノート」なるものを作り始めた。スキルの発動状況(日時、場所、状況、緊張度)、口走った駄洒落、脳内判定もしあれば、そして起きたハプニングや現象を、できるだけ詳細に記録していくのだ。

「『アルミ缶の上にあるみかん』→蜜柑飛来(ドタバタ系)」

「『この菓子は貸しはしない』→銭袋が屋根に飛ぶ(妨害+やや奇跡?)」

「『貴族の方ですか?どうぞごゆっくり』→マント破れる(被害系・極寒)」

「『心臓が銀の鈴のように鳴っている』→スカートふわり+鈴の音(セクシー系・微妙)」

「『麩菓子のようにふやけた根性』→銭袋落下(妨害系・スベり確定)」

「『菓子の化身だ!』→鬘が飛ぶ(被害系?・微妙)」

「『害は無い』『外は快晴』→証拠隠滅?(奇跡系?・微妙)」

「『砂糖が無い』『さあ、どうぞ』→砂糖ゲット(奇跡系!・判定不明)」


 記録を続けていくうちに、何か法則性が見えてくるかもしれない。どんな駄洒落が「面白い」と判定され、どんな駄洒落が「つまらない」と判定されるのか。ハプニングの種類と駄洒落の内容の関連性は? そして、「奇跡」を引き起こす条件とは? ごく稀に起こる「状況好転」系の現象は、特定の駄洒落や状況と関連があるのだろうか?


 まあ、今のところ、ノートを見返しても、法則性なんて全く見えてこないんだけどな! 俺の駄洒落のクオリティが安定しないのが一番の問題かもしれない。


 ある日、俺がこっそりノートをつけているのを、シルフィに見られてしまった。

「蜜夫、あなた、それは何ですの? 何やら奇妙な言葉と記号が並んでいますけれど…暗号か何か?」

「うわっ! ち、違う! これは、その、新しい駄菓子のアイデアメモで…」

「嘘をおっしゃい。『アルミ缶の上にあるみかん』…これが新しい菓子の名前ですって? しかも横に『蜜柑飛来』とは? あなた、やはり何か隠していますわね?」

 鋭い! さすがは侯爵令嬢。俺はタジタジになりながらも、スキルのことは何とか誤魔化しきった…と思う。だが、シルフィが俺の「秘密」に、さらに興味を持ってしまったのは間違いなさそうだ。


 駄洒落ノートは、今のところ何の役にも立っていない。だが、俺はこのノートを書き続けるつもりだ。この忌々しくも、もしかしたら希望にもなりうる奇妙なスキルと向き合うために。そして、いつかこの力の謎を解き明かすために。それは、この異世界で俺が自分らしく生きていくための、ささやかな抵抗なのかもしれない。

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