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第六話 第一回全世界不幸選手権特別賞受賞者メリッサ

 不安ながらもディエゴを誘導して私のアパートまで連れてきた。


 「きたねぇ。」


 「はいはい、何とでも言えば? こんなんでも自分の家だと思うと、愛着が湧くのよ?」


 「ふん。」


女の家は汚らしい、木造のアパートだった。この様子だと中も期待できなかったが、中に入ると案の定、ワンルームの取っ散らかった部屋で、ベッドと机、ラジオと棚位か、物は少ないが、紙や、埃が床に散らばってる。


 「言っておくけど、忙しくて掃除する暇が無かったの、ずぼらな訳じゃないからね?」


 「ふ~ん。流石に掃除くらいしておけよ。」


 「何であんたにそんな事言われなきゃいけないのよ。」


 「住むからな、ここに。」


 「は?」


 「俺は本でも読んでるから早く終わらせろよ。」

 

 「何で!? 住む場所がないならエリザベスの所に行けばいいでしょ!? あんたが100人いたって余裕がある位広い屋敷に住んでいるし、軍にもそういう場所はあるし、何より、この部屋の狭さで二人は無理!」


 「じゃあお前が出てけ。」


 「………………ふん!」


ディエゴを引っ張って、外に出そうとしたけど、地面に杭が打ち込まれてるみたいに微動だにしない。


 「ぐっ! ふん! ぐぎぎ………」


 「無理無理、人間の力で俺を動かすなんて、未来永劫不可能だ。」


 「おかしいでしょ! 物理法則的に!」


 「そんなもんは超越している。」


 「くっ! ………はあ、もういい。軍の寮に入れてもらおうかな。」


 「掃除はしていけよ、お前の家なんだからな。」


 「………というか大金が手に入ったんだから何処かもっといい場所に引っ越したらどうなの?」


 「面倒くさい。」


 「………………ここは私の家よ、出てって!」


 「面倒くさい。」


 「………じゃあね、基地に行ってくるから。ごゆっくり。」


 「………」


もう基地に行って、何処かに泊めてもうらうしか………ミランダさんにああ言われたし、怒られるかもしれないけど元々監視なんて絶対………


ガタッ! ギギ! ゴゴゴッ


 「な、何!?」


振り向くと、棚とか机が勝手に動き始め、埃は集まり、紙は綺麗に重なり置かれていた。


 「あ、貴方がやってるの!?」


 「………」


 「ちょっと! これはディエゴがやってる訳!?」


 「うるせえな、本に集中してんだから話し掛けんな。」


部屋はみるみる綺麗になって、床には光沢が、壁には艶が、埃一つ無くなり、勝手に窓が開いて、気持ちのよい風が部屋を駆け回った。


 「やるじゃん。」


 「ふん。」


 「すっごい綺麗、結構いい部屋だったのね、整頓もされてるし、書類だって綺麗にまとめられてる。ベッドだって皺一つ無くなってるし、ここならよく寝れるかも!」


 「寝るのは俺だ。お前は床。」


 「………布団無いんだけど。」


 「原始時代は洞窟とかで………」


 「私は原始人って訳?」


 「何か違うのか?」


 「やっぱ基地に………」


 「そろそろ夜だけどな、基地に行って寮に入れてもらえるか? 自分の家があるのに? 宿にでも行くか? 何時戻れるか分からないのに高い金を払い続けるのか? 布団を買ってくるのが最適解だと思うんだけどな。」

 

 「………」


こうして家を出て、近くの布団屋に行くことになった。服代が戻ってきて、今月も何とかなると思ったのに、いきなりこんな出費が………でもあんなに部屋が綺麗になったし、命も救われてるから文句も言いずらいし、仕方ないかな。もう暗くなるし、さっさと布団屋に行かないと………


休業中。


 「………………」


 人間の本は幼稚で何の意味があるのか分からない内容が多いが、中々興味深い文言が隠されている場合がある。所詮言葉遊びだが、それに熱を注いだり、心を動かされるというのだから人間というのは損得で読めんのだ。


ガチャ


 「ん? 戻ったのか?」


 「………………」


 「どうした? 天使には見えない布団でも売ってたか?」


 「休業中だって………もう暗くなるし、遠くまでは買いに行けない………」


 「偶には床で寝るのも一興じゃないか?」 


 「………」


床に倒れ込んだ。これでいい。何も考えずにこのまま眠りに落ちよう、今日は人生で一番疲れてるし、直ぐに寝れるはず。


 「シャワー位浴びろよ。」


 「無い。」


 「はあ………」


 「わっ! ちょ、ちょっと!」


急にディエゴが私を持ち上げて、ベッドに放り投げてきた、急な事で何が起こったのか分からず、少し硬直してしまった。そんな私を見ながらディエゴは無表情で布団を掛けてくれた。


 「明かりは消していいのか?」

 

 「いいの?」


 「何が?」


 「ベッドで寝ていいの?」


 「ああ、床で寝られた方が邪魔な気がしてな、起きた時にお前を踏むだろうし。」


 「貴方はどうするの?」


 「ベッドで寝るが?」


 「え?」


 「詰めれば何とかなるだろう。」


 「いやいや、狭くない? それに………その………異性でそういうのは………」


 「天使だぜ? 異性とかそんな矮小な括りで見るんじゃあない。」

 

 「わ、私の問題よ!」


 「じゃあ構わんな。」


 「わっ!」


ディエゴが布団に潜り込んで来た。羽に押しつぶされるかと思うくらい強引に入ってきたし、羽が邪魔でこんな状況で寝れる気がしない。鼻もムズムズするし。


 「邪魔だなぁ~」


 「だから言ったでしょ。」


 「もう喋るなよ、寝るからな。」


 「天使に睡眠ってあるの?」


 「できなくはない。」


 「………じゃあ寝なくてもいいって事?」


 「ああ。」


 「………」


布団を被って現実逃避をしようとしたけど布団の中にはあいつの羽が目の前にあって、何処にも逃げ場はない。もう考えるのは止めよう、寝る事に集中するの。ディエゴがいて良かったと唯一思うのは、暖かい事かな、冬はいっつも震えて寝ていたし。


 「………………………………………………………………」


 「………………………………………………………………」


 「………………………ん?」


 「何? もう少しで寝れそうだったんだけど。」


 「震えてんのか?」


 「少しね。」


 「寒いからか?」


 「貴方は大丈夫なのね、貴方がいるから幾分はマシだけど。」


 「毛布ぐらい買えばいいだろ?」


 「お金無いし、自分で我慢できる事だからね。」


 「そんなに給料が低いのか?」


 「低いし、親への仕送りで半分は無くなるし……」


 「半分? いくら何でも送り過ぎじゃないか?」


 「お母さんが寝たきりなの、お父さんも介護と仕事で忙しいし、私も頑張らないと………」


 「………………体を起こせ。」


 「え? 何でよ?」


 「いいから。」


ディエゴに言われるがままに上半身を起こした。戸惑っているとディエゴは羽を私の下に潜らせてきた。


 「戻れ。」


 「羽が………」


 「いいから。」


羽の上に寝ると、ディエゴは羽で私を優しく包み込んでくれ、そのまま布団を掛けてくれた。


 「汚れちゃうんじゃ………」


 「黒だし、大して汚れん。」


 「そう………………ありがと。」


 「ふん。」


 「意外と優しいのね。」


 「………」


ディエゴの羽の中は、優しいというか、慈愛に溢れているというか、不思議な、心も温まるような暖かさだった。そんな羽の中で起きていられる時間は多くなく、直ぐに夢の世界へと落ちて行った………


 「………………おい。」


 「………ん?」


 「おい、起きろ。」


 「………………朝?」


 「ああ。」


 「………………お早う。」


 「お前が起きないと俺が動けん。」


 「別に無理矢理起きればいいじゃない。」


 「いいから、早く起きろ。」


 「というか貴方が居たら私もベッドから降りれないし………えっ!」


羽が私を持ち上げ、床に放り投げられてしまった。


 「何すんのよ!」


 「これでよし。」


 「………仕事行ってくるから。じゃあね、荒らさないでよ。」


 「送ろうか?」


 「え? いいの!? ………………いや、やっぱいい。」


 「何で?」


 「朝からそんな事したく……」


 「外食に行く暇も確保できるぞ?」


 「………節約しないと。」


 「俺が出すと言ったら?」


 「………いいの? でも怪しいな~」


 「朝から外食なんて気分が上がらないか? 心にも余裕ができて人間関係も上手くいくと思うんだがな。」


 「………それじゃあ、頼もうかな。」


こうしてディエゴに担がれ、空に飛び立ったが………


 「うわぁぁぁぁぁ!!! 嘘つきぃいいいいい!」


 「嘘? 飛ばさないとは言ってないが?」


 「取り合えずゆっくり飛んで!」


 「そろそろ慣れてくれないとな。」


 「一生! 慣れる事は無いから!」


 「それで? 何処に行けばいいんだ?」


 「う~ん、この時間でもやってるのはサンドイッチ屋さんくらいかな~」


 「サンドイッチ?」


 「あの緑色の屋根の店よ、ゆっくり降りてね。」


 「はいはい。」


こうして店の少し離れた所に降り、歩いてサンドイッチ屋さんの前までやってきた。


 「普段は普通のレストランなんだけど朝はサンドイッチのテイクアウトをしているの。」


 「ほう。」


 「おや、メリッサちゃんじゃないか、相変わらずきれ………そこの人は………人形? 羽?」


 「あ~祭りの仮装で………」


 「そうなの………凄い、美しい顔をしてるね。」


 「まあ、それはそうなんですけど。」


 「早く頼めよ、俺は取り合えずそれとそれにする。」


 「分かってるわよ。」


 「もしかして彼氏?」


 「そんなんじゃないですよ!」


やっぱりディエゴと居ると目立ち過ぎる、羽の説明も仮装って言い張るのは限界があるし、顔が良すぎるせいで噂は直ぐに広まりそう、私も近くにいるし、私にも変な噂が広まるかもしれない。これからどうしようかな~


 「ほら、これで買え。」


 「あ、うん。」


サンドイッチを買って、暫く歩きながら食べていた。


 「美味しい?」


 「ああ、美味いな。」


 「昨日はそんな事言ってなかったのに。」


 「口に合わなかったんだよ。」


 「ねぇ、羽ってやっぱ隠せない?」


 「無理。」


 「そう………あんまり目立つ事しないでね?」


 「この顔で目立たないのは無理だというのはお前も分かるはずだ。」


 「まあそうね………………そうだ! お姫様みたいに持って飛んでくれない? 景色を楽しみながら食べてみたいわ。」


 「まあいいが。」


ディエゴに持ってもらい飛んだ後、上空から町の景色を楽しみながらサンドイッチを頬張った。


 「いい景色ねぇ~」


 「何がいいのか分からんな。」


 「そりゃ~天使なら上空の景色の方が見慣れているでしょ?」


 「まあな、お前もこれから仕事だってのに上機嫌だな、普通は気分が落ち込むもんだと思うが………」


 「仕事は好きなの、ただ人間関係とかがね……」


 「お前の周りは敵だらけだものな。」


 「どういう事? エリザベスの事?」


 「お前を食事に誘った奴がいたろ? そいつは表向き平静を保っていたが、頭の中はお前とヤる事で一杯だった、あの話をしている時も下半身は………」


 「や、め、て! 聞きたくない!」


 「近くにいた女も………」


 「もういい! 止めて。」


 「まあ、そんなもんだぜ? 他の人間も。」


 「はあ、何で出勤前にそんな事聞かされなきゃいけないのよ、一気に行きたくなくなちゃったじゃない。」


 「なあ。」


 「何!」


 「一口くれ。」


 「はあ? 自分の分は?」


 「足りなくてな。」


 「天使でもお腹が空くの?」


 「いや? ただもう少し食いたくてな。」


 「………嫌。」


ガプッ


 「あ!! 食べやがったな!?」


 「少し位いいだろ。」


 「うぅぅ、朝からこの世の終わりみたいな気分……」


 「そう思ってる奴、結構多いぜ?」


基地が近くなっていく度に気分が沈んできた、こいつは優しくしたりする時もあるけど、意地悪したり、私の気持ちを踏みにじるような事をして何がしたいの!? 生粋のサディストな訳!? いきなり空から天使が降ってきて、そいつがサディストで苦しめられるなんてどんな確率!? 全世界不幸選手権があったら特別賞が貰えそう!

 


 

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