第一話 堕天使降臨!
「ディエゴ、自分が何をしたのか分かっているのか?」
「あまりにイケメン過ぎて周りに嫉妬させてしまった事ですかぁ?」
「ディエゴ! 今謝れば追放は免れるのですよ! 今すぐ真摯に心を込めて謝るのです!」
「くたばれクズ共、全員カマ掘られなくなかったら俺の目の前から消え失せろ。」
しっかりと中指を眼前に突き立ててやった。
「……ディエゴ、そこまで私を失望させるか。もういい、まさかこんな事になるとはな。できれば笑顔で、手を振って別れたかったんだが………」
「お前が下のソレを振らなかったら俺もこんな目に合わずに済んだのになぁ~!」
「追放だ、貴様を地上に追放する。他に追放されている奴を見た事ないだろ? 当然だ、天国始まって以来、追放なんて行われなかったからな、今日まで。」
「やってみろよ、例え地上に堕ちても必ず舞い戻ってやるぜ。」
そう言い放った途端、真下に穴が開き、そのまま落下していく。羽が風を切り、雪のように白く、あまりに美しい羽根がどんどん黒く塗りつぶされていくのが見える。空気抵抗を受けながらもなんとか地上の方に目を向けると町や木、山や動物などの醜く汚らしい物体がすぐそこに迫ってくる。あまりの醜さに目を閉じていたら全身に衝撃走った。どうやら地上に激突したらしい、痛みわないが土や泥が体中に付いている最悪だ。
「うわ~!!!」
なんか知らんが女の声が聞こえる。
「な、なに人間!?」
「誰だ貴様は?」
「え、え、こ、こっちのセリフなんですけど!」
体を起こし土を払う。女が手を貸そうとしたが振り払ってやった。下等生物に助けられるほど堕ちたつもりはない。女はブロンド色の髪に、空を閉じ込めたかのような瞳の色をしていた。癪だが美しい顔立ちをしている。18歳ってところだろうか。
「人間か下等生物が、」
「いきなり何言ってるの!? それにその羽は!? とういうかここは危険よ! 最近この辺りまで魔物が出るようになって、住民の避難誘導をしているの、もうすぐ軍が来るわ、あなたも急いで避難して! 私が誘導するわ!」
「俺に指図するんじゃあない! 俺を誰だと思ってる?」
「えぇ……も、もしかして怪我しているの? さっきの落下で? というか普通死んでない?」
突然、何かに雄たけびのようなものが辺り一帯に響き渡った。
「う、嘘、今のはまさかドラゴン……すぐ逃げるわよついてきて!」
「ドラゴン?」
すると後ろから熱い吐息のようなものを感じる。羽が羽ばたく音と共に。女は目を見開いているが、恐らく恐怖しているのだろう。天国には恐怖なんてものは無かったが、今女が感じているものこそが恐怖だと確信できる程に震え汗をかき、泣いている。
「私がなんとか時間を稼ぐ! 今のうちに逃げて!」
そしてこれが勇気か、人間には詳しくないが意外と面白い生物なのかもしれない。そんな事を思っていると首筋になにかねばねばした生暖かい液体のような物が落ちてきた。振り返るとぎらついた目に赤い羽根、血塗られた牙に鋭い爪、まあドラゴンだろう。天国から何回か見た事があるが意外と大きいようだ。それより……
「てめぇ、この俺に唾つけやがったな、死をもって償わせてやるぜ」
「だめよ! 逃げて!」
「ケラウノス!!」
瞬く間に光が周辺を覆い、雷の槍がドラゴンを貫き蒸発させた。少々返り血が付いてしまい後になって後悔が押し寄せてくる。
「まいったな……」
「ドラゴンを一撃で……あ、貴方は何者なの!?」
「俺か? 俺は天使だ。いや今は堕天使か、まあどちらも大した違いはないさ。」
「天使? そんなことって……」
「なあ、この服が汚れてしまったんだがこの俺の美しさにも匹敵する程の服とか持ってないか?」
「服なんてある訳ないじゃない、本当に天使なの? その羽は本物ってこと?」
「勿論だ、触るなよ。それと服がどこにあるか教えてくれよ、困ってんだ。」
「服屋なら港町にあると思うけど……なんでこんな所に天使が?」
「色々あったのさ、あと敬語を使えよ俺は天使だぜ、人間みたいな下等生物と話してやってる事自体感謝して欲しいんだがな。あと服屋まで案内してもらおうか。」
「ふ、ふざけないでよいきなり失礼過ぎない? それが人に頼む態度!?」
「いいからどこに港町があるんだ。」
「西よ! 馬は私のしか無いから丸一日はかかるけどどうするの!? 大人しく私についてきて避難を……」
「飛んで行ってもか?」
「え?」
そのまま女を抱えて空に飛び立った。正直飛べなくなっているんじゃないかと不安だったが杞憂に終わったようだ。前ほど素早く、高く飛べる訳じゃないが地上では十分だろう。
「うわぁぁぁ!! 死んじゃうぅうぅぅう!! 助けて~!!」
「おい暴れるな! 服屋どっちなんだ! 早く答えろ!」
「噓でしょ……今飛んでるの私!? いやこれは夢ね、きっとそうだわ、こんな事ありえないもの。」
女の背中をつねった。
「痛! なにするの!」
「夢じゃないだろう? いいから教えろ。」
「いや、夢よ、それが現実。」
「いいか? 現実を教えてやろう、一回しか言わないぞ、俺は堕天使で地上に堕ちてきた、それで服が汚れ服を探している。以上。」
「そんな事……」
「今まさに飛んでいるのに疑うのか?」
「天使だなんて、貴方はなんなの?」
「堕天使のディエゴだ。」
「天使、本当にいるなんて……」
「お前みたいな矮小で下等な生物と話してやってるだけでも感謝しろよ。」
「人間を下等ですって!?」
「ああ。」
「酷いわそんなの……天使はみんなそうなの?」
「俺だけだな、他の奴等はうんざりする程真面目さ。」
「あなたが堕ちた理由と他の天使の苦労が手に取るようにわかるわ。」
「嫌味を言うほど余裕が出てきたじゃないか。」
「うるさいわね、もう自暴自棄でやけくそなのよ!」
「はいはい、それより服屋はどっちなんだ? 次、答えないなら落とすからな。」
「西よ! こっちに飛べば見えてくるはずよ。」
羽を広げ、一気に加速していく。今までに比べたら遅すぎてため息をつきたくなるほど落ち込んできたが女は叫び、暴れ、歯茎が見えて美しい顔が台無しになっている。なぜこんなにも人間は様子がすぐおかしくなるのだろうか授業をちゃんと聞いておけばよかったな。らしくもないノスタルジーに浸っていると女がなにか必死に訴えているのが聞こえてきたが、風の音でよく聞こえない。
「は~や~す~ぎ~る~!」
「遅いだろ何言ってんだ。」
「あなたにはね! いいからゆっくりにして。」
仕方がないので速度を落とした。
「つくづく面倒な女だな。」
「女じゃないわ、メリッサよ! それにもっと優しくしてよ、それが天国流のレディに対する接し方な訳?」
「美しきディエゴ流さ。」
「自分で言うのそれ?」
「事実だろ?」
「まあ……」
「ん……あれか?」
海に太陽が反射し、少し見づらかったが海に隣接するように町があるのが見える。ぱっと見だが賑わっているのが分かる。
「そうよ、優しく降りてね。」
自分で言うのもなんだがそう言われると意地悪したくなるのが性なようで、さながら海面付近の獲物に突っ込んでいくような鳥のように羽をたたみ、直角降下をしてみせた。まるで隕石のように町の中に向かって落ちていく。
「くそがぁ~! 嘘つきぃ~!」
激突する寸前、羽を羽ばたかせゆっくりと着地した。嘘じゃない、ゆっくりと着地した訳だからな。
「くそがぁ~~!」
「おい、殴るなよ、まあ効かないが、汚れるだろう?」
「はあ、はあ、お前の事は一生信用しないからな!」
「言ってろよ、それで服屋はどっちだ?」
「あっちだよ、はあ、もうあんなのは御免だから。」
流石に目立ったのか人間がこっちを見てなんとも言えない顔をしていた。俺みたいな美しい天使を見たら無理もないが、あまり汚れている姿を見られたくないのでさっさと服屋に向かう事にしよう。町は人で賑わい、馬や鳥もどこか活気がみなぎっているようだ。天国では味わえない騒々しさと熱気にあてられ自分自身もどこか少し浮かれているような気がする。ほんの少しだが。