ひいおばあちゃんの宝物
誰にでもある大切な宝物
「ナビちゃんおはよう! 遊びに来たよ!」
「チヨちゃんいらっしゃい。今日もおはじきで遊びましょうか」
ナビちゃんとは私のひいおばあちゃんのことで
私の名前は浅子だけれど
どうやら私はひいおばあちゃんのお友達に似ているらしく
会った瞬間から私は「チヨちゃん」と呼ばれている
ひいおばあちゃんの所へ遊びに行くと
ひいおばあちゃんは少女時代に時間が巻き戻る
瞳を輝かせて遊ぶ姿は幼い少女のように見えた
今日はおはじきで遊んでいたのだけれど
突然悲しい顔をして、私の瞳を真っすぐに見つめてこう言った
「チヨちゃん、あたしね、結婚するの。でもね、とっても好きな人があたしにはいるの」
私から瞳を逸らし、手に持っていたおはじきをそっと床に置いた
「好きな人と、どうして結婚しないの?」
「もう決まってしまったことなんだって」
「ナビちゃんはそれでもいいの? 好きな人に結婚すること伝えたの?」
「あたしの好きな人も、別な女性と結婚するんですって・・・・・・」
床に置いたおはじきを見つめる瞳からは
ぽたぽたと涙がこぼれていた
私は「それでもいいの?」と聞いてしまったことを後悔した
いくら昔のこととは言え、なんて無神経な言葉だったのかと・・・・・・
しくしくと泣くひいおばあちゃんを抱きしめて
そして私も一緒に、静かに泣いた
少し落ち着くとひいおばあちゃんは、ぱぁっと明るい顔をして
「でもね、手紙を書いてくれるって。そう約束してくれたの」
ひいおばあちゃんはスクッと立ち上がって、タンスの奥の方からきれいな箱を持ってきた
「あたしの大切な宝物。特別にチヨちゃんにだけ見せてあげる」
きれいな箱のふたを大事そうに優しく開くひいおばあちゃん
中には古い手紙がいっぱい入っていた
達筆すぎて私にはちゃんと読めないけれど
ひいおばあちゃんのことを大切に想っていることは伝わってきた
はじめの頃の手紙には「愛しています」の言葉が書いてあったけれど
数通目からは「大好きです」に変わり
最後の手紙には「愛しておりました」と書かれていた
ひいおばあちゃんはその手紙を抱きしめて
「あたしの大切な、大好きな、初めて愛した人からの手紙なの」
ひいおばあちゃんは瞳を閉じて涙を流した後、にこりと優しく微笑んだ
ひいおばあちゃんは結婚後
家庭を大切にしていた
最愛の人からの手紙は
心の支えだったのかもしれない