騎士たちと恋する乙女
「本当にここですか?」
「大丈夫だから、ほら座って」
恐る恐るな様子の騎士を椅子に座らせた。
「こいつ、肩をやってしまってね。痛みが腕にまできててなかなか治らないんだ」
デリクの説明を聞いた私は、
「ちょっと失礼します」と騎士の肩に手を置いた。
現代なら使い過ぎによるテニス肘、40肩とか若くてもスポーツや肩のけがからなる場合もあるって前世で聞いたことがある。
つまりは筋肉とかその周りが炎症を起こしてるってことよね。
私は置いた手に意識を集中した。
肩の炎症が治るように、もとの正常な状態に戻り、ぶんぶんと腕を振り回しているイメージ、目をつぶって集中していく。手袋越しに手が熱くなるのがわかる。そのまま腕にも手を移動させる。
徐々に手の熱さが引いていく。
目を開けて、目の前に座る騎士を見た。
視線に気づいた騎士は、ちょっと目を見開き、自分の肩に手をやった。
「あれ?」
「どうだ?」
とデリクが心配げに聞いている。
「うん、何か」
と腕を動かす。不自由なく動かし、顔も次第に笑顔に変わる。
「いい感じです」
「おおおっ! さすが、エ……えーっと癒し魔法はすごいですね」
エマと言いかけたのかしら、ついこちらも吹き出しそうになった。
デリクとデリクの連れてきた騎士、どうやら後輩らしい、のおかげで、怪しいテントにやってくる人がぼちぼちと現れた。ほとんどが騎士だった気もするが。
小さな怪我、傷、打ち身、が大半だったので、なんとか魔法はその威力を発揮できた。
「すみません、いいですか?」
もう今日は終わりかな、夕方近くなって店じまいしようと思っていた時に外から小さな声がかかった。
しかも、女性の声。
うわ、まじか。騎士さんたちが来てくれたのは本当にありがたかったけど、なんせ屈強な男連中ばかりで、女子が来ることはないんだろうなあ、とあきらめていたのだ。
「はい、どうぞ」
深呼吸した私は心を落ち着かせて返事をした。
入ってきたのは、かわいらしい感じの女子学生。
同学年ではなさそうだ。後輩、1年生かな。
遠慮がちに椅子に座る。
「私、胸が痛いんです」
「え? 胸? 大丈夫?」
胸と言うと、心臓?! こんなとこじゃなくて病院に行かないと。
「あの、大丈夫です。病気じゃなくて、その」
うつむいた女子学生は、
「好きな人がいるんです」
と言った。
「なるほど、その人にはもう決まった相手がいるんですか」
「はい、だから私、無理なのはわかっているし、あきらめようと思っているんです。でも苦しくて」
かわいらしい顔をした学生は、二つ結びにした髪を揺らしてうつむいた。
「うーん、それでここに?」
「はい、本当は忘れることができる魔法があればいいんですけど、せめて苦しさをなくせないかと思って」
これは困った。
いくら傷や打ち身を治すと言っても心の傷は。
「もう少し聞いてもいいですか?」
小さくうなづいて返した学生、名前を聞くと、エスタ・リース、1年生。
片思いしてる相手は3年生の。
「え?! ランドルフ・クローレー!? そ、それって、王太子」
恥ずかしそうにうなづくエスタ。
いやいやいやいや、それはさすがに。
「王太子様には婚約者様がいらっしゃるのはわかっています。カロリーヌ様は家柄もよくて、何もかもパーフェクトなかたです」
うんうん、そうよね。
「だから端から無理なのはわかってたんです。だけど」
「だけど?」
エスタはばっと顔を上げると、
「ランドルフ様はカロリーナ様を差し置いてエマと言う方に夢中になってたんです」
「ああ、そう、そうね」
そりゃ私だわ。以前のだけど。
焦りつつも頷いて返すと、
「エマ様は家柄も男爵家ですし、結婚なんて考えられないと誰しも思ったと思うんですけど、ランドルフ様は本当に夢中で、他の男性陣も夢中になってましたの」
「はあ、そう」
やばい、汗が出てくるよ。
反してエスタは目をキラキラとさせると、
「だから、私みたいなものでもチャンスがあると思ったんです!」
「え? えーっ!?」
何だか話がどんどんおかしな方向に進んできた。
はじめは苦しい胸の痛みを何とかしてほしい、忘れなきゃいけない乙女の悩みだったはすが。
結局、好きなんだろうなあ。そう簡単に忘れるなんて難しいよね。
だけど、相手が悪すぎるって。




