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家出をしたお姫様

作者: 月這山中


 最初に気付いたのは御付きのメイドでした。


「お姫様がお部屋におられません!」


 テーブルには、お姫様の書いた手紙が置かれています。


『愛されることに飽きてしまいました。探さないでください』


 家出をしたお姫様を探して、みんなおおさわぎです。


 一方そのころ、お姫様は森の中に居ました。

 森の中には姿を変える妖精がいるのです。


「妖精さん、わたしの姿を変えてくださいな」


 彼女の呼びかけに答えて、妖精はおそろしい魔物の姿で現れました。


「どうして姿を変えたいんだい。美しいお姫様」

「愛されることに飽きてしまったの」

「そんなお前は、いっとう醜い姿にしてしまうぞ。愛する者のキスで元に戻るが、誰にも愛されない姿に変えてしまうぞ」

「どうぞ変えてくださいな」


 魔法によってお姫様は、贅肉がついた、さえない顔の、はだかの中年男性の姿に変わりました。


 お姫様は「これでよし」と言いました。


 お姫様は城下町へ戻り、はだかのまま街を彷徨いました。


「ああ、誰もがわたしを邪魔者あつかい。いい気分だわ」


 お姫様だった全裸中年男性は、石を投げられ追い払われ、にこにこと笑って公園で寝っ転がりました。

 ひなたぼっこをしながらにこにこと笑っているお姫様だった全裸中年男性に、話しかける者がいます。

 吟遊詩人でした。


「君、血が出ているよ」


 石をぶつけられた額から血が流れています。

 吟遊詩人は布を当ててくれました。


「どうしてそんなに幸せそうなんだい」

「こうして生きることが夢だったの」

「石をぶつけられながら生きるのが?」

「ええ。わたし、誰にも愛されたくないの」


 吟遊詩人は寂しそうに笑って、お姫様だった全裸中年男性のために歌を歌ってくれました。


「また明日ここで」

「ええ、また明日」


 お姫様だった全裸中年男性はお礼を言いませんでした。

 お礼を言わなければ彼も呆れて諦めるだろうと、思っていたのかもしれません。


 次の日、吟遊詩人は服を持ってきましたが、お姫様だった全裸中年男性は着ませんしお礼も言いません。


 次の次の日、吟遊詩人は食べ物を持ってきましたが、お姫様だった全裸中年男性はお礼を言いません。


 次の次の次の日、吟遊詩人は家へ来るように言いました。


「もうすぐ嵐が来る。外で寝るのは危ない」

「どうして良くしてくださるの? こんな醜い全裸中年男性に」

「君が生きているからだ」


 吟遊詩人は、ただ、それだけ言いました。

 お姫様だった全裸中年男性は、街はずれの吟遊詩人の家に入りました。

 窓の隙間から入ってくる風に、お姫様だった全裸中年男性は言いました。


「不思議ね。誰にも愛されなくって楽しかったのに、今は人恋しいわ」


 嵐が過ぎ去った翌朝、全裸中年男性は元のお姫様に戻っていました。


「な、なぜ女がいるんだ」


 吟遊詩人は女性が苦手でした。


「早く出て行ってくれ、出て行ってくれ!」


 お姫様は面白くなって、はだかのままお城まで走っていきました。


「お姫様がはだかで歩いてるぞ!」

「家出したお姫様だ!」


 びっくりした街の人々はお姫様に布をかけて、お城まで連れて行きました。


「結婚したい人がいるの」


 お父様に会うなりお姫様は言いました。


「街はずれに吟遊詩人が住んでいるの。その方と結婚させてくださいな」


 お城へ連れてこられた吟遊詩人に、お姫様はいままでのお礼を言いました。

 そしてあれよあれよと言う間に結婚式の日取りが決まります。

 有無を言わさず結婚させられて吟遊詩人は、ちょっと、いいえ、かなり嫌そうでした。


 全裸中年男性だったお姫様は幸せに暮らしましたとさ。



 おしまい



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