第一章 01
普段仕事がある日は、家に帰ったらシャワーを浴びるのが習慣だったが、今回ネズミは直ぐボロボロなベッドに座り、隠していた絵日記を取り出した。
新品同様な絵日記。しかし、中身はちゃんと使用されている。まるで使用された状態で印刷されたかのように。
「フジイ、カナミ...あの少女の名前か」
表紙に書かれている名前を指でなぞっても、凹凸は一切感じられなかった。
最初のページをめくると、そこには5年も前の日付が書かれていた。
きょうは、どうぶつえんにあそびにいった!
ゾウはすごいおおきかった!くびがすごいながくて、あしもはっぽんあった!
おとうさんはゾウのはながながいっていったけど、ぜんぜんそんなことなかった!
きょうはたのしかった!こんどは、あめがふってないといいね!
漢字の一つもなかった。内容もぶっ飛んでいて、少し特殊な子供が書きそうな内容だった。
しかし、ネズミはその文章に、妙にも真実感を感じていた。
なぜなら、彼は文章の横に描かれた絵を見たからだ。
子供の落書きなんかじゃない。まるで写真のようにリアルなものだった。
日記に書かれた通り、いや、それ以上に醜悪な生き物だった。
子供が想像で描いたものとは到底思えない、まるで本当にその「ゾウ」を見て、その姿を再現したかのように。
「なっ...!」
絵のはずだった「ゾウ」の目が、突然動いてネズミを睨みつけた。
その瞬間、強烈な寒気がネズミを襲った。
まるで、開いてはならないパンドラの箱を開けてしまったかのような気がした。
ネズミは絵日記の最初のページを開いたまま、身動きが取れなくなった。