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パラドックス・オブ・パンドラ  作者: ウラヌス
1/2

「あとはこの部屋だけだ。ぱぱっと済ませるぞ」


ガスマスクをつけた二人の男が片手に黒いゴミ袋を持ち、もう片手にいろんな洗剤が入ってるバケツを持っている。

年が取ってる方の男ーーカラスは、赤い格子柄のシャツとジーンズを着て、黒いキャップで彼の暗い目つきを隠している。

もう一人の男ーーネズミはまだ若く、灰色のパーカーと黒いズボンを着て、髪を汚さないようにフードを被った。

二人の服には赤い汚れがついており、それは先程、「粗大ごみ」を処理した時についた汚れ。


「今回量が多いな。ていうかあの教団はなんだ?信徒が家族三人巻き込んで自殺するなんて」


ネズミがそう言いつつ次の部屋のドアを開いた。

あれは書類や本が散乱に散っている書斎。散らされてる紙の中で、一人の少女の死体が倒れている。


「かわいそうに…」


ネズミが死体の前にしゃがんで、胸の前に十字を描いた。そして、処理に手をかけた。


「同情するな、キリがないぞ。もう二年もクリーナーやってるんだ、それぐらい分かるだろう」


カラスはゴムの手袋を着けなおし、食品用のラップを使って死体を包み始めた。


「かわいそうに感じるのは分かるが、感情を持ってできる仕事じゃない。感情を過度に抱え込んで、心を壊したやつ俺は何人も見てきた」


「分かってるよ、何回も聞かされてるんだから。あっ、昔話はやめてよ、先生の話めっちゃ長いから」


「…ならば手を動かせ、今日の献立は大好物の唐揚げだ。絶対残業しないからな」


「はいはい」


二人が雑談しつつ処理したら、少女の死体はラップに包まれゴミ袋に入れられた。


「これで残りは現場の処理だな…ん?これはなんだ?」


少女の死体を処理したら、ネズミはあるものに気づいた。

死体の下に隠された、一冊の絵日記。

その絵日記は血だまりの中に置かれていたのにもかかわらず、まるで新品かのようなきれいな状態を保たれてる。

なんの変哲もない、ただの絵日記だが、彼は魅入られたかのように、それを手に取り、開こうとする。


「おい、何ボーっとしてんだ」


カラスに肩を叩かれ、ネズミは正気を取り戻した。


「え?あっ、はい。すぐ片付ける」


急いで絵日記を懐に隠し、部屋中にガソリンをかけ始めた。

手に持つポリタンクが空になると、家はガソリンの匂いに充満された。

少しだけの火種さえあれば、家をすぐ燃え盛るだろう。

そんな家を出ると、カラスはすぐ外でタバコを吸っていた。少しでも風が吹いてたら、ガソリンは着火される。そしたら、家にはもう一人の死体が増えるだろう。


「終わったか」


なのに彼は罪悪感のかけらも言葉に乗せず、どんな感情もなく淡々とそう言っただけ。


「...相変わらず危ないことするんだね。燃えたらどうする」


「この一服がどうしてもやめられないんだ。それにこれから燃やす家だ。少し早めに燃やしても問題はないだろう」


「...問題大有りだよ」


ネズミがそう呟く。


「では、燃やそうか」


最終確認を済ましたら、カラスは最後の一口を吸った。そして、タバコの吸い殻を玄関に弾き飛ば。

燃え盛る家。それが、仕事が終わった合図。

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