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2 ファミリーキルとしての人生

「た、助けてくれ!」


 動きを封じられた男が唯一自由になる声を発して僕を見つめる。


「心配しないで。殺したりしないから」


 僕はその男のヴァンパイアに向かって微笑みかける。


 僕の瞳は普段の青色から金色へと変わっていた。

 これはファミリーキルが力を使う時の特徴。


 ファミリーキルの食料はヴァンパイアの血だ。


 普通、ヴァンパイアは人間よりも力が強かったり不可思議な術を使うがファミリーキルの力はそんなヴァンパイアの力や動きを封じることができる。


 僕は男の首筋に噛みついた。

 傷口から流れる血を飲む。


 甘い……。


 美味しいお酒を飲んでいるようなそんな感覚になる。

 そして僕が持っていた飢餓感が消えていく。


 兄から自分がファミリーキルだと教えられてから早数十年。

 僕は大人になっていた。


 この世で数十年の時を生きているが僕の外見は20代前半で止まっている。

 ヴァンパイアは好きな年齢の姿でいられる。

 それに寿命も長い。


 僕も半分とはいえヴァンパイアの血を引いてるから寿命も人間より長いし外見も若いまま止めていられる。


 僕はそのヴァンパイアの血を飲んでいたがお腹がいっぱいになる前に飲むのを止めて傷口を塞ぐ。

 その男のヴァンパイアは気を失っていたが死んだわけじゃない。


 どのくらいの血を飲めば相手が死んでしまうかは経験で分かってる。


 僕はファミリーキルと呼ばれる『同族殺し』だけどなるべく獲物のヴァンパイアを殺さないようにしていた。


 元々ヴァンパイアは死ぬ条件は限られている。

 全身の血液を失くすか太陽光を浴びるか心臓を純銀の弾で撃ち抜かれない限り死なない。


 ただファミリーキルはヴァンパイアの一種だが太陽光を浴びても問題はない。

 たぶん半分は人間の血が混ざっているからだろう。


 僕は血を飲んだヴァンパイアの男を倉庫の中に横たえる。

 ここに居れば太陽光で死ぬこともない。


「食事は終わったか?サイファ」


 そこに現れたのは僕の兄さんのファデスだ。

 ファデスはヴァンパイアの純血種だから太陽光を浴びられない。


 だから僕は昼間行動出来てもファデスに合わせて夜中心の生活をしている。


「うん。今回はこれで充分だよ」

「よく男の血なんて飲めるな」


 ファデスは人間の女の血しか飲まない。

 男の血はまずいそうだ。


 僕は人間じゃなくヴァンパイアの血を飲むが男でも女でも同じ味に感じる。

 甘いお酒のような味。


「僕はファデスのように好き嫌いないから」


 僕が笑みを浮かべるとファデスは顔を顰める。


「俺は女の方が断然いいがな」


 ファデスはそう言って歩き出す。

 僕もその後を追いかけて近くに止めてあった車に乗り込む。


「そろそろこの国も頃合いだな。次の国に行くか」


 僕とファデスに定住地はない。

 世界中を転々としながらの生活だ。


「次はどこの国に行くの?」

「次は日本だ」


「日本?」

「サイファはまだ行ったことないんだったな」

「うん」


「まあ、比較的平和な国だ。もちろんヴァンパイアハンターの組織はあるがな」

「そうなんだ。楽しみにしているよ」


 僕は定住地が無くても兄のファデスと一緒ならどこにいてもかまわない。

 ファデスは僕と父親が違うとはいえ母親を同じくする兄弟なのだから。


「ああ、あとジョセフから手紙が来ていたぞ」

「ジョセフさんから?」


 ファデスはポケットから手紙を取り出して僕に渡した。


 ジョセフはファミリーキルの初代の人物だ。

 ジョセフがこの世に誕生するまでファミリーキルは存在しなかった。


 ファミリーキルは女性の真祖と人間の男の組み合わせからしか産まれない。

 男性の真祖と人間の女性の間に産まれる子供はヴァンパイアですらない。


 普通の人間しか産まれないとのことだ。

 その理由は謎とされている。


 そしてジョセフがヴァンパイアを食料とすることが知れ渡りファミリーキルという言葉で呼ばれることになる。


 なぜ僕たちがジョセフと交流を持っているかというとファデスが自分の身を危険に冒してまで僕のためにジョセフにコンタクトを取ってくれたからだ。


 ファデスは真祖の一人だ。

 実はファミリーキルにとって一番美味しい血は真祖の血なのだ。


 もちろん真祖は普通のヴァンパイアより力が強いから狩るのは大変だけど一番のご馳走とも言える。


 ジョセフに命を狙われる覚悟でファデスは同じファミリーキルの僕にファミリーキルとして生きる術を教えてやってくれとジョセフにお願いした。


 ジョセフは弟のことを想うファデスを気に入りファデスを襲うことなく僕にファミリーキルの力の使い方等を教えてくれた。

 おかげで今では一人で充分食料になるヴァンパイアを捕まえることができる。


 それからジョセフと僕たちは定期的にやり取りをする仲になった。


 そしてジョセフから再三忠告を受けていたことの一つがもう一人のファミリーキルのジルって男のことだ。


 僕はジルに遭遇したことはないがジョセフは何回かジルと戦っているらしい。


 ジルは昼間でも行動のできる自分たちファミリーキルこそ最強のヴァンパイアだと言いヴァンパイアの王になりたがっているらしいのだ。


 そのため自分と同じファミリーキルは必要ないとジョセフを殺そうとしたらしい。

 だからジョセフは僕のこともジルは狙うはずだと言って注意しろと言ってくれた。


 僕は自分が最強だなんて思ってない。

 むしろ同じヴァンパイアを食料としないとなんて気が重い。


 僕はジョセフからの手紙を読んだ。

 手紙の内容はジョセフは今ヨーロッパにいることと近況が書かれている。


「ジョセフさんには日本に着いたら手紙出すよ」

「ああ。それがいいな」


 僕たちは次の日、日本に向けて出発した。

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