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けっきょくなにもわからん週末

 アラームなしで起きる日曜の朝は、怠惰に沈みそうになる。腰はまだ痛いが、昨日よりずっとよくなった。痛いが、十分に動ける。

「おはよー、千晃」

 朝から目の前に美少年がいるのは少々心臓に悪い。

「紅鬼はどんな枕が好みだ?」

「千晃がいい」

「俺の身体も腕も枕じゃない。下手な腕枕は痺れるだろ」

「じゃあ、腕枕上手になって」

「下手はそういう意味じゃない」

 不満げな紅鬼を引き剥がし、ベッドから降りる。すでに紅鬼を住まわせることに後悔がにじみ始めていた。

「下手でもいいよ、新婚っぽい」

「俺の籍に入ってくるな!」


 朝食はトーストと冷蔵庫の片付けだ。紅鬼にも出すと、少し驚かれた。

「オレ、別に食わなくてもいいって言わなかったか?」

「食ってもいいんだろ? それを娯楽としているなら、うまいまずいを感じて、それが快・不快になってるって解釈であってるか? 俺にもそれくらいの甲斐性はある。紅鬼の舌に合ってるかは知らんが」

 お手伝いロボット、メイドロボットでピンとくるものはない。大雑把に四次元ポケットを持っていないドラえもんのようなものだと思うことにした。丸くはないが、愛でるにもちょうどいい顔「いやいやいや」

 顔はいいが、それはそれ。

「どうした?」

「なんでもない。本来の役割はどうなってんだ?」

「人間一人生まれて死ぬまでなんて、そんなたいした時間じゃない。ちょっと休憩してるくらいだ。いただきまーす!」

 紅鬼は朝食をぺろりと平らげてしまう。

 紅鬼がいつから“ある”のかはわからないが、世界の仕組みや役割を負っているならば、この世界が今の状態であるころより、あってもおかしくない。人の一生などあっという間だろう。

「千晃の役に立つ範囲ならいいかな。生きとし生けるもののみでなく、無生物でも、どんな物質でも、なんでも情報の塊みたいなものだけど、うーん、いらない本はない?」

「本?」

 心当たりがあったので引っ張り出す。資格試験対策の本だ。受かっているため、千晃には必要のない本だ。誰かに譲ることも考えて置いておいたが、そのまま数年たってしまっている。最新版を買うべきだろう。

 渡すと、紅鬼は躊躇なくかじりついた。きれいに半円の歯型がついている。そのまま食パンをかじっていくように、本は紅鬼の口の中に消えていく。

「ごちそうさま」

 あっという間になくなっていた。

「……それはどういうやつなんだ?」

「わかりやすいのが本だと思って。本を構成している物質は、紙とインクだろ? けど、それだけじゃなく、加工されている。情報によって紙とインクという物質から、“本”という物に成っている。その物質と、生成物の差まで、オレは“還す”んだ。一種のエネルギーではあるけど、人はそれをまだ知覚できない」

「物質とか、物理ではあらわせないエネルギー?」

「わかりやすい言葉だと、例えばそれにかけられた情熱とか。それを“還す”のがオレの役割。大小はあっても、何にでも物質のみとの差はあるから、何でも食べられる」

「雑食にもほどがある」

「そのエネルギーが濃い・大きいほどおいしい……“快”を覚えるようにできている。役割を全うするために、分解して還すべきものをバクバクと食うためだろうな。人間も、大雑把に、おいしいものは、身体が必要としてるものだろ?」

「わかったような、わからんような」

「なんでも処分できるけど、本の処分が得意ってくらいだ」

「適当だな」

「まだ説明に適した言葉がないし、人間が知覚できない感覚だからな」

「……オカルト、か」

「たぶんそれが適当な言葉だ」

 まだ人類が追いついてない世界の事象くらいいくらでもあるだろう。読んだのはもう昔なので、内容はほとんど忘れてしまったが、なんとなく『幼年期の終わり』を思い出した。


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