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 凄い速度で景色が流れていく。

 私が住処にしようとしてた場所が、もう何も見えなくなっちゃった。

 いつまでバスの車輪回転させてるんだろう? 

 下の回転役を休ませないのかって楓子様に聞いたら、なんか爆笑されたけど。


 えんじん? っていうのが回転させているらしい。

 なんか想像もできない凄いペットを使役してるんだろうな、人族って凄いや。


「ふ、楓子様」

「なに、どしたの?」

「あれ、あれは、一体、なっ、ですか」

「ああ、あれはね、このバスの終点だよ」


 バスの終点? すっごい整地された場所に花壇があって、その中に墓標みたいのが刺さってて、人族の言葉でなんか色々と書いてある。人族の領地って踏み入ったこと無かったんだけど、こんなにも綺麗な場所だったのかって、驚きを隠せないよ。


 綺麗っていうのかな、自然なものがほとんど淘汰されてるって感じ。

 目に入るもの全てが人工物で、なんか、全然違う世界に来ちゃったみたいだ。


「次は電車に乗らないとなんだけど、静かにしてるんだよ?」

「か、かし、こまりま、した」


 前を歩く楓子様の服を、きゅっとつまむ。


「ふふっ、どうしたの?」

「だ、っだだだ、だって、人族っ、数、多くなっ、ですか」


 至る所に人族がいる。

 大きな石だけのお店しかないから、ここが王都って場所なのかも。


『石畳の道に石を削った家や店、そしてどれだけの時間と技術を費やしたのか分からない城、それが人族の住処であり、王都って呼ばれる場所さ。人族の数も凄いんだ、それに無駄に花もたくさんあってね。馬車がひっきりなしに走ってるし、そこかしこに冒険者がいたりして。本当、狩り尽くし甲斐のある奴等だよ』


 一緒に戦っていた魔族の一人が、こんなこと言ってたもんね。

 でも、馬車は一台も見かけないし、冒険者も一人もいない気がする。

 剣を持ってたり、重鎧を着こんでるのもいないし……みんな、薄い服ばっかりだ。


「あ、アズちゃん、道譲ってあげて」

「え、あ、は、はい!」


 ……いた、杖を持った腰の曲がった人族。

 楓子様が道を譲るってことは、それなりの高位に属するものなのかもしれない。

 

「え、アズちゃん、何してるの」

「え、えっと、失礼っなぃよに、高位者に対して、礼を、して、います」


 た、足りなかった? やっぱりここは土下座しないとかな。

 

「あああ、アズちゃん、大丈夫だから、膝とか付けないで大丈夫だからね」

「え、で、でも、人族は、高位者に対して、礼ッ、を、するも、だと」

「ううん、大丈夫、平気。あ、すみません、この子ちょっと特殊な子でして」


 …………よし、行ったか。

 杖を持った人族の機嫌を損ねなかったみたいだね。

 魔法使い、魔力を感じさせないって事は、多分高ランカーだ。

 昔の私なら勝てただろうけど、今の私じゃ勝てるはずないし。


「……なんで、得意げなの?」

「え? え、えへ、えへ、作戦が、上手く、いたなって、思い、まして」

「作戦? まぁ、なんでもいいけど。電車の中じゃ静かにしてね」


 うふふっ、どんなのが来ても、もう大丈夫。

 バスもちゃんと乗れたし、冒険者の高ランカーもやり過ごしたんだから。

 あとはどうやってドラゴンをアンデッドに転化させるか……って、思ってたんだけど。


「あれ、アズちゃん?」


 電車って呼ばれる巨大な鉄製の化け物を前にして、私の好奇心は昂ぶりを隠せないでいた。

 軋む車輪に、相も変わらず分からない移動方法。

 長尺すぎる胴体は連結に連結を重ね、遥か彼方まで続いている様に見える。


 そしてそして……何よりも私の好奇心を昂らせた正体、それは。


「……す、すごっ、ですね、楓子様」

「あ、良かった、なんか想像と違う反応してたから驚いちゃった。この電車はね」

「楓子様、このっ、処刑道具は、いっ、一体何人の人族を、殺したッですか?」

「え?」


 私には見える、この電車って存在から、禍々しいまでの暗黒のオーラが。

 一人や二人じゃない、何十、何百と殺し続けた悪魔の道具。

 ギロチンって処刑道具があるって聞いたことあるけど、それ以上かも。


 ペット生成上、ネクロマンス系の魔法も習得してる私からすると、この電車は魔力そのもの。

 この電車から魔力を貰えれば、今朝使った分の魔力なんか簡単に回復できちゃうかも。


「ううん、それだけじゃない、もしかしたら、この電車に私の魔力を注入したら、この電車自体が生き物になって魔族になってくれるかもしれない。その場合、今すでに中にいる人族は即死しちゃうかもしれないけど……でも、大きな目的のためには、小さな犠牲は致し方ないですよね! 楓子様!」

「ダメです、急に流暢に喋り始めたかと思えば、まったく」

「え、そんな、勿体ないですよ! これだけの呪物を造るのに一体どれだけの人族の犠牲があったことか! ほら、今だってそこの足元の隙間から覗いてますよ!?」

「ナチュラルに怖いこと言わないで! 電車に乗るよ!」


 ぐううううぅ、もったいない。

 至る所から訴えかけて来てるのに、この子たちを使わないなんて。

 ……しょうがない、魔力回復だけにしておこう。

 ここは人族の住処、言う通りにしないと殺されちゃうのは私の方だしね。

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