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 もう一回、楓子様の充電っていうのが出来たら、さっきの絵を見させてもらおう。

 私を殺した人族の絵、あれに触ったら、何が出てくるのか。


「よし、それじゃ、さっさと行こっか」

「あ、は、はい。ちょ、ちょとだけ、待ても、も、いっいい、ですか」

「いいけど、何するの?」

「あ、あああ、あの、ま、まりょ、魔力、暗転、って、魔法、を、はい」


 洞窟に残していくフーちゃんとコッフちゃん、二匹の為に隠れ蓑を用意してあげないと。

 魔力暗転(カーテンイグジット)は、対象の存在を認識レベルで阻害してくれる魔法だ。

 

 今回はそれを住処としている洞窟の入口へとかける。

 魔物への変化は見られないけど、魔力注入した以上、この子たちは魔物だからね。

 この洞窟に戻ってきて、殺されちゃってたら可哀想だし。


 高レベルの神聖魔法使いがいたら看破されちゃうけど、私レベルのはそういないし。

 他の動植物や農民系の人族程度だったら、気付くことすら出来ないはず。


「……凄い、他の岩と同じみたいになっちゃった」

「こ、この、魔法、とくっい、でした、ので」

「そうなんだ?」

「ひ、ひとっりに、なるのに、便利、でした、ので、はい」


 楓子様、なんで残念そうな顔をしているのだろう。

 生きるために必須の魔法だと思うんだけど。


 コッフちゃんとフーちゃんにはしばらくお留守番と、絶対に人族を連れてくるなって強めに指導しておいて。ぱんって広げた楓子様の持っていた地図とコンパスなる道具に、私は何度目か分からない驚きに襲われていた。


 凄い細かい地図、見た瞬間に場所が把握できるし、移ろいやすい川の位置まで正確に描いてある。コンパスも、そういえば人族がこんなの持ってた様な気がするけど、そんなに数が多かった記憶はない。それにもっと大きかったはず、こんなに小さいのは初めてだ。


 貴重な一品だと思うのに、楓子様はこんなのを持っているなんて。

 もしかして、人族の中でもエリートの部類に入るのかな? そうは見えないけど。

 

「さってと、コンパスと地図で位置分かるかなー」

「……あ、これ、ここ、です」

「え、そんな直ぐに分かるの?」

「は、はい、川あって、山、ここら辺、昨日のドラゴッ、死体、ありまっ、です」


 こわごわと地図を指差しながら、楓子様へと現在地を教えてあげた。

 むしろ、なんでこれだけ精密な地図を持っていて、場所が分からなくなるのだろう。

 東西南北の概念を理解しつつ、さらにこの地図があれば、どこだって歩けると思うけど。


「そっか……それじゃあこの先のバス停を目指そうか」

「ばすていって、なっです、か?」

「バスが到着する場所……って言っても分からないよね。あー、でも、バスに乗るんならお風呂とか洗濯とかしたかったかな。熊とか猪と一緒に寝ちゃってるし、私達って結構臭うよね」


 獣臭はするけど、でも、それは私からしたらとても良い匂いなんだけどな。

 お風呂……そういえば、人族はお水に入って体を清めたりするんだったっけ。

 面倒なことばかりするんだな、人族って。

 私の昔の姿、甲殻族の頃は、お風呂に入るっていう概念すらなかったけど。


「んー、残金的にどうなるか分からないけど、とりあえず行ってみよっか」

「あ、は、はい、頑張っます」

「ちなみになんだけど」


 後ろ手にしながら覗き込むように、楓子様は私を見る。

 な、なんだろ、期待されてる? ちょっと緊張。


「瞬間移動の魔法とか、あったりしないの?」

「しゅんか、移動、です、か? あるには、あり、ます」

「え、あるの!? じゃあ、それ使ってさっきの場所に行っちゃおうよ!」


 すっごいキラキラした瞳で、嬉しそうにしている楓子様だけど。

 それに対応すべく、私は負けないぐらい素早く土下座をした。


「ご、ごめっなさい! 今のっわた、私じゃ、ムッムリ、です!」


 そもそも私の使える魔法は瞬間移動ではなく、転送魔法だ。

 しかも転送魔法は浮遊や魔力暗転の様な、魔力を調整しながら使える魔法ではない。

 使ったら最後、結果になるまで使用者の魔力を根こそぎ持っていくんだ。

 今の私が使ったら、そこら辺の石ころ一個でも死んじゃう恐れがある。


「そっか、じゃあ諦めて歩くしかないね」

「お、お役に立てず、すっません」

「いいよ、元々歩いてきたんだし」


 他にも、あれだけの人族が大量にいる場所に行くんだ。

 ドラグル族復活の魔力も残さないといけないし、自分の身を守る魔力だって残したい。

 すでに暗転と炎尾を使ってるから、もう余計な魔法は一切使えないんだ。


 だから、歩かないといけないんだけど。


「す、すいまっせん、も、もう、歩けない、です」

「えー? まだ一時間も歩いてないよ?」

「だ、だって、わたひ、ほとッど、歩いてなかったから、足が」

「むー、アズちゃんに合わせてたら、夜になっても山から出られないよ」


 そもそも転生してる弊害もあるんだと思う。

 肉体と思考のズレもあったりして、微妙に歩きづらい。

 もう魔法使ってこっそり浮いてようかなって思うぐらいに、きつい。


「あ、あの、ちょっ、休ッ憩」

「しょうがないなぁ、肩貸してあげるから、頑張って歩こ」

「ひ、ひぃぃぃ、い、痛、足の裏、痛い、です」

「頑張って、靴もちゃんと貸してあげてるし、歩ける歩ける」

「ひぃぃぃぃぃ……ふぇぇ」

「泣かないの、頑張って」

「ひっ、ひっ、ふぇぇぇぇ」



 何かの動物みたいに大泣きしながら歩くこと四時間。

 なんか黒くて硬い道に到着したかと思うと、楓子様は丸い置物の前で何かを調べ始める。


 私はというと、足が痛くてもう立っていられなかったから、道に座り込んで体力回復中。

 道路っていうみたいだけど、山道と比べて全然歩きやすいね、これ。

 それに白い線が引かれてて、こすっても全然消えない。


「……多分、バス、すぐ来るかも」

「そ、です、か。良かっ、です」


 人族が何十人も乗れる箱型の乗り物、それをバスと呼ぶらしい。

 多分、原動力は使役された魔物なんだろうな、可哀想に。


「アズちゃん、バスに乗っても、慌てたりしちゃダメだからね?」

「は、はい、頑張っ、ます」


 轍もないし、馬車とは違う乗り物なのかな?

 でも、これだけ硬い道なら、そもそも轍も出来ないか。


 不思議だな、道路って。

 これ、私の城とかにも欲しかったかも。


「あ、バス来たよ、アズちゃん」

「は、はい……え、な、何ですか、これ」

「何って、ほら、早く乗ろう?」


 ぷしゅうううううぅぅ……って、口を開けた謎の板。 

 やたら大きい車輪がついた、バスって乗り物。

 え、これに、乗るの? 何が車輪を動かしてるの?

 見た感じ生き物は見えないし、魔力も感じない。

 獣臭はしないけど、その代わり鉄錆の嫌な臭いがプンプンする。

  

「誰がバスを動かしているかって、そんなの運転手さんに決まってるでしょ」

  

 運転手さん、ということは人族が下にいて車輪を回してるってこと? 

 凄い、しかもこんな早く移動できるんだ。 

 私たちが座ってるこの下で、必死に車輪回転させてるのかな。

 それに比べて私はこんな良い椅子に座らせてもらって。


「……楓子っ様」

「え、なに、どうしたの」

「ありがとっ、ござます……!」

「いや、だから、普通にしててって、怪しまれちゃうから」

「わたっ、楓子さっまの、ペトで、良か、です!」 

「し、しー! アズちゃん、そういうの今はなし!」

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