⑤
「昨日も驚いたんだけど」
「は、はい」
「料理するたびにお尻丸出しにするの、ちょっとどうかと思う。しかもそれ、トイレで用足してるみたいに見えるし」
コッフちゃんが採ってきてくれた焼きたての魚を食べていると、突然楓子様に怒られた。
平らな石に魚乗っけて、その上を跨いで炎尾近づけただけなのに。
え、だって、こうしないと炎尾で服が燃えちゃうし。
楓子様から頂いた下着っていうのも、炭クズになっちゃうし。
火力強くしちゃうと今日の分の魔力無くなっちゃうし。
炎尾を魚に近づけて焼かないと半生になっちゃうし。
「すっ、すま、せん。わたっし」
「しかも全部脱いでるから、裸でクッキングだし。他の人に見られたらどうするの?」
「……え、えと、ど、どう、なる? のかな?」
「男の人だったら問答無用で襲われちゃうよ? 良かったね、最初に出会ったのが私で」
襲われちゃう……つまり、殺されちゃうってことかな。
え、服を脱いで魚焼くだけで殺されちゃうんだ。
魔族だからかな、やっぱり人族って怖い。
「とりあえず、私のライターも使えなくなっちゃってるし。炎尾? その魔法に頼るしかないんだけど。他の人がいたらそれ、使用禁止だからね?」
「……は、はい」
「だから、土下座しないの。それで……今日はどうするの?」
さりげなく出てきたライターって単語が気になる所だけど。
聞いたらまた何か言われそうだし、炎尾使用禁止で半べそ状態だし……くすん。
「え、えと、きょ、今日は、ドラグッ族の、死体を、アデッドに、します」
「ごめん、もう一回言って」
眉間を指で押さえながら、なんか難しい顔してるな楓子様。
「え、え、え、えっ、えと、ドラ、グルの、死体を、蘇えらせって、アデッドにして、仲っ間に、したっです」
「冗談じゃないよね、死体を蘇らせるとか、ドラゴンとか」
もう喋るの疲れるから、うんうんって首を縦に振る。
喉が震えちゃって、声にならない。
楓子様は怖くないって頭で理解してるのに、心が拒否しちゃってる。
もう一生このままなんだろうな、治そうとも思わないけど。
「ちょっと理解に苦しむけど……とりあえず、一緒に行くからね」
一緒に来るんだ、どうしよう、人族から見てアンデッド化の魔法って、確か禁呪だよね。
だって、要は魔物を作る魔法なんだもん。
そんなのを見た楓子様が一体何を思うか、ううん、何のために見に来るのか。
どっちにしても断れないんだけど……殺されたら嫌だな。
★
「うそ……なんで、どうして」
昨日ドラゴンの死体があった場所には、人族が大量発生していた。
変な道具を肩に担いでたり、何かを必死に喋っていたり。
それになにより、ドラグル族の死体がないじゃない。
あれだけの巨体を、一体どうやって移動させたというの。
物質転送魔法は確かに存在した、でもそれには魔法陣や他の魔晶石やクリスタルの支援あって初めて使用可となるのに、それを感知できない様な私じゃないはず。ということは、ごく少量の魔力でドラグル族を転移させたってこと? 一体どういう魔法技術なの? 魔力痕跡も何も見えないし感じ取れないけど……うぅ、遠いから、何も分からないよ。
「……なんだ、ここ、異世界じゃないんだ」
「え? 楓子様、どど、どか、されまっ、たか?」
「ううん、なんでもない。行こ、見つかったら面倒だし」
え、行くの? 確かに見つかったら面倒だけど。
でも、楓子様的には見つかっても何も問題ないのでは?
だって同じ人族なんだから、むしろ仲間大歓迎って感じじゃないのかな。
ううん、よく分からないな。