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「落ち着いた?」

「……はい、すっません」


 抱き締められる事しばらくして、私のえづきがようやく収まる。

 人族の雌は私の予想とは違い、とても優しく接してくれた。

 裸だった私へと服や下着を分けてくれたり、食べ物や飲み物を分けてくれたり。


「ちょっと、沁みるかも」

「し、沁み? し、いっいったああああああああああああああぁぁい!」

「我慢して! 貴女の肌、凄い虫刺されと火傷だから!」

「だ、だって、だっで、痛い、物凄ッイッタです!」

「これこのまま放置した方がダメだから! はい我慢!」

「いにゃああああああああああああぁぁぁッッ!!!!!」


 私の肌を治すからと言って薬を塗布するのだけは、ちょっと辛かった。

 でも、薬の効果は凄くて、翌日の朝には綺麗に治ってしまっていたんだ。

 成分とか気になって舐めてみたけど、美味しくはなかった。


 施しを受けたのなら、お礼がしたい。

 別に魔族が人族にお礼をしたって問題はないはず。


「お礼って言われても……そうね、じゃあ質問に答えてもらおうかな」


 彼女からの質問は、なぜここに一人で住んでいるのか? という事だった。

 別に()(この)んで一人住んでいる訳じゃないし、他に家がある訳でもない。

 魔界まで戻れば何とかなるかもって伝えたけど、魔界という言葉が通用しなかった。

 人族でも住まう場所によっては、魔界から遠く離れた場所もある。

 ということは、推測するにこの山は、魔界から遠く離れた場所ということかな。


「私の名前は玉井(たまい)楓子(ふうこ)って言うんだけど、貴女は?」


 フーちゃんやコッフちゃんがどうして側にいるのか? みたいな他の質問にはスラスラと答える事が出来たけど、この質問だけはどう回答するか悩んだ。


 元々の名前を出してしまうと、魔王と呼ばれていたことがバレてしまう。

 かといって思いついた適当な名前だと、呼ばれた事に気づかない可能性だってある。

 だから私は自分の名前であるアズモンデオから頭二文字を切り取り、アズと呼称する事に。


「アズちゃんって言うんだ、結構可愛い名前なんだね」


 アズなら、多分呼ばれれば振り向くぐらいは出来る。 

 ほっと一安心した所に、次なる質問が飛んできた。


「その角って、本物? 触ってもいい?」 


 私の種族がオーガ族と仮定すると、角が最大の弱点である可能性が高い。 

 握られただけで脱力し、なすがままにされてしまう。

 短くて小さい角だから折られる事はないと思うけど、もし折られたら即死だ。


「や、や、やっ、やさっううううぅ、優しっく、触って、くだっさい」

「あは、泣き虫だなぁ、私アズちゃんに乱暴なんかしないよ」


 これまでの事で楓子様のことを信用はしてる。

 でも、万が一折られたら死ぬ、となると話は別だ。

 予想通りと言うべきか、角に触れられた途端、私は脱力してしまう。

 

「うわ、アズちゃん、どうしたの!?」

「……ごっめ、なさい。わ、たし、角、よわっ、です」


 楓子様にもたれかかる状態になった私だけど、体勢を直すこともできない。

 予想以上だった、これを悪意ある人族に握られたら無抵抗のまま終わる。


「そっかぁ、それじゃあアズちゃんに、このニット帽もあげるよ。男の人にみつかって、万が一握られたら大変だもんね」

 

 灰色をした伸縮する不思議な布、それを頭にかぶせて貰うと、角が綺麗に見えなくなった。

 触った感触で角がここにあるって分かるけど、元々小さい角だ、ぱっと見では分からない。


「それ被ってると、アズちゃん人間に見えるね」


 ニヒヒって笑う楓子様と共に、私も少しだけ口元を緩ませる。

 笑うと可愛いって言われたけど、人族の価値観とかよく分からないし。

 そんなに可愛いのかな……前の方が良かったと思うけど。


「一晩一緒にいてなんなんだけどさ」

「……?」

「私もここに住んでもいいかな? 実は家出してて、行くとこないんだよね」


 え、嫌だ。


 楓子様が優しいっていうのは理解できたけど、それとこれとは話が違う。

 凶悪な魔物と一晩一緒に楓子様は過ごせますか? 過ごせませんよね?


 楓子様は絶対に私を殺したりはしない、それは頭では分かってる。

 でも、魂に刻まれた恐怖が、人族そのものを嫌っているんだ。

 ずっと心臓がドキドキしてるし、言葉だってまともに喋れない。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あの」

「うん、どしたの?」


 あ、ダメだ、断れない。

 もし断ったとして、楓子様が人族の街に戻ったとする。

 そうしたら、もしかしたら、楓子様の話を聞いた人族が私を探し出すかもしれない。


 今の私に逃げれるだけの力はない、二日三日逃げて精一杯だろう。

 そして捕まった私は、弱点である角を折られて死ぬ。

 なぜなら魔族だから。


「……わ、わかっ、わかり、ました」

「本当? 良かったー」

「じゅ、従順な、ぺっ、ペットにっなりまっので」

「うん?」

「か、可愛がって、下さいっ」 

 

 もう一度土下座をした辺りで、楓子様は私を起こして再度抱き締める。

 ペットではなくていいらしい、こんな優しい人族、見たことも聞いたこともないよ。


 雰囲気はアンデッド族のアンちゃんにちょっと似てるかも。

 楓子様もアンデッドになってくれればいいのにな。


 アンデッド……アンデッドか。


 ん? アンデッド? そういえば、私ドラゴンのアンデッドって造った事あるね。

 あ、昨日のドラゴン、アンデッドにして私の魔物にしちゃえばいいんだ!

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