②
「痒い」
異常なまでの痒みで目が覚めた。
魔物二匹と共に洞窟の中で眠っていただけなのに、なんでこんなに痒いの?
以前とは違う肉体なのを思い出しながら、月明かりの下へと向かい確認する。
「な、なにこれ、どうなってるの」
全身を這う小虫、それらを払いのけると、肉体の至る所に赤いポッチが浮かび上がった。
異常なまでの痒みはこれが原因か……虫刺されなんて、以前はなかったのに。
試しにそれを指で掻いてみると、全身がゾクゾクするぐらい気持ち良かった。
でも、掻いた途端白い何かと赤い血が出てきてしまって、これはヤバイと悟る。
「魔力を疑似的な尻尾に転化して……炎尾ッ!」
魔法の一つ、炎尾。
元は自分の尻尾を燃やして相手に巻き付ける魔法だったけど、今は尻尾がない。
でも、お尻のちょっと上、コリコリとした骨の辺りから炎が噴出してくれた。
無事操作も出来るようなので、早速自分に巻き付ける。
炎で消毒だ、きっと虫刺されにも効くはず。
「えひっ、え、あああああ、なんか、熱が痒みを刺激して、ヤバイ、気持ち良くて頭おかしくなりそうッ! いひいいいいいぃッ! 快感がッ身ッ体を支配して、ダメ、変な気持ちになっちゃう! 熱いの気持ちいいいいいいいぃ!!!!! きもちッいいいいいいいいいいぃッ!!」
想像以上だった。
快感で死ぬかと思った。
でも途中から激痛に変わった。
やっぱり死ぬかと思った。
全身真っ赤になっちゃったけど、無事痒みを治める事には成功する。
あまりいい方法じゃないだろうなとは思いつつも、とりあえず今日は寝直すことに。
二匹から距離を取り、一人膝を抱え込みながらスヤスヤと。
翌日。
「お腹が減った」
ものすごい空腹に襲われ、目の前の葉っぱを一口食べてみる事に。
食べた瞬間、臭みと苦みが口の中を支配して、速攻で吐き出した。
あんなの食べれない、食べ続けたらそれで死ぬ自信がある。
他に何かないかなと思っていると、コッフちゃんが魚を一匹取ってきてくれた。
コッフちゃんは生で食べてたけど、私には無理そう。
焼いたら殺菌になるし、味も変化するかも?
試しにそれを炎尾で焼くと、食べれなくはないなって味になった。
睡眠も一応とったし、食欲も満たされたという事で、住処を作ることに。
コッフちゃんに連れてきてもらった洞窟じゃ、さすがに生きていけない。
木材でも集めようかと思ったその時だ、耳に不自然な音が聞こえてきたのは。
「キシャアアアアアアアアアアアアアア!」
ドラグル族? こんな魔素が薄い世界で、ドラグル族が空を飛んでいるの?
大空を舞う巨体、空の王者とも呼ばれる彼らが味方になってくれたら、どれだけ心強いか。
元々が魔物なのだから、意思疎通だけで仲間になってくれるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、声が聞こえてきた空へと魔法で浮かび上がる。
でも、そんな私の耳に、もう一つの不快な音が聞こえてきたんだ。
…………ィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!
生き物の音じゃない、物体が空気を切り裂く音。
爆風と共に目の前を通過するドラグル族と、それを追尾する鈍色に光る何か。
「何、あれ」
見たことのない何かは、炎と共に鉄塊を発射する。
私の知るどの魔法よりも速く、それはドラグル族へと突進し、爆発した。
ドラグル族の鱗は刃すら通さない鋼の鱗だ。
魔法だって通用しない事が多く、討伐するのは困難を極める。
だからこそ頼りになるし、だからこそ仲間にしたかったのに。
「なのに……たった、たったの一撃で、殺せちゃうの……」
圧倒的な力の差。
ちょっと頑張れば勝てるとか、そういうのじゃない。
いつの間に、こんなにも戦力に差がついてしまったのか。
私の目は、その何かの中にいる人族に対して、更なる畏怖の念を抱いてしまっていた。