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 私は殺された、魔界の隅っこで可愛い魔物を育てあげていただけなのに。

 

「魔王アズモンデオ、異世界転生者としての使命、俺が貴様を討つ!」


 たったの三人で乗り込んできて、私の可愛い魔物たちを全て薙ぎ払いながらやってきた奴等に対して、私なんかが太刀打ちできるはずがない。

 私は育てるのが専門だから、育てて可愛がって放牧して、沢山の魔物に囲まれるのが生きがいなだけの、しがない一匹の魔族に過ぎないのだから。


「俺は元の世界に帰る……大魔導士ドド、聖女カナディ、俺に力をッ!」


 光の刃が巨大化し、私の全てを包み込む。

 抵抗なんてしない、するだけ無駄だって分かってるから。


 瞬間、肉体がボロボロと崩れ去るのを感じた。


 痛かった。

 死ぬほど痛かった。

 予想以上に痛かった。

 

 あ、こんなの耐えるの無理なんじゃない? って思ってしまう程に痛かった。

 安らかな表情で死ぬなんて絶対に無理だと思った、だって痛いんだもん。


 だけど、なぜか私の痛みは突如として身体から消え去った。

 あ、これが死ぬってことなのかな? って思ったけど、どうやら違う。


 目を開けると、そこには青い空があったから。

 魔界のどこか赤紫色の空じゃなくて、真っ青な空に、とても違和感を覚える。


「ここ、どこ?」


 それまで私がいたはずの、魔界に設けた城じゃなかった。

 鬱蒼とした雑木林に、僅かに差し込む陽の光。 

 視界に入る手とか足がそれまでと違って驚いたりもしたけど。

 それでも、死んでない事にどこか安堵する。


 でも、怖かったんだ。


 殺される恐怖は、魂に刻まれてしまう。

 それまでの可愛いから育てるではなく、保身の為に私は魔物を求めた。


 無駄に良い私の鼻が、獣の居場所をすぐさま突き止める。

 近くにいた牙の生えた四つ足の生き物に魔力を注入して、早速魔物へと仕立て上げた。


 「フゴフゴゴ!」と、その子は鳴き声を上げる。

 自然界の獣を魔物へと変化させる時には、少々の痛みを伴う。


 でも、魔物にはならなかったんだ。

 魔界の生き物とは根本的に何かが違う。


 そう感じたけど、魔力を注入した事により、その子は私に懐く様になってくれたんだ。

 フーちゃんと名付けたその子は、昔魔界で飼っていたボアボア族によく似ている。 

 四つ足に少し出た口、牙がちょっとだけあって、茶色い体毛の可愛らしい魔物。

 

 フーちゃんだけじゃ不安だった私は、川にいたもう一匹の獣を魔物にすべく魔力を注入する。

 その子は川で魚が採れる凄い子だった、名前はコッフちゃん。

 黒くて大きい身体、首のあたりだけ白い体毛に変わっていて、ちょっと可愛い。


 でも、その二匹を魔物にした途端、私の肉体が悲鳴を上げたんだ。

 全身に激痛が走り、眩暈と脱力感に襲われ、一歩も動くことが出来ない。


「嘘、ヤダ、なにこれ、なんで?」


 地面に膝を付くと、立ち上がる事も出来ない。

 経験上、原因は分かっていた。

 

 魔力切れ。


 魔界には空気中に魔素が大量にあるはずなのに、この世界にはどうやらほとんど存在しない。

 魔力探知を疎かにした自分の責任なんだけど、そんなの気付けないよ。


 失ってしまった魔力を回復するために、その場で横になる。

 でも、全然回復しない、このままだとまた死んでしまう。


 側にいてくれたコッフちゃんとフーちゃんにお願いして、川へと運んでもらう事に。

 青い色をした水を飲むのは初めてだったけど、とても美味しく感じた。

 それと同時に、水面に移る自分の顔を見て、改めて驚く。


「なにこの白い髪、それとこの黒いのは……角?」


 肩くらいの白髪に、頭にちょこんと生えた二本の角。

 人族の肉体かと思っていたけど、どうやらオーガ族の肉体かもしれない。

 いや、オーガ族ならもっと強靭な肉体のはず……じゃあ、これは一体?


 その時、ふと、アンデッド族のアンちゃんから貰った人形を思い出した。

 あの時の人形に、今の肉体は似ている気がする。


 ――絶対に身に着けてて下さいね。


 彼女から貰ったお人形は、貰った日からずっと首から下げていたはずなのに。

 今は、影も形も存在しない。


 アンちゃんは生きているのかな……? アンちゃんだけじゃない、私と一緒に笑ってくれた魔族のみんな、可愛い魔物のペットたち。


 どうして、私は殺されたの? アンちゃんも私も、人族に対して何もしてないのに。 

 魔物というだけで嫌悪され、魔族というだけで殺される。

 縄張りを踏み荒らしたのは人族なのに、私達は段々と住処を失っていっただけなのに。


 殺された恐怖が、私に安全と安心を求めさせる。

 どうしたら殺されないで済むのか。

 どんなに考えても答えが出ないままに、夜露と共に眠りへと落ちる。

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