春先の天気のよい日に
「涼子?あなた、知ってる?良二が死んだって」
時子からの電話だった。大学時代、時子と良二、春臣とはよく四人で遊んだ。私と時子は二人とも春臣に恋をし、その後私と春臣がつきあうことになったが、さばさばとした姉御肌の時子とは気まずくなることはなく、今も友人関係は続いている。いや、私が見ているのは彼女の表面だけで、彼女が本当はどう思っていたのかわからないし、聞いたこともない。ただ、誰もがばりばりのキャリアウーマンになると思っていた彼女が、卒業後すぐに見合い結婚をして専業主婦になったのは、春臣が私を選んだことが原因だったのかもしれない。
だが、春臣と私の関係は、乱気流にのまれてきりもみしながら落下する飛行機のように終わった。疲れた羽を休ませるように、私にずっと好意をもっていた良二と結婚したのは今から15年前だ。
良二との結婚生活は穏やかだった。物心ついてからずっとこの世界に居心地の悪さを感じていた私の魂は良二という拠り所を得て、やっと凪いだ。私たちの間に問題はなかった、ただ一点を除いて。良二は春臣のようにもてるタイプではなかったが容貌は整っていて、何より声や話し方が心地よかった。それでも私はどうしても良二とセックスする気にならなかったのだ。
そこに春臣がまた現れた。人間というのは、いや、少なくとも私は愚かだった。春臣と私は肉体的に惹かれ合い、そして私は春臣に走った。良二との結婚生活は7年で終わった。最後の日も良二はいつものように穏やかだったが、きっぱりと私にこう告げた。
「涼ちゃん、僕はもう二度と君に会うことはない。もう僕に頼ってはだめだよ」
その日から春臣と暮らしても、良二がいなくて寂しくなった。寂しすぎて私は心の中でいつも良二と一緒にいるようになった。でも、今日でそれも許されなくなった。
「二人で散歩してたの。でも、今は一人。天気がいいから、ひとりぼっちに耐えられそうもないわ」と私は答えた。