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第8話 Spice

 温かい風が吹いていた。


 何か熱いものが口に注がれるのを感じた。


 薄っすらと目を開けると白い女の顔が……


「あつっ!!って、苦え!?」


 ルークは飛び起きて口の中の液体を吐き出した。


 黒いものが口から垂れていた。


「なんじゃこりゃ!?泥?」

「地球人類のなかには泥水と呼んで蔑んだ者もいるといいますが、それはコーヒーと呼ばれるものです」


 ルークは薄暗がりに白く浮かぶ顔、ジニーの顔を見た。


 手には水筒が握られていた。


 依頼主クライアントから押し付けられたコーヒーを勿体ないからといって水筒に入れて持ってきていたのを思い出した。


 ジニーが不味いコーヒーを飲ませてくれたおかげで現実に戻ってこれたらしい。


「ルーク、防毒マスクの着用を進言します」


 ジニーは反対の手でルークのバッグパックから防毒マスクを取り出して渡してきた。


 ルークは頷いてマスクをつけた。


「おかしなものを見たぞ」

「痙攣、発汗、異常な眼球運動、先程のルークの様子はなんらかの中毒症状と思われます」

幻覚ラリってたってことか」


 ルークはダクトを進み金網になっている所から下を覗いた。


「うっ」


 目眩を感じて直ぐに顔を引っ込めた。


「マスク越しでも結構くるな……ジニー頼む」

「了解」


 ジニーと場所を代わった。


「どうだ何が見える?」

「煮えたぎる釜が見えます」

「釜……」

「……先程船から降りてきた集団の一人が何かを投入しています」

「何かわかるか?」


 ルークはジニーの目に仕込まれたカメラが稼動しているのを見つめていた。


 油断するとまた妙なものを見そうだった。


「解析……なんらかの植物の種子と判断。データベースと照合……ニクズク科の一種と思料」

「ニクズク?」

「その種子はナツメグとも呼ばれ旧文明では主に香辛料として使用。しかし過度な摂取は幻覚作用を生じる」


 ジニーは淡々と確認した植物の情報をルークに伝えた。  

 

 植物のサルベージ依頼に備えてジニーのデータベースには地球の原生植物のデータをインプットしておいたのが役に立った。


「奴らが煮詰めてるのはナツメグだけか?」

ノー、周囲には香辛料や香草の類が散乱しています。どれも人体に幻覚作用を及ぼすものです」

麻薬ドラッグ工場ってことか」

「可能性大と認めます」


 麻薬。


 人を狂わせるそれは文明に忌み嫌われながらも常に人と共にあった。


 人の歴史の裏にも表にもそれは常にあった。


 見えにくくても必ずあった。


 それは金になった。


 多くの犯罪者たちの懐を潤してきた。ときには国家をも。


 それは地球を捨てた宇宙人類が捨てるべきものであったが、捨てられるものではなかった。


 地球文明の優れた食品加工設備を使って製造される上質な麻薬は現代の裏社会の貴重な資金源の一つになっているのだ。


「まあ、義憤に駆られてここを爆破してもいいが……」

「ギフン……私には再現シミュレートが困難な感情です」

「俺にもできないさ。しがない便利屋の俺にはな」


 金さえ貰えればなんでもやる。


 ルークはそうやって生きてきた。


 裏社会やらヤクザ者やらを糾弾する立場にはなかった。


 せいぜい軍に通報するのが関の山だ。


「が、いい夢見せてもらった礼はしないとな」

「……スターライトの傷のお礼も、では?」

「そうそうそれも」


 ルークは闇に浮かぶ白い顔を見て笑った。


 少女の口角が少し上がるのを見た気がした。




 




 

 


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