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第7話 Trip

 人類が地球を放棄する原因となった世界大戦は「最終戦争」と呼ばれていた。


 最終戦争において世界は久方ぶりの総力戦を体験し、旧文明は崩壊した。


 崩壊の最中にあって、ニホンは何をしていたかといえば、中立国として世界に食料品を輸出し続けていた。


 地球文明の末期において、ニホンは世界有数の農業国となっていたのである。


 22世紀の終わりに経済成長の流れから完全に取り残されたニホンは、工業国から農業国へと転換することで生き残りをはかった。


 「痛みを伴う改革」という言葉が連呼され、憲法は改正されて私有財産権にメスが入れられることとなった。


 高齢社会の帰結として世にあふれていた相続人不明の土地が接収され、国営の大規模農業が始まった。


 「3000万総農家社会」の到来である。


 同族同士で何百年も殺し合った歴史をもつニホン民族が、真に一つに統一されたのがこのときであった。


 多脚戦車にたっぷりとカレーを積み込み、ルークは工場をあとにしようとした。


 工場の外に出たその時、巨大な影が頭上を過ぎ去った。


「あれは!」


 地球降下時に攻撃された船に違いなかった。


「やはり奴らもニホンに!」

「やはり御先祖様を狙って!」


 ジニーのことは無視して、ルークは一旦戦車を後退させた。


 車外に出て敵艦を確認すると少し離れた地点に着陸するのが見えた。傍らの建物の煙突からは煙が上がっている。


(あの施設、稼働しているのか!?)


 すでに放棄されて久しいはずの施設が稼働している。


(奴ら、相当ヤバい秘密を抱えてそうだな)


 着陸した船からは武装した集団が降りてきた。建物に入っていくのを確認してルークは物陰からでた。


 腰の銃を確認してルークはジニーを呼んだ。


「行くぞ、ジニー」

「危険です。あなたがとろうとしている行動は推奨できません」

「なあに、俺たちの船におしゃれな傷を付けてくれたお礼をするだけさ」


 金のにおいがする。


 ルークの本能が告げていた。


 謎の武装集団が入っていった入り口から侵入するわけにもいかない。ルークは施設の側面にまわった。


 侵入経路を模索していると、ジニーがダクトを見つけた。なんとか人ひとり通れそうな大きさだった。


「旧世紀の建物万歳」


 二人はダクトを通って施設の内部を目指すことにした。


「ち、きったね」


 ルークはホコリまみれのダクトを這いながら悪態をついた。

 

 自分の一張羅で雑巾がけをするというのはあまり気分のいいものではない。


「ルーク。ここは御先祖様に任せましょう」


 そういうとジニーは円盤お掃除ロボのスイッチを入れた。


 円盤はダクトを先導するように進んでいった。あとには舐めたように塵一つ残らなかった。


「ああ、御先祖様があんなにも活き活きと!感動です!」

「お前の欠陥感情シミュが感動できるとは知らなかったな……」


 ジニーの御先祖様の活躍によって、ルークは必要以上に服を汚さず済んだ。


 ダクトを進んでいくと、温かい風が吹いてきた。


(なんだ?)


 前方の床が金網になっていてそこから光が漏れていた。


 温かい風もそこから漂ってきている。


 なにやら最近嗅いだことのあるにおいがしていることに気付いた瞬間、ルークの意識は途絶えた。



 * * *



 暖かい風が吹いていた。


 体が浮いていた。


 音を見た。


 光を聞いた。


 味に触れた。


 月を見た。


 月に立つ女と目があった。


 女の目に顔が映っていた。


 泣いていた。


 落ちた涙が川になった。


 川を歩いて渡った。


 暖かい風が吹いていた。


 老人がいた。


 笛を吹いて死んだ。


 雨が降ってきた。


 空を見上げた。


 赤い雲が渦巻いていた。


 空がかき回されていた。


 空が波打っていた。


 空が煮えていた。

 

 渦の中に太陽を見た。 


 太陽が降ってきた。


 口を開けた。

 


 

 

 


 

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