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Prologue
月面都市ニール。
人類で最初に月へ降り立った男の名を冠した都市。宇宙に出た人類がはじめに建設した都市である。
ニールは月の表側、即ち月の地球側にある。
かつて人々は郷愁に囚われ、この街から自分たちが捨てた故郷を見上げていた。
崩壊した環境が、いつか蘇ると信じて月に地球を観測するための基地を置いた。
しかし、彼らの子や孫、地球の重力を知らない若者たちは、引力の束縛から逃れさらなる外宇宙へと飛び立っていった。
ニールには老人たちと観測基地だけが残された。老人たちは地球の観測を続け、熱にうなされたように観測結果を外宇宙へ発信し続けた。
子どもたちがいつか母なる星へ還れるように。
しかし親の心を知らない若者たちの情熱は外の星へ向けられた。
人類が、火星を開拓し、小惑星帯を越え、太陽系の端から端を自由に航海できるようになるまで、100年とかからなかった。
重力から解き放たれた文明の進歩は加速し、最早地球と月は忘れ去られていくかに思われた。