ラッセル到着
「ツカサさん、ラッセルが見えました」
馬車に揺られ続けること一週間。ジゼルが窓の外を指さしながら言った。
窓から顔を出して見てみると、前方には大きな外壁が見えていた。
「おー! あれがラッセル!」
さすがに大きめの街だけあって、立派な外壁だ。
あれだけ分厚い外壁があると、魔物たちも容易に近づくことはできないだろう。
外壁の前には俺たちと同じような行商人や旅人が列をなしている。
出入り門では騎士のような鎧を装備した者たちがおり、入場する者たちをチェックしているようだ。
ああいった手続きを見ると、なんだか心配になってくる。
俺は異世界人だ。
この世界独特の身分証やら、そういった書類を出せと言われても一切所持していない。
本当に街に入れるのだろうか?
不安になった俺は、思わずジゼルに尋ねてしまう。
「あの、街に入るのに特別に必要なものはあるのでしょうか?」
「ステータスプレートを提示し、百ゴルの通行料を支払えば問題ないですよ」
それだけでいいのかと思ったが、自分から突っ込んでややこしくする必要はない。
「あれ? 並んでいる人の中には入場料を払っていない人がいますが?」
先に入っていく人を観察していると、ステータスプレートとは違ったカードを見せており、明らかにお金を払っていない人がいた。
「ああ、あれは冒険者の方ですね。彼らのように冒険者ギルドに登録し、ギルドカードを貰っている者や、私たちのように商人ギルドに所属している者は通行料が不要なのです」
懐からステータスプレートとは違ったカードを取り出しながら説明してくれるジゼル。
どうやらそういったギルドに登録すれば通行料は免除されるようだ。
頻繁に仕事で出入りするのに、その度に通行料を取られていてはやっていられない。
だとすると、免除のために誰もが登録しそうなものだが、その辺りは各ギルドも対策しているのだろうな。
「ツカサさんは、ラッセルではどのように過ごすおつもりで?」
「とりあえず、冒険者になってみようかと思います」
俺の目的は、すべてのジョブを極めること。
数多のジョブレベルを上げ、キャリアを獲得して、いい生活を送ることだ。
異世界だろうと方針に変わりはない。
ジョブを極めるためには、一部の固有職を除いて魔物を倒す必要がある。
討伐依頼をこなし、報酬がもらえる冒険者という職業は俺の目的とピッタリなのだ。
あと個人的には久し振りにフリーで活動できるというのがいい。
ここ最近はずっとどこかの企業に所属し、縛られる生活を送ってきたからな。
そんなわけで、ここしばらくの方針はフリーの冒険者として活動することだ。
「なるほど。魔法使いであるツカサさんであれば、大活躍できるでしょう。頑張ってください」
リスキーに思える活動方針であるが、道中で襲ってきた魔物を退治している俺の姿を見ているジゼルはバカにした風もなく純粋に応援してくれた。
日本ではフリーになろうものなら、バカにされたり、引き留められやすい風潮が強かったので、こういったジゼルの反応は実に心地いいものだった。
そうやって会話をしていると、俺たちの順番となる。
「ステータスプレートを表示してください」
「はい」
騎士に言われて俺は素直にステータスプレートを見せる。
そこには名前、レベル、職業といった簡易的な情報しか記されていないために、手続きで見せることに嫌悪感はない。
魔法使い(転職師)と表示される職業欄であるが、他人に見せる時は魔法使いだけが表示されているので安心だ。
「……固有職持ちとは珍しい。冒険者志望か?」
「はい、しばらくはラッセルで冒険者活動をしたいと思っています」
「それは頼もしいことだ。街の一員として歓迎するよ。是非とも頑張ってくれ」
まだギルドに登録していないので、通行料である百ゴルを払うと快く通してくれた。
固有職を持っているだけで、かなり愛想が良かったな。
この世界では、固有職を持っているということは、それだけで一目置かれることなのだろう。
ジゼルたちも商人ギルドのカードを見せると、あっさりと通される。
検問を越えると俺たちは馬車で門を潜り、街に入ることができた。
「ツカサさん、ここまで護衛してくださりありがとうございました」
「いえいえ、私もちょうど移動したかったので助かりました」
ジゼルとの契約はラッセルまでの護衛だ。
無事に到着できたことに契約は終了となり、ジゼルから護衛報酬を貰った。
「ジゼルさんたちは、これからどうされるのです?」
「私たちは商品を仕入れたら、すぐに商売に出ます」
「街で休んだりはされないのですか?」
「本当はゆっくりと食事でもしながらツカサさんとお話したかったのですが、申し訳ありません。あちこちに物を運んで商いをするのが、我々行商人ですから」
ジゼルとは一週間の旅路で打ち解けることができた。最後に軽く食事くらい行きたかったが、どうやら彼らはすぐに仕事に戻るようだ。
かなり忙しないが、それが行商人というものなのだろう。
「わかりました。ジゼルさんたちも頑張ってください」
「はい。ツカサさんのご武運を祈ってます。またご縁があったら」
ジゼルはにっこりと笑うと、馬車に乗って去っていった。
「さて、俺もギルドに向かうか」
ラッセルのどの辺りに冒険者ギルドがあるかは、ジゼルに聞いてある。
門から続く大通りを真っすぐに進んでいけばたどり着ける。
ジゼルの言葉を思い出しながら俺は真っすぐに進んでいく。
街には石畳が敷き詰められており、煉瓦作りのような建物が並んでいた。
大通りには明らかに猫のような耳や尻尾を生やした獣人や、長い耳に非常に整った顔立ちをしているエルフ、蜥蜴が二足歩行して歩いているリザードマンなどがいた。
エスタやジゼルから人間以外の種族がいると聞いてはいたが、こうして目の前で異種族が歩いている姿を見ると驚いてしまうな。
通りの左右には店舗が並んでおり、立派な武具が並べられていたり、たくさんの雑貨や食料などを並べている店もあった。
本当にゲームのような世界だ。
ラッセルの街並みに見惚れながら歩いていると、やや開けた場所にたどり着いた。
そこにはどでかい二階建ての建物があり、冒険者と思われる武具を纏った者たちが出入りしていた。
多分、あれが冒険者ギルドだろう。
歩いていけば、すぐにわかると言われたが、本当にすぐにわかったな。
大きな二枚扉をくぐって中に入る。
ギルド内は開けた造りをしており、入ってみるととても広々としている。
文明レベルは日本と比べるとかなり低い異世界だが、ギルドの内部はかなり清潔だ。
エントランスが清潔な企業は信用できる。これまでの経験から、ここのギルドはそう悪くない場所だと思った。
中央には帽子に制服を身に纏った職員らしき者たちがおり、そこで冒険者の応対をしてるようなので後ろに並んだ。
やがて並んでいた冒険者がいなくなり、俺の番となった。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。