ハイオーガ戦(上)
ゴブリンを剣で両断していると、不意に大きな影が落ちる。
直感に従ってその場を退くと、俺のいた場所を棍棒が強く叩いた。
体勢を整えて視線をやると、ハイゴブリンがいた。
ハイゴブリン
LV13
HP 144(+20)
MP 25/45(+20)
STR 114(+20)
INT 47(+20)
AGI 87(+20)
DEF 99(+20)
鑑定してみると、もれなく魔物暴走のお陰でステータスが強化されている。
ゴブリンの巣穴で出会った個体よりも遥かに強力だ。
しかし、レベルの上がった俺には敵わない。
俺は一瞬だけ疾風を発動させると、ハイゴブリンの懐に潜り込んだ。
急激な加速にハイゴブリンは付いていけなかったようで、傍にやって来た俺を目視して驚愕していた。
「一閃」
魔力のこもった一撃をお見舞いすると、ハイゴブリンの胴体は切断され、地に沈んだ。
グレンの立ち回りを真似したスキル利用だ。
魔力消費の激しいスキルでも、一瞬だけならば大して消費しない。
そうやって剣、魔法、スキルを活動しながら立ち回っていると、魔物たちは俺を相手するのは割に合わないと感じ始めたのか、こちらを避けるような動きを見せた。
魔物暴走状態でそのような知性を保てるとは意外だ。
時間の経過具合からさっきの冒険者たちは、ようやくラッセルにたどり着いたくらいだろう。
まだロクに迎撃態勢の整っていない状態で街に押し寄せられるのは非常に困る。
俺は素早く剣士から戦士へと転職を果たし、瞬装でオックスシリーズの防具とアイアンアックスを手にした。
「戦士の叫び!」
俺を中心に赤いオーラが放出。
俺から放たれる圧力に迂回しようとしていた魔物が一斉にこちらを向いた。
それだけじゃなく、周囲にいた魔物がより一層の敵意を向けてやってくる。
街に向かう魔物を食い止めることはできたが、その代わり俺への勢いが増したようだ。
「戦士の鼓舞!」
俺は弱気になる心を叱咤する意味も込めて、普段よりも大きな声を上げてスキルを発動した。
戦士のスキルによって俺のSTRが二十%上昇。
アイアンアックスを握り締めると、跳躍して魔物の群れの真ん中へ。
そして、勢いよくアイアンアックスを叩きつける。
「戦士の重撃!」
オークが棍棒を掲げて防御をしたが、アイアンアックスはあっさりと切断し、そのままオークの頭から股下まで両断した。
それと同時に衝撃波が発生し、何十匹もの魔物が吹き飛ばされた。
「これだけ吹っ飛ばせると気持ちがいいな!」
脳内でおなじみのレベルアップが鳴り響く。
膨大な数を相手にするならば戦士の方が効率がいいのかもしれない。
叩きつけたアイアンアックスを持ち上げると、後ろからゴブリンが棍棒を叩きつけてくる。
しかし、その攻撃は防具に防がれてカンッという音を立てただけだった。
元々DEFが高い上に、オックスシリーズによって大幅に強化されている。
オークの一撃ならまだしも、ゴブリンやコボルト程度の攻撃ではビクともしないのだ。
持ち上げたアイアンアックスを薙ぎ払ってやると、五匹のゴブリンの体が千切れた。
そのままアイアンアックスを手にして、俺はオークに跳びかかる。
振り下ろされる棍棒にアイアンアックスをぶつける。
当然STRの高い俺の方が競り勝つ。棍棒を吹き飛ばされて驚愕しているオークに、アイアンアックスを振り下ろした。
剣や槍と違って、繊細な剣捌きは必要ない。
STRの数値で叩き伏せるのみだ。非常に単純だ。
それだけでオークは切断され、次々と肉塊へと変わっていく。
戦士になることで比較的大きな個体は随分と楽に処理できた。
しかし、装備の重さが相まってか、ウルフなどの素早い魔物の処理効率が悪くなっている。
自慢の防具で攻撃は和らげられるものの、多少の衝撃は残る。被弾して少しずつ減っていくHPはストレスだ。
大型の魔物を減らした俺は、瞬装でグリーンシリーズを装備し、アイアンスピアを手に持った。
「転職、槍使い」
槍使いに転職を果たした俺は、アイアンスピアを振るう。
接近してきたブラックウルフの脳天を突き刺し、反対側から飛びついてきた二匹目には反対側の柄で殴打。頭蓋のへし折れる音が響き渡る。
そのまま槍を回し、遠心力を乗せた一撃でコボルトの頭を切り裂いた。
突いて良し、殴って良し、斬って良しの三拍子。
攻撃範囲が広く、取り回しのしやすい槍は、こういった多対一の状況で真価を発揮してくれる。
先程とは打って変わって、素早いウルフ系の魔物が殲滅されていく。
時折、オークやハイゴブリンといった巨体の魔物がやってくるが問題ない。
「連撃」
槍使いのスキルを発動すると、目にも止まらない速さで突きが繰り出される。
襲いかかってきたオークとハイゴブリンは穴だらけになって倒れた。
戦士に比べると一撃の重さは低いが、その分の手数がある。
それに戦士の鼓舞によるSTRの上昇は継続されている。槍使いの攻撃でも問題なかった。
そうやって転職を繰り返しながら戦うことしばらく。
「ゴアアアアアアアアアアアアッ!!」
突然、重厚な叫び声が上がった。
鼓膜と内臓を揺さぶるような大音量に思わず顔をしかめる。
声の方に視線をやると、群れの奥に鬼の魔物がいた。
錆色の肌に隆起した筋肉。手には石材を加工した大剣のようなものを手にしている。
オークよりも全体的に一回り小さいが、より洗練された力を感じ取った。
ハイオーガ
LV30
HP 420(+60)
MP 150/150(+60)
STR 320(+60)
INT 96(+60)
AGI 196(+60)
DEF 335(+60)
*魔物暴走の根源体のためステータスが大幅に上昇中
鑑定した瞬間、脳内でレベルアップの音が響いた。
恐らく鑑定士のジョブレベルが上がったのだろうが、今は戦闘中なのでどうでもいいことだ。
「スケルトンメイジが可愛らしく思えるな……」
一つや二つのステータスが突出しているならまだしも、全体的に高いってどういうことだ。
スケルトンメイジとは明らかに基礎値が違う。
ギルドの定める討伐ランクは低くてC、下手をすればBに迫るランクかもしれない。
比較的低レベルの魔物ばかりのラッセルの近くにいていい魔物じゃないだろ。
数々の固有職のお陰でレベルの割に高いステータスをしている俺だが、数値が負けているかもしれない。あるいはレベルアップによる上昇でトントンといったところか。
自分よりもステータスが上かもしれない相手と戦うのは初めてだ。
他に気になるのは魔物暴走根源体と表示されていることか。
つまり、あのハイオーガが魔物暴走を引き起こした魔物という認識でいいのだろう。
だとすると、あいつを倒すことで状況を終息できることが予想できる。
「ここであのハイオーガを仕留める」
適当に切り上げて街で迎撃する案もあったが、低ランクばかりの冒険者で迎撃するよりも、俺一人で仕留めて、魔物暴走を収束させる方が被害も少ないだろう。
俺は槍使いから魔法使いに転職し、瞬装で装備を纏った。
素早く火球を二十個ほど生成すると、周囲にいるゴブリンやコボルトにぶつけて掃討した。
あいつを相手にするには周囲の雑魚が邪魔だった。
鳴り響くレベルアップの音を無視しながら、火球を十個ほど作り上げてハイオーガに飛ばす。
ハイオーガは肉体を黄色いオーラで包むと、そのまま突進してきた。
火球が着弾しているが、皮膚が少し焼けた程度でまったく堪えた様子はない。
「なっ!」
巨体に見合わぬ速度と魔法を体で受け止めるという相手の選択に思わず動揺する。
が、すぐに火炎槍を三つほど生成して射出。
こちらは肉体で受け止めることはなかったが一つは回避され、残りの二つは薙ぎ払った大剣により消失させられてしまった。
ハイオーガはそのままこちらへ距離を詰めて、振り上げた大剣を叩きつけてくる。
なんとか後方に回避するものの地面に叩きつけられた衝撃で足元が激しく振動した。
まともに食らえれば、一発でアウトだろう。
「なんて脳筋プレイだ」
突出したDEFで攻撃を受け止め、突出したSTRでねじ伏せる。
戦士に転職して、オークやハイゴブリンを相手に俺がやっていたことだが、相手にされるとここまで厄介だとは思わなかった。
呆然としていたオークやハイゴブリンの気持ちが今になってわかる。
ショートワンドではなく、アークワンドならばINTがもっと上昇して魔法による有効打が与えられたかもしれないが、無いものを強請っても仕方があるまい。
受け身になって相手のペースに乗せられてはダメだ。
こっちの独壇場へと相手を引きずり込むんだ。
俺は転職師、多彩な固有職とスキルが持ち味。
だったら、こちらから仕掛けていくべきだ。
体勢を整え風刃を放ちながら、鋼の剣を引き抜いて駆け出す。
当然、風刃は大剣で弾かれるが、ただの牽制なので構わない。
接近してきた俺を迎撃するようにハイオーガは大剣を振り上げる。
そして、こちらに振り下ろそうとした瞬間に俺は一瞬だけ疾風を発動。
懐での急加速によって大剣は空を切って地面を叩いた。
股下に潜り込んだ俺は、ハイオーガの左足を斬りつける。
分厚いタイヤでも斬りつけたような感触。しっかりと剣が直撃したものの、肌を浅く斬りつけただけだ。有効打には程遠い。
「だったら手数を増やすまでだ」
俺は疾風を駆使し、剣撃を叩き込む。
スキルによる素早さの上昇と、緩急にハイオーガは翻弄されて俺についてくることができない。
気が付けばハイオーガの体には無数の斬撃がついており、いたるところで出血が見えた。
イケる。このままいけばハイオーガを削り切ることができる。
そう確信していた矢先、ハイオーガの傷口が突如として修復され出した。
新連載を始めました。
『田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている』
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異世界からやってきた女騎士との農業同居生活です。
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