臨時パーティー
グレンたちとパーティーを組んだ俺は、ラッセルの街から出て南西に進んでいた。
いつも受ける依頼は近くの森ばかりだったので、平原地帯にやってくるのは初めてである。
視界には一面に緑が広がっており、清々しいまでに青空に白い雲が悠々と浮かんでいる。
とても美しい光景であり、いいお散歩日和だ。この先にアンデットの湧いてくる平原があるとは思えないくらいだな。
「グレンさんは、どうやって剣士の固有職があると気付いたんですか?」
今日はせっかくパーティーを組んでいるんだ。
円滑に仕事をこなすためにも積極的に話しかける。
特にグレンは固有職持ちということもあって、色々と話を聞いてみたい。
「最初に力を自覚したのは六歳の時だったな。木の棒を振り回すと妙にしっくりときてよ、試しにステータスプレートを見てみると、固有職の欄に剣士って書いてあったんだ」
ふむ、どうやらグレンの場合生まれながらに固有職を授かっていたというわけでもないようだ。
その辺りの仕組みがどうなっているのかは知らないが、ある程度育った状態でも獲得することがあるようだ。興味深い。
「ツカサの場合はどうだったんだ?」
感心して聞いていると、今度はグレンから尋ねられる。
魔法使いの獲得の経緯が気になるのか、スミスやジレナも興味津々な様子でこちらを見つめていた。
「私が獲得したのはつい最近ですね。魔物に襲われて死にそうになった時、咄嗟に魔法の使い方がわかったというか……」
実際は転職師の力のお陰なので脚色が入っているが、決して嘘ではない。
「その前から魔力操作や魔法について学んでいたとかではなかったの?」
「まったく。ただの村人でした」
それまでは魔力や魔法なんてものとは、まったく縁がない世界にいたんだ。当然、魔法を扱う素養なんてなかった。
まあ、実際魔法使いの固有職がなくても、多少は魔法を扱うことができる。
とはいえ、固有職の者が扱う魔法に比べれば、威力や魔力効率は大きく劣るみたいだが。
「その年齢になって獲得したってのは珍しいな。固有職を持っている奴等は大抵、子供の時から持っているものだからな」
「そうなのですか」
どうやらこの世界での一般的な固有職の獲得は幼少期の頃が多いようだ。稀に俺のように大人になってからも獲得する者がいるようだが、どういった理屈なのか詳しく解明されていないようだ。
「固有職の話は、すればすれほど謎が多いですね」
「一説には教会が信仰している固有職神が与えられているとも言われている。が、実際のところはどうかわからん。気になるのはわかるが、あまり深入りし過ぎないようにな」
思わず呟くと、グレンが真剣な顔で言う。
どうやらそういった神を信仰している人の前で言うのはタブーのようだ。
「ご忠告ありがとうございます」
固有職に関する話をする時は、注意することにしよう。
「おっと、魔物のお出ましだな」
そんな風に雑談をしていると、グレンがいち早く魔物の気配に気付いた。
前方を見ると、二メートルほどの体躯をしたオークがこちらにやってきていた。
オーク
LV12
HP 88
MP 35/35
STR 66
INT 13
AGI 27
DEX 48
鑑定してみると、HP,STR、DEXが突出していた。
タフな身体とパワーで無理矢理押し込んでくる魔物って感じだな。
「オークが三体か。準備運動にちょうどいい。ツカサは後ろで俺たちの動きや戦い方を見ていてくれ」
「わかりました」
俺は今回の依頼のために臨時で同行しているに過ぎない。
いきなり戦闘をしても連携を合わせるのは難しい。
まずは三人の動きをしっかりと観察し、どのように動くか把握するのがいいだろう。
グレンの言い分に納得した俺は、駆け出した三人を見送ることにした。
俺以外の剣士がどんな風に立ち回るのか、楽しみだ。
「ゴオオオッ!」
オークが低い唸り声を上げて走ってくる。
最初に攻撃を仕掛けたのはジレナだ。
素早く矢を番えると、先頭のオークの顔目がけて発射する。
正面から飛来してくる矢をオークは棍棒で振り払った。
ちょっとしか牽制にしかならない攻撃だが、その動作のせいでグレンやスミスへの意識が逸れた。
「疾風」
その瞬間、グレンが加速する。
疾風とは剣士のジョブレベルが十になった瞬間に得られるスキルだ。
一秒ごとに魔力を五消費するが、AGIを二十%ほど上昇させることができる。
スキルにより加速したグレンは、オークの足元に入り込むと剣を横薙ぎに振るった。
「一閃」
グレンの強力な一撃に、オークの左足が切断された。
片方の足を失ったせいでバランスを崩してしまうオーク。
それを予期していたのかスミスは跳躍し、体勢を崩したオークの額に強烈な突きを入れた。
高いHPとDEXを誇るオークであるが、急所への一撃には堪らずダウン。
仲間がやられたことによる怒りか、二体のオークが猛烈な勢いで棍棒を振り下ろす。
グレンとスミスは軽快な動きでそれを回避すると、二手に分かれてそれぞれのオークを相手取った。
グレンが近づくと、オークは棍棒を持っていない左腕を振り払って押しのけようとする。
「疾風」
後退して離脱するかと思いきや、グレンはスキルを発動させて潜り込んだ。
オークの足を斬りつけると離脱。
「疾風」
そして、またスキルを発動させて側面に回ってオークを斬りつけた。
スキルを発動し、すぐに中断……そして、またすぐに発動させている。
「なるほど。ああいったタイミングで使えば、最小限の魔力消費で相手を翻弄することができるのか」
疾風の発動中はAGIを加速させることができるが、長時間発動していると魔力消費が激しい。
そのためグレンは一瞬だけ疾風を発動させ、動きに緩急をつけるための運用として使っているようだ。
急加速したかと思いきや、また普通の速度に戻る。その転調にオークはまったくついていくことができず、終始戦闘の主導権はグレンが握っていた。
やがて、グレンの攻撃に堪え切れなくなったオークが地面に沈んだ。
グレンの戦闘が終わり、もう一方に視線をやるとスミスとジレナが余裕をもってオークと対峙していた。
スミスはオークの棍棒を回避すると、華麗なやり捌きで膝裏、腱といった弱点部位を突いていく。チャラい見た目をしているが、意外と実直な戦い方をするものだ。
チクチクとした攻撃に苛立ちが募ったのだろう。
オークがスミスに怒りの眼差しを向けるが、飛来した矢が目を射貫いた。
目を射貫かれたオークは悲痛な叫び声を上げて目を覆う。
その隙をスミスが逃すはずもなく、オークの心臓部に槍を突き刺して倒した。
「どうだツカサ?」
戦闘が終わるとグレンが得意げな表情で聞いてくる。
「グレンさんが敵の懐に飛び込んで攪乱、スミスさんが丁寧な立ち回りで処理。ジレナはじっくりと後方で控え、相手を牽制しつつ、隙を見て急所射貫く……前衛と後衛がしっかりと役割を果たし、安定しているパーティーだと思いました」
「お、おお。改めてそんな風に言われると照れくさいな。
真面目にコメントし過ぎただろうか。でも、グレンだけじゃなく、スミスやジレナもちょっと嬉しそうだ。動きを褒められた気を悪くする人はいないので、いいだろう。
「まあ、大まかな動きはツカサの言う通り。魔法を使って援護する時は上手く合わせてくれると助かる」
「わかりました」
グレンは剣士の固有職を持っているお陰で突破力がある。
戦闘になった際は、彼の突破力を活かせるように邪魔者を排除するか、相手の動きを阻害するような援護をすれば良さそうだな。
スミスの方はグレンに比べると、攻撃力は足りないが実に堅実な戦いをする。
ある程度の隙を出させる魔法を飛ばせば、確実に敵を沈めてくれそうだ。
「また来たわ! オークが二体よ!」
グレンたちの戦闘を振り返って考えていると、ジレナの鋭い声が上がった。
俺たちの戦闘を聞きつけたのか、またしても前方からオークがやってきた。
「よし、今度はツカサの魔法を見せてくれ。うち漏らしても大丈夫だ。俺たちが控えているから気楽にな」
「わかりました」
オークとの距離は二十メートル以上ある。さすがにこれだけ近い距離で、あれだけデカい図体をしていれば魔法を外すことはない。
俺は足元にある土を媒介にして、大きな槍を二つ生成する。
お、レベルが上がってステータスが上がったお陰か少ない魔力で作れるようになっているな。
オークの巨体を一撃で貫けるように魔力を圧縮して硬度を上げると同時に、貫通力を上げるために先端を鋭利にしていく。
「岩槍」
魔法が完成すると、こちらに直進してくるオークに放った。
勢いよく撃ち出された岩槍は、二体のオークの腹をぶち抜く。
当然、オークはそれに堪え切れるはずもなく、崩れ落ちるように倒れた。
「こんな感じですかね」
「す、すげえ、これが【魔法使い】の力なのか!」
「あのタフなオークを一撃で倒しちまうとは……」
まさか一撃で倒せるとは思っていなかったのだろう。グレンとスミスが驚きの表情を浮かべていた。
「私、いらない子な気がしてきたわ」
そして、俺と同じ後衛に分類されるジレナが若干いじけ気味だった。
確かに完全に上位互換な気はするが、ジレナの冷静な観察力と、精密射撃による援護は非常に頼りになる。だからいじけないでほしい。
「ギルドで最速のランクアップを果たした新人の実力は伊達じゃないってことだな! 本番でも頼りにさせてもらうぜ?」
「任せてください」
グレンの笑みを浮かべながらの言葉に、俺はしっかりと頷くのだった。
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