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瞬装


 資金調達や食材調達などに奔走すること三日。


 ドランによる武具の調整が終わっているはずなので、それらを受け取るために彼の武具屋に向かうことにした。


 お店の入り口には閉店を示す看板が吊り下げられている。


 恐らく、大量発注した俺のために一時的に店を閉めてくれているのだろう。


 ノックして中に入ると、ドランと大量の装備が待ち受けていた。


 剣士、槍使い、魔法使い、盗賊といった各固有職に合わせた装備がマネキンに着せられて陳列されている。こうやって一連の装備を眺めると、かなりカッコイイ。


「おう、きたか。装備はできてるぜ」


「ありがとうございます。早速、試着させてもらいます」


 俺はそれらの装備に触れて、片っ端からアイテムボックスに収納していく。


「おいおい、全部収納しちまったら装備できねえだろ?」


 アイテムボックスについては既に説明しているので驚きはしないが、いきなり収納する意味が理解できないようだ。


「まあまあ。見ててください。すぐに装備できる裏技があるんですよ」


「裏技だぁ?」


 アイテムボックスのお陰でそれぞれの固有職に合わせた装備を持ち歩くことができるようになった。


 しかし、アイテムボックスの中に大量の装備を収納していても、すぐに取り出して装備できるわけではない。


 収納することはすぐにできても、ボックス内から取り出したものはバラバラに出てくるのでいちいち着脱する手間があるのだ。


 これでは戦っている最中に転職し、固有職にあった装備をすぐに纏って戦うことができない。


 だが、そんな問題を解決してくれる固有職があると俺は気付いた。


 口頭で説明するよりも実際に見せた方が早い。


 ドランが胡乱げな視線を向けてくる中、俺は転職師の力を発動する。


転職(ジョブチェンジ)、【戦士】」


 あらゆる武具を身に着け、肉弾戦で敵を粉砕する前衛職。


 スキルでSTRを高めてパワーファイターになったり、DEXを高めてディフェンシブな立ち回りもできる頼りになる固有職だ。


「で、戦士になってどうするんだ?」


「こうするんです。『瞬装』!」


 戦士のスキルを発動させると、俺の身体が光輝いた。


 と思った次の瞬間、戦士用の武具が俺の身体に装備されていた。


 オックスヘルム、ベスト、アーム、コイル、グリーヴとオックスという魔物の素材と鋼などを加工して作った防具だ。


 ヘルムには猛々しい角が生えており、赤を基調としたカラーリングがされているためにとてもパワフルな印象だ。


 武器はアイアンアックスという大きな斧を装備している。


「……すげえ速度の早着替えだな」


「早着替えはやめてください。『瞬装』です」


 そう言われると、すごくダサいスキルに思えてしまうので断じて拒否する。


「名前はどうでもいいが、一体どういう仕組みなんだ?」


「『瞬装』は傍にある自分の武具を一瞬で装備するスキルです。だったら俺の持つアイテムボックスも傍にある武具として認識されるかなーと思ってやってみたらできることに気付いたんです」


 本来であれば、自らが装備しているメイン武器とサブ武器なんかの入れ替えや、武器を落としてしまった時にすぐに拾えるためのスキルだろう。


 しかし、転職師のアイテムボックスを引き継いで利用できるために、このように荒業が使えるというわけである。


「ほおー、他の固有職のスキルとの合わせ技ってやつか。転職師とかいう固有職を持っているお前さんだからこそできる使い方だろうな」


 防具一つにつきDEFが+30されるのでDEFが+150されることになる。


 これはかなり心強い補正効果だ。


「で、戦士装備の着心地はどうだ?」


「まったく問題ないですね」


 今ならハイゴブリンの攻撃でさえ、受け止められるような自信さえあるほど。


 それほど全身装備に包まれている今の安心感は半端なかった。


「よし、他の装備も見せろ」


「わかりました」


 ドランに言われて俺は、戦士から槍使いに転職をする。


 その瞬間、俺は装備の重みによって身体が沈んだ。


「うごっ!?」


「なにやってんだ?」


「防具がすごく重いんです!」


「そりゃそうだろ。それはタフな肉体とスキル補正を持つ戦士のための防具だ。何に転職したかは知らねえが、ヤワな固有職だと重すぎて歩くこともできねえぞ」


 重さで潰れそうになっている俺を見て、ドランが呆れたように言う。


 それもそうか。戦士と槍使いの肉体強度が同じはずがない。


 肉体補正の弱い魔法使いとかに転職しなくて良かった。


「『瞬装』!」


 俺は急いで戦士スキルを発動させて、全身の装備を槍使いのものに切り替えた。


「ふう、危うく重さで死ぬところだった」


 重量級の装備を身に着けている時は、先に瞬装をしてから転職するのがいいな。


 槍使いの装備は、防具がグリーンメイル、アーム、コイル、グリーヴ。武器がアイアンスピアだ。地味にマントとかついているが、旅人装備をしていたためにさすがに慣れた。


 戦士に比べるとDEFの補正はそれぞれ+15とあまり高くない。


 しかし、槍使いは戦士と違って素早さを重視するスタイルだ。防具をガチガチに固めて、機動性を落としては意味がない。


 機動性を損なわない範囲でありながら防御力も保てるちょうどいい塩梅にしたつもりだ。


「本当に便利だな。そのスキル。どうだ? 違和感とかはあるか?」


「こちらも問題ありませんね。バッチリです」


 工房内で軽く歩いたり、跳ねたりしてみたがまったく問題はない。


 そうやって剣士、魔法使い、盗賊なんかも同じように感触を確かめていく。


 ドランによる装備の調整はバッチリなようで、どれも違和感はなく調整の必要はなかった。


「あとは実際に動いてみてどうかだな。もし、なにかあったらすぐに来い。調整してやる」


「ありがとうござます」


 俺はドランに各固有職の装備代金を払い、武具の感触を確かめるために冒険者ギルドに向かった。




 ●




 ギルドで討伐依頼を受けた俺はいつも通り、街の近くの森にやってきた。


 討伐目標はブラックウルフという魔物の討伐。


 Eランクの魔物で素早い攻撃と群れでの行動が特徴的な魔物だ。


 全体的なレベルやステータスはシルバーウルフよりも高いらしいが、今の俺のステータスと万全な装備体勢を考えれば問題ないだろう。


 討伐達成数は三十と多いが、今回はそれぞれの装備を確かめるのが趣旨なので、多い分に問題はない。


 森の中をズンズンと歩いていくと、やがて黒い体毛をした狼が五匹ほどうろついていた。



 ブラックウルフ

 LV7

 HP 45

 MP  22/22

 STR 26

 INT 18

 AGI 38

 DEX 24



 鑑定してみると、討伐目標であるブラックウルフの模様。


 五匹のブラックウルフはずっと固まって歩いている。


 集団行動が得意なだけあって、誰かが突出したり離れたりすることはないようだ。


 この間のゴブリンやコボルトのような各固撃破は難しそうだな。


 そこそこレベルが高く、AGIも少し高い。少し前の俺だったら固有職のスキルを使って撹乱し、正面からの戦闘を避けただろうが、ハイゴブリンとの戦いを経てレベルアップし、ステータスがかなり上がった今の俺なら正面からいっても問題ないだろう。


 俺は魔法使いから戦士へと転職。それと同時に瞬装を発動し、アイテムボックス内にある戦士装備をすぐに身に着けた。


戦士の鼓舞(ウォーリアーハウル)!」


 そして、戦士のスキルを発動。


 魔力を消費し、自らのSTRを一時的に20%高めることのできる技だ。


 赤いオーラのようなものが俺の身体を覆うと共に高揚感のようなものが増してくる。



 名前 アマシキ ツカサ 

 LV14

 種族 人族 

 性別 男 

 職業【戦士(転職師)】

 ジョブLV1 (転職師ジョブLV12)

 HP  227

 MP  960/1020

 STR 262 (+30)

 INT 189 (+20)

 AGI 195

 DEX 260 (+150)


『戦士の鼓舞』によりSTRが20%上昇中。継続時間は三分。


 ステータスを見ると、きちんとSTRが上昇していた。


 消費魔力40ほどか。それだけで三分間この状態が続くのなら悪くない。


 本来、戦士はHP、STR、DEFに特化する固有職だ。MPに対する恩恵は小さく、こういったスキルによる魔力消費は不得意なのであるが、他の固有職による恩恵を受けている俺の場合は別でガンガン使えるな。


 特に気配を消さずに近づいていくと、ブラックウルフがこちらに気付いた。


 ブラックウルフはうなり声を上げると、一直線にこちらに近づいてくる。


 意思疎通を図る時間などまったくない。統率のとれた動きだ。


戦士の投擲(オーバースロウ)!」


 俺は腰にぶら下げている手斧を二本手にすると、ブラックウルフ目がけて投げる。


 すると、縦回転して投擲された手斧は戦闘を走ってくるブラックウルフの頭を粉砕した。


 ブラックウルフの頭がなくなり、胴体が走り方を忘れたかのように地に沈む。


 そして、二匹のブラックウルフを粉砕した手斧は、グルグルと回って俺の手に戻ってきた。


「うわっ、すごい威力だな」


 ステータスが大幅に上がったせいだろう。小手調べに放った程度の技でブラックウルフを粉砕してしまった。


 手斧でこれなら、背負っているアイアンアックスを振り回したらどうなることやら。


 手斧を仕舞って、アイアンアックスを構えた。


 突撃してくるブラックウルフを迎撃するために待ち構える――が、相手急ブレーキを踏むと、こちらに背中を向けだした。


「は?」


 明らかなオーバーキルによって彼我の力量差を理解したのだろう。


 ブラックウルフが一目散に逃げようとする。魔物もそんな風に撤退なんてするのか。


 なんて感心している場合ではない。せっかくの討伐目標を逃がしてたまるものか。


戦士の叫び(ウォーリアークライ)!」


 前方に向かって攻撃的な赤い光が放たれる。


 これは相手にプレッシャーをかけて、注意を引くスキルだ。


 逃げようとしていたブラックウルフは、戦士の圧力によってどうしても相対せざるを得ない。


 しかし、本能では逃走したい気持ちが強いらしく、ブラックウルフたちの足並みが乱れた。


 明らかに隙だらけだったので一気に駆け出し、ブラックウルフ目がけてアイアンアックスを振るった。


 たった一撃であっさりと首や胴体を切断することができ、確かめるまでもなく三匹のブラックウルフは絶命した。それと同時にレベルアップの音が鳴り響く。




 名前 アマシキ ツカサ 

 LV14

 種族 人族 

 性別 男 

 職業【戦士(転職師)】

 ジョブLV3 (転職師ジョブLV12)

 HP  237

 MP  960/1035

 STR 229 (+30)

 INT 193 (+20)

 AGI 200

 DEF 270 (+150)


 ステータスを確認してみると、戦士のジョブレベルが二つ上がっていた。


 戦闘を終えたちょうどで『戦士の鼓舞』の効果が切れたのだろう。STRの数値が正常な物になっていた。


 HP、STR、DEFに恩恵が出るらしく、その三つの数値が上がっている。


 逆にMPやINTなんかはからっきしなせいか、他の固有職に比べると一番伸び率が悪い。まあ、こちらについては他の固有職で補えるので問題ないだろう。


「やっぱり装備が整っていると安定感が違うな」


 圧倒的なステータス差こそあったものの、しっかりとした武器や防具があるというのは有難い。


 状況に合わせて武器を使いわけられる上に、接近され攻撃を受けても何とかなるという安心感がある。


 その頼もしさはより俺を冷静にさせることができ、より安定したパフォーマンスを生み出すことができる。


「よし、このままドンドンと装備を試していくか!」


 俺は他の固有職に転職し、各々の装備を確認しながらブラックウルフを二十五匹討伐した。




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『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

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[一言] 縦回転して投擲された手斧は戦闘を走ってくるブラックウルフの頭を粉砕した。 →縦回転して投擲された手斧は先頭を走ってくるブラックウルフの頭を粉砕した。
[一言] 縦回転して投擲された手斧は戦闘を走ってくるブラックウルフの頭を粉砕した。 →縦回転して投擲された手斧は、先頭を走って来るブラックウルフの頭を粉砕した。
[一言] 魔法使いの装備もドランのお店で整えたのかな?
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